第17話 ユーグ・アルマイナー
学生の就活って、思った以上に大変(´・ω・`)
精神的なHPがガリガリ削られるよ………。
(社会人経験済みの大学っぽい4年制専門学生の嘆きwww)
というわけで、久々更新です(´・ω・`)
「美味いっ!美味いヨ~~っ!!」
半泣きしながら、料理を口一杯にかき込む男。
暗くなった野営地に灯る焚き火は1つだけだ。俺たちと一緒に食事を取る男は、ちゃっかり、俺が作ったものを食べていた。
「途中の村とか以外、携帯食ばかりでこんな温かくて美味しいご飯なんて、久しぶりに食べたヨ!
いやぁ、シオンくん、料理上手ダネ!」
「はぁ………、どうも……」
テンション高く喋る男に、俺は曖昧に笑った。
焚き火を挟んだ向かいに座るルディオスは、未だに警戒した眼差しを男に向け、カリナはいつも以上に無表情で、不機嫌そうだ。
早々に、俺の隣を取られたのが気にくわないらしい。
男は、ユーグ・アルマイナーと名乗った。
やや片言な話し方は、“外境”を超えた[西域]から来たから、まだ、言葉になれないらしい。
こちら側ーー[内海域]または、[中央域]と呼ばれるらしいーーの古い時代の遺跡などに興味があり、その勢いで考古学者になったそうだ。だが、家業を継がないといけなくなり、その傍らで仕方なく[西域]の遺跡などを調査したりしていたが、我慢できなくなった。家業も落ち着き、自分がいなくても回るようになったのを機に、周囲の反対を押し切って、単身、“外境”を越えてここまで来たという。
「いやぁ、“外境”はコッチに来る商隊に便乗させて貰ったんだけど、そっから先が足止めデネ!
危険だって聞いてたケド、単身で行けるんジャないかって、………甘かったネ~!」
ハッハッハッと笑うユーグ。
“外境”は、[内海域]と[西域]の間に広がる無秩序の人外魔境で、専門の商隊でもかなり危険のある場所らしい。あの町の外にあった“魔の森”ですら、まだ、レベルの低い土地だというから、その危険度は相当なものである。
[西域]でも、危険な土地として知られ、それを渡って[内海域]に行こうと思う者は少ない。
いや、[内海域]を知っている者すら少ないのが、[西域]の人々の現状であるそうだ。
ユーグが[内海域]を知っていたのは家業の関係で、[内海域]にいたという“聖なる存在”や“聖獣”に憧れて、学者になり、単身こちら側にまで来てしまった情熱はかなり凄いと思う。
俺たちと同じく辺境のあの町から[イオーリス]に向かう途中らしい、[カラチ平原]に入ってから、道に迷うわ、モンスターに追いかけられるわ、散々だったらしい。
よく生きてたな、この人。
というか、凄い行動力だ。ある意味、尊敬してしまいそうだ。
夕食を終えて、水場で食器などを洗い片付けてから、全員に香茶を入れる。
「うーん、いいねぇ。食後のお茶も一人だと味気ないんだよ」
ご満悦なユーグに、「はぁ……」と相槌を打つ。
「で、あんたはこれからどうするんだ?」
未だに警戒しているらしいルディオスが、口を開いた。その言葉に「そう、ソレ!」と、ユーグは勢い良くカップを突き出す。中身が若干零れた。
「せっかく出会えた縁に免じて、同行させて貰えないカナ?勿論、護衛料は払うヨ」
「あんたも護衛しろと?」
「“も”?………ってことは、他に護衛対象がいるのカイ?」
「えーと、一応、俺ですね…」
きょとんとしたユーグに、俺はおずおず答える。
俺を見たユーグは、納得したように両手をポンと打った。
いや、納得されるのも複雑なんだが。
「ナルホド!先約がいたなら、無理ダネ!……じゃ、護衛じゃなくて“同行”。シオンくん優先で、ちょっと危ないときに助けて貰えれば、どうカナ?
