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ワールドRe:トライ・セブンオーブ  作者: 下級魔術師17号
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第13話 旅立ち

 町を出る日になった。

 町に入ってから3泊、4日ほどしか滞在していないが、まぁ、長居する町ではないと思う。

 辺境だが、“外境”を越えたさらに西の国々との交易の為に商隊が行き来するようになって栄えた町だが、辺境ゆえに停滞した側面ももつ。

 それが、辺境で生まれ育ち、町に来た者たちだ。

 辺境ゆえに危険が多いし、大きな街は遠い。

 だから、運良く商隊について町を出る機会がない限り、町から出ることが出来ないのだ。

 そう考えると、俺は、運がよいのだとつくづく思う。

 ルディオスたちがいなければ、この町に長期滞在する可能性だってあったし、働くことになったら、さらに町から出ることは難しかっただろう。


 早朝に宿を出る。

 昨日、ルディオスたちと買い物に回った後、厨房を借りて、簡単な料理を試してみた。

 記憶は無くても、身体は覚えているとはよく言ったもので、自然に出来たし、俺の謎な記憶知識もあっさりとレシピを思い出せた。

 まぁ、調味料を買ったときも、必要なものは分かったし、相変わらず謎の多い記憶喪失だ。

 どちらかといえば、“健忘症”に近いのか?

 どちらにしても“忘れている”時点で、意味がないか。どうでもよい記憶は出てくるが、肝心な部分はまったく出てこないのだから。


 入ってきた時とは反対の城門の前で、ルディオスとカリナと合流する。

 広げた地図は、“ギルド”で手に入れたものだ。


 「この町からしばらくは丘陵地が続くが、すぐに“カラチ平原”に入る。カラチ平原は、荒れ地で草木が少ない」

 「“カラチ平原”までは、3日くらい、かな?シオンの体力次第だけど」

 「体力かぁ……自信ないな」


 俺は、溜め息を吐いた。


 「シオンもだが、カリナもまだ体力は無い。急ぐ旅ではないから、のんびり行けばいい」

 『むぅ、疲れたら、我に乗ればいいだろう?』


 ルディオスが慰めるように言うと、クロガネがむくれたように声を上げた。


 「あ、そっか…」

 『まぁ、我は大きいから、その小娘も乗せるのはやぶさかではないぞ?』

 「うん、そうだね。なるべく歩くけど、クロガネ、疲れたら宜しく」

 『遠慮することはないぞ?』


 残念そうに言うクロガネに、俺は苦笑する。

 今後の為にも体力を付けたいので、出来る限りは歩きたいと思うのだが、クロガネは俺に甘い。


 「町を出て、“カラチ平原”辺りまではルートが決まっている。他の旅人に会う可能性が高い」

 「あー、じゃあ、それまではクロガネは、猫のままじゃないと、変な噂になるか」

 「獅子に戻っても、大きさを小さくすれば、問題ないかな。“従獣”とすれば、街にも入れるけど……」

 『我に“従獣”になれと?……良い度胸だな』


 カリナがちらりと、俺の腕の中にいるクロガネを見る。クロガネは、不機嫌に尻尾をバシバシさせて、カリナを睨み付けた。

 どうやら、“聖獣”はプライドが高いらしい。


 「クロガネは、猫の姿が可愛いし似合ってるから、人の多い場所や町では、この姿でいてよ。猫なら、旅人が連れてても不自然じゃないだろ?

 それに、怖がられたくはないだろうし」

 『む、………うむ。まぁ、シオンがそう言うのなら、仕方がない』


 なにやら機嫌が治ったらしく、喉をゴロゴロ鳴らして、クロガネは俺にすり寄る。

 俺は、クロガネを撫でた。


 「………シオンは、クロガネに甘いわ」


 何故か、カリナがむぅとむくれて、言った。

 俺は宥めるように、カリナの頭を撫でる。すると、カリナは、俺の片腕にしがみついた。


 『シオンから離れろ、小娘』

 「それはこっちのセリフ、かな?」


 クロガネとカリナの間で火花が散る。

 俺は、1人と一匹のやりとりに挟まれて、おもわず溜め息を吐く。まぁ、懐いてくれるのは嬉しいが、どうもこの1人と一匹(ふたり)、事あるごとに対立するのだ。

 不意に手が伸びてきて、俺からクロガネを取り上げる。見れば、呆れたような顔をしたルディオスで、取り上げたクロガネをカリナへて放り投げる。


 「喧嘩はいいが、迷惑にならないようにやれ」


 一言そう言うと、ルディオスは俺を促して歩き出す。俺は、カリナたちを振り返り見てから、ルディオスに続いた。

 クロガネを抱いたままのカリナが、きちんと付いてくるのを確認して、俺は、ルディオスの隣に並んだ。

 長身のルディオスと並ぶと、まるで大人と子供のようだ。

 俺だって、一応目測では170㎝以上はあるのだが、ルディオスは見た感じ190㎝近くあるようだ。

 少しコンプレックスが刺激されるが、町にいても、俺より背が高い人間は男女共に結構いたので、今更である。

 

 城門を抜けると、なだらかな緑の丘陵地へと道が伸びていた。道なりに並ぶ木々や時々ある小さな茂みが、丘陵地を彩っていた。

 後ろで、カリナとクロガネがなにやら話しているようだが、俺とルディオスは、黙々と歩く。

 悪い沈黙ではない。

 天気が良く、気候も悪くないので、歩くにはちょうどいい感じだった。


 「そういや、今の季節って……」


 ふと、俺が呟くと、ルディオスがこちらを見た。


 「今は、五の月だ。雨も少なく一番気候のよい時期になる。場所にもよるが、この辺りは六の月の半ばから雨季になるな。

 [イオーリス]周辺は、五の月の終わりから六の月に掛けて“銀雨”という雨季がある。雨季を過ぎれば、夏になるがそこまで暑くはない」

 「四季があるのか……」

 「この北西5国は、割と四季がはっきりしているが、[帝国]や[皇国]は、領土が広大な為、場所や地方によっては、乾期と雨期しかないとか様々だ」


 ルディオスが説明してくれる。

 恥ついでに聞けば、6日で一週間、5週間30日で1ヶ月、一年は12ヶ月で、年末年始に[空白の5日間]という数えない祭日があるらしい。

 前の2日が年納め、後の3日が新年にあたるそうだ。この5日間は、どの国も盛大な祭りとなり、年越しと新年を祝うらしい。


 そうこうしている内に日が高くなった。

 情けない話だが、すぐに体力がなくなる俺の為に、すでに何度か休憩を入れながら歩いている。


 ルディオスが地図を広げる。

 城門で見た地図とは違うものだ。聞けば、町からカラチ平原に入る手前にある村までの詳細な地図らしい。

 カラチ平原からライハ渓谷までは地図が無い。

 一応のルートはあるのだが、危険地帯なので確実な道はないという。


 「ライハ渓谷にある[クーイール]の街からは、[ウミナハス王国]の守護結界の領域に入るかな」

 「守護結界?」

 「外敵からの守護の壁だ。王都を中心に、王国領土をほぼ覆っているが、全土は無理だ。どうやっても、ここのようにあぶれる土地がある。国境地域なら、代わりに辺境騎士団が守護につくが、国境に面していない西側は“外境”と呼ばれて、無法地帯となる」

 

 うん?あれ?……町で使われていた“外境”という意味と違わないか?