あ、もちろん、“護衛料”じゃなくて“迷惑料”は払うヨ?」
「ユーグさん、戦えるの?」
「オー!肉弾戦は無理デス!私は、コレね!」
取り出したのは、銃口が大きく少々歪な形の銃だった。拳銃というには大きく、銃身にはめ込まれた宝石が目を引く。
「コレは、[西域]の武器デス。“魔法銃”といいマスネ!私の一番慣れた武器デス」
「うわ、凄い。カッコいい!」
俺は、おもわず身を乗り出して、ユーグの出した銃を見た。“魔法銃”とか、ファンタジーすぎる。
「この石が、魔力を溜める魔石です。自然に魔力を集めるケド効率が悪いヨ。魔力補充は、魔術師に頼めば何回でも使えるヨ。
私の銃は、炎弾と氷弾が出せマス。コッチは、威力調整で、威力を大きくすれば、魔力を消費するネ」
意気揚々とユーグが説明する。
弱いモンスターなら炎弾で倒せるが、倒せない相手は氷弾で凍らせたり、足止めして逃げることで、なんとか凌いでいたという。
「[西域]は、こちらにはあまり知られてないから、こんな高度な魔法道具があるなんて………」
「オー!デモ、これらの技術は、元は[内海域]のモノ。古い平和な時代に、交流があった証拠ネ!」
ユーグの武器に呆然と呟いたカリナ。
ユーグは、ニコニコと嬉しそうにそう言った。
「大昔、[内海域]が不安定になって、多くの民や“聖なる存在”や“聖獣”が[西域]にきたネ。それらは、[西域]の人々は知らないけど、古い伝承になってたくさん残っているネ。たまに、古い遺跡を調査すると、その奥に、“聖獣”が眠ってたりするヨ。国で保護して、国のシンボルになった御方もイル。私が[内海域]に興味持ったのも、[内海域]から移住した民や種族の古い遺跡や伝承からダヨ!」
「へー………」
「初めて聞く話だな」
ユーグの話に、ルディオスも興味深そうだ。
「こっちでは、多くの“聖なる存在”や“聖獣”が姿を消したと言われているが、[西域]に逃れたと考えば、辻褄が合う」
「[西域]では、今でも“聖なる存在”は尊い存在として崇められているし、“聖獣”は畏敬されている。昔ほど多くはないけど、ちゃんと存在してるヨ」
「ふうん……」
思わぬ情報に、ルディオスたちが考え込む。まさか、今から変更して[西域]に行くとか言われたら、正直、かなり困る。
俺は、内心、ハラハラした。
俺としても、まぁ、興味がないわけではない。他の“聖なる存在”とやらを見てみたい気もする。
だか、今は[イオーリス]に行って、働くなりして生活基盤を立てるのが第一なのだ。
ルディオスたちの様子を見ると、[西域]に“聖なる存在”などがいると分かって、俄然、[西域]に興味を抱いたように見えるから怖い。
『シオン、ルディオスたちとて実力のある冒険者だ。“依頼”を途中で放り出すことはあるまい』
何故か、黒猫に姿を変えて、俺の膝の上で丸くなっていたクロガネが口を開いた。
ユーグがいる手前、返事が出来ない俺は、クロガネを撫でて、感謝を伝える。
「だから、一応、私は自分の身を守れるケド、ここは思った以上にモンスター強いネ。平原入ってから、護衛を撒いたのが痛かったヨ!」
「護衛?」
どうやらユーグは、[西域]では身分ある家柄出身らしい。彼の単独行動が多い為に、隠密的な護衛が付いているらしい。
元は、きちんとした護衛がいたが、遺跡などで“足手纏い”になるわ、あれこれ煩いわで、ユーグが撒くようになったそうだ。それで彼を心配した彼の身内が、陰から守る護衛をつけたらしい。
だがそれも、監視されているようで、どうにも息苦しくなり、時々撒いてしまうのだそうだ。
「護衛さんの苦労が目に浮かぶ……」
思わず、知らない護衛さんに同情する。
只でさえ、自由奔放にありすぎる行動力で、[西域]を出て[内海域]まで来ちゃう人に付き合って、遠くまで来る羽目になるわ。危険な地域なのに、当の本人に撒かれちゃうわ。
俺だって、非力で迷惑かけまくりだけど、ユーグほどじゃないよ!
本当、この人の護衛って、マジに苦労してるんだろうな。
見ない護衛さんにホロリと同情してたら、俺と同じく呆れた眼差しをユーグに向けたルディオスが溜め息を吐いた。カリナも、視線が冷ややかだ。
「シオン、どうする?」
「え?俺?!」
ルディオスが口を開き、俺に振る。
『ふむ。一応、シオンが“依頼主”だからな。シオンが決めるのが普通だ』
「そうなのか?」
クロガネが片目を開けて、俺を見上げるとそう言った。そう言われてもなぁと、俺は困惑する。
うーん、悪い人では無さそうだし、嘘を言っているようにも見えない。
なにせ、この辺りには盗賊がでるのだ。
ユーグが盗賊の仲間と仮定することも、可能性としてないわけではない。
『ふむ。………我から見ても悪い気配は無いようだ。盗賊なら、こんな怪しい奴より冒険者か商隊を装う方が疑われずに済むだろう』
「………まぁね」
俺は小さく頷いた。
クロガネの声は、ユーグには聞こえていない。
ルディオスたちが“翼種”で、クロガネの声も聞こえる特性を持つから忘れがちだが、端からすれば、俺が猫相手に独り言を言ってるようにしか見えないのだ。
「ルディオス、俺はいいと思うけど……」
「そうか、分かった」
おそるおそる言えば、ルディオスは頷く。
「オーー!シオンくん!!ありがとう!」
「うぇっ?!………ち、ちょっと……っ?!」
俺たちのやり取りを見ていたユーグは、パァッと顔を明るくして、俺の両手を掴むとブンブン上下に振った。
その勢いに、俺はついていけず、目を白黒させる。
「コレで、コレ以上道に迷うこともなくなるネ!