 俺は、首を傾げる。


 「あの町が、この国の最西端かな。

 [クーイール]から内側では、渓谷から西側も纏めて“外境”とするけど、この地域の人は、ここを“西辺境”と呼んで、あの町から外側を“外境”と呼ぶ、かな。

 “外境”を越えた西の国々があるって知ってるのは、交易する商人とこの地域の人々くらい。まぁ、国の承認があるみたいだから、[ウミナハス王国]の中枢は知ってる上で、民間間での交易を許可しているだろうけど」

 「うーん、なるほど………」


 地域によっての認識の差があるようだ。

 

 「この丘陵地には、小さな村が点在しているが、街道から離れている所が多い。寄れるのは、カラチ平原に入る前の村を含めて、2カ所か……」

 「カラチ平原に入ったら、村は無いかな」

 「えーと、カラチ平原を越えるのはどれくらい掛かるんだ?」


 何度目かの休憩で、早めの昼食にすることになり、俺は、鞄から包みを出す。

 小さな焚き火を作り、簡易のコンロを配置し、その上に小さな薬缶を乗せた。

 その横で、地図を広げるルディオスとカリナ。

 俺は、三人分の軽石(プライストーン)の皿とカップを取り出すと、鞄から出した包みを広げて盛り付ける。作り置きしておいた3人分のサンドイッチだ。


 俺の魔法鞄(マジックバック)は、どうやら入れたときの状態のままを保つ機能があるらしい。

 町にいたとき、たまたま買って入れておいた屋台の串焼きを、後で取り出した時、入れたときの焼き立てのままだったのだ。


 果物や野菜でも状態を保つので、腐ることはない。だから、食器や乾物などはカリナやルディオスが持ち、食糧を中心に俺が持つことになった。

 昨日、宿屋の厨房を借りて、手軽に食べれるものを纏めて作ったら、料理人の親父がレシピを欲しがり、交換条件で鍋一杯のスープや幾つかの料理を作ってもらった。

 量は多くないが、数日分はあるだろう。

 ルディオスたちにはまだ言っていないが、カラチ平原から野宿が続くなら、調理できないことも出てくるかもしれないし、役に立つはずだ。


 「カラチ平原は、だいたい10日前後かな」

 「そこから、[サキテノ山脈]の山地に入っていき、山間のライハ渓谷まではまた数日掛かる」

 「シオンは、防寒着は持ってるかな?」

 「え?いや、無い」

 「なら、途中で買う必要がある。[サキテノ山脈]は夏でも寒い場所だ。[クーイール]の街は、結界の効力でそうでもないが、カラチ平原を越えた辺りからは防寒着が必要になる」


 俺は、カップにお湯を注ぎながら、ルディオスの言葉に考える。

 カラチ平原では、なるべく食材を調理するとして、山に入ると調理は難しいし、寒いとなると暖かいものを食べたくなるだろう。

 立ち寄る村で、また、スープを鍋一杯作ってもらうとか、作り置きをしておく必要があるな。


 「うわぁ!美味しそう!」


 俺が渡したサンドイッチに、カリナが目を輝かせる。レタスとトマトなどを使ったサラダサンドとタマゴサンド、屋台で売っていた鶏肉の照り焼きを使ったサンドの3種類に、香茶と一番で買った“ユユの実”という、やや固めの食感に梨に似た甘さの果実。

 クロガネには、ルクムの実とユユの実を一つ一つずつやる。


 「これは、作り置きしたのか?」

 「ああ、昨日、厨房を借りて作った。俺の鞄、保存が効くけど、量は持てないから……」

 「……美味いな。これだけ作れれば、食事が楽しみだ」


 ルディオスが珍しく笑顔を浮かべた。

 ルディオスも、カリナも、種族特性なのか、美形なのに、基本的に表情が出ないタイプらしい。

 カリナは、ほぼ無表情だ。

 こうして、満面の笑みでサンドイッチを頬張るなど、かなりレアな気がする。

 

 『ふむ。……胃袋を掴んだな』

 「クロガネ、その言い方はちょっと……」


 ぼそりと呟いたクロガネに、俺は、から笑いするしかなかった。


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