やっぱり村で情報仕入れなきゃダメだね。ユーキノを蒔くためにサッサと出たのが悪かったヨ!」
「いや、マジで?!」
おもわず、俺は叫んだ。
マトモな地図も情報もなく、[カラチ平原]に入った、だと!?
俺だって、ちゃんと情報仕入れたりしたのに。
「ここに“無謀”がいた、かな?」
「[内海域]の人間では、考えられない行動だな」
カリナとルディオスが、本気で呆れたらしく溜め息を吐く。どうやら、疑いは解けたらしい。
これが演技だったら、かなりのやり手だが。
俺は、ますますユーグの護衛の人に同情した。どうやら、ユーキノさんというらしい。
もし会えたら、せめて、温かい料理でも出してあけよう。
俺は、内心、思った。
「じゃあ、、“迷惑料”として、1人、金貨5枚でドウカナ?」
「はぃっ?!」
ニコニコ笑顔で言ったユーグに、俺は固まる。ルディオスも、カリナも、提示された金額の高さに驚いたらしく、目を見開いている。
「あ、もちろん[内海域]のお金ダヨ!安心しテ!」
「いや、違う。高すぎる!」
咄嗟に、ルディオスが言った。
確かに、俺の“依頼料”より遥かに高いのだ。
「あんたは“同行“だけだから、1人銀貨10枚が相場だろう」
「俺は、護衛される側だから、いらないよ」
俺も口を挟む。
まぁ、いらなくはないのだが、俺が出来ることなど、ほとんどないからな。貰うわけにはいかない。
ユーグは、きょとんと、ルディオスと俺を交互に見た。
「オーー!そんなに安いのデスか?!」
「俺たちも[イオーリス]に向かうついでだから、シオンでも、1人金貨1枚にしている。普通は、パーティ移動だからな。値段は上がるが、1人頭はもっと安くなる。だから、シオンの金額でも高い方だ」
「そんなに安い金額とは………」
ユーグがなにやら絶句する。
俺は、ふと、気づいた。というか、思い付きだ。
「ひょっとして、[西域]と[内海域]って、物価が違うとか?それで、お金の価値も違う?」
「なるほど……」
「俺も詳しくはないけど、ユーグさん、[西域]の物価ってどんな感じ?」
「どんなと言われてもネ~」
俺の問い掛けにユーグは、困ったように頭を掻いた。
「例えば、辺境の町の宿は、[西域]と比べてどうだった?」
「うーん、確か銀貨3枚くらいでスゴく安かったネ!びっくりしたヨ![西域]で似たような宿なら銀貨10枚はするネ」
「高っ!!」
おもわず叫ぶ。
ルディオスに後で確認したが、やは中くらいの宿はどこでも、銀貨3枚前後、高くても銀貨5枚ほどらしい。
ユーグに、他にも値段を比較して貰った結果、やはり、[西域]と[内海域]でのお金の価値が違うらしいことが分かった。
どうやら、こちらの金貨1枚はあちらの金貨より価値が遥かに高いらしい。
話し合いの末、ルディオスとカリナに銀貨20枚、俺に銀貨10枚を払ってくれることになった。
俺はいらないと言ったのだが、“食事代”として受け取ることになったのだ。
やはり、野宿で温かい料理を食べれるのは、かなり珍しいことららしい。さらに美味しいと大絶賛されれば悪い気はしない。
……いや、全然凝ってもいない一般的な料理しか作ってないんだけどなー。
ユーグの分も作るということで、お金を貰うことになったのだが、正直、食材に銀貨10枚も掛からないので、俺は儲けの方が大きい。
「まぁまぁ、では、ルーくん、カリナ、シオンくん、短い間だけど宜しくネ!」
にっこり笑ってそう言ったユーグに、憮然とするルディオス、なにやら楽しそうなカリナ、曖昧に苦笑する俺ーー反応は、3人三様だった。
こうして、新しい仲間が加わったのである。