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ワールドRe:トライ・セブンオーブ  作者: 下級魔術師17号
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第11話 依頼

 銀髪青目の美形剣士は、ルディオス。

 連れの少女は、カリナといい、先攻(シーフ)ではなく、精霊術師(エレメント)だった。

 見た目は十代前半くらい。綺麗な茜色の髪をツインテールで結い上げ、明るい緑の目をしている。

 あまり表情が出ないみたいだが、ややたれ目がちで、おっとりとした可愛らしい少女である。

 どうやら、彼女も“翼種”のようだ。

 明るい緑色のワンピースに黄色のタイツとショートブーツ。革製の小さなリュックを背負っている。

 白地に緑の唐草模様が入ったフード付きの外套(マント)を上から身につけていた。


 「あ、あの、困ります!依頼は、こちらを通して頂かないと……!」

 「そうなの?でも、あらか様に断ろうとしてたよね?なら、個人で受けても問題ないかな。

 それに、私たちは[イオーリス]の冒険者。こちらのギルドを通す必要はない。だって、ここ、“ギルド”と言っても、冒険者ギルドに加入している訳じゃないし………」


 カウンターから受付嬢が、困ったように言うが、それを少女ーーカリナがぴしゃりと叩き切る。


 「お前は?」

 「俺は、シオン。こっちがクロガネ」


 ルディオスは背が高いので、自然とこちらを見下げる形になる。鋭い青の眼光に、俺は、少しビビりながらも、短い問い掛けに答える。


 「……“オン”の音を持つか……」と、ルディオスが呟いた。うん?なんか前にも聞いた感じが………。


 「まぁ、いい。……さっきも言った通り、オレたちも[イオーリス]に移動する予定だ。最近、あちらへの護衛依頼は少ないから、護衛料2人で金貨2枚でどうだ?

 野宿が基本になるから、野宿の準備と食料をそちらが負担してくれれば、あとは自己負担だ」

 「野宿ですか。……俺は、隠居していた祖父の家から出てきたばかりで、詳しくは分からないんです。 事前に買うということですよね?」

 「ああ、一緒に回ればいい。荷物は、オレもカリナも“魔法鞄”持ちだから心配するな」


 そう言うルディオスに、俺は頷いた。

 横では、受付嬢相手にカリナが淡々と言い合っている。どうやら、カリナに歩がありそうだ。


 『ふむ。なかなか良いのではないか、シオン』


 俺の腕の中で大人しくしていたクロガネが言う。

 それは俺も思っていたので、小さく頷き、最後の質問をする。


 「護衛料は、前払い?」

 「いや、そうだな。前払いで銀貨10枚。後はあちらに着いてからの成功報酬でいい」

 「……分かりました。

 俺は、隠居していた祖父の元で育ったので、世間をあまり知らないし、戦えない。足手纏いになるかとは思うけど、出来うる限りは協力します。

 それでよければ、[イオーリス]まで一緒にお願い出来ますか?」


 敢えて、“足手纏い”を強調する。

 すると、ルディオスはニヤリと笑った。 


 「心配するな。お前1人くらい、十分に護れる力量がなければ申し出ないさ。

 オレも、カリナも、実力はある。なんなら、カードを提示してもいい」

 「いえ、大丈夫。信じます。

 短い間ですが、宜しくお願いします」


 俺は、ルディオスに頭を下げた。

 すると、ルディオスが俺の頭を乱暴に一撫でする。


 「頭を下げるな。これは“対等”の依頼だ。

 こちらにも利益があるから、受けたんだ。これから、しばらく一緒に行動するなら、尚更だ」

 「えーと、はい。………じゃなくて、うん」

 「とりあえず、夕食にはまだ早いな。これからの詳細を話すなら、どこかでお茶にするか」


 「カリナ!」と、ルディオスが呼ぶと、ぐったりした受付嬢と何故か、広げていた地図を手にして、カリナがこちらに来る。

 「勝った………!ブイ!」と、ピースをするカリナ。その表情は変わらないが、どこか得意げである。

 地図は言い合いの末の“戦利品”らしい。


 「護衛の依頼を受けた。シオンとクロガネだ」

 「あたしは、カリナ。よろしく。“尊きお方”」


 ルディオスの簡単な説明に、カリナはこちらを向いて言った。

 俺は、おもわず言葉に詰まる。


 『むぅ。……さすがは“翼種”だな。そなたのことを見抜いているようだ』


 クロガネが言えば、カリナの視線がクロガネに移動する。


 「“守護”の黒獅子が“猫”になっているなんて、初めて見た、かな。面白いね」

 『我とて好きでなっているわけではないぞ、小娘。シオンが言うから、この姿でおるのだ!』

 「いや、だって……、クロガネがアレだと目立つじゃん」

 「獅子、別に小さくなるだけで良かったんじゃない、かな?」

 『ぐっ………この姿の方が愛嬌あってよいであろう!自然で可愛いのだぞ?』

 「自分で“可愛い”とか言う自意識過剰、かな」


 バチバチと、カリナとクロガネの間で火花が散る。

 そう言えば、自然にクロガネとカリナが話しているな。クロガネの“思念(こえ)”って、普通、聞こえないはずなのに。


 「分かっている(・・・・・・)ようだが、オレたちは、“聖獣”の声を聞く事ができる」


 ルディオスはそう言うと、俺からクロガネを取り上げてカリナに渡した。そして、俺の腕を取るとさっさと歩き出す。

 出入り口で立ち止まり、ルディオスは、残された1人と一匹に「行くぞ」と、声を掛けた。

 クロガネは、カリナの腕の中できょとんとし、カリナは、ルディオスの言葉に慌てて追い掛ける。

 そのまま、3人(と一匹)でギルドを出た。

 通りを歩いて、小さな広場にあるカフェに入って、それぞれに注文する。

 ルディオスの歩幅に付いていくのがやっとだった俺は、ようやく解放されて、ホッと息を吐いた。


 「すまない。疲れたか?」


 俺の様子に、ルディオスがすまなそうに言う。


 「いや、大丈夫。それで、えーと、………正直、あんまり分かってないんだけど………」

 「そうなのか?だが、オレたちが“翼種”だと、分かっていただろう?」


 声を潜めて、ルディオスが探るように俺を見る。


 「数百年前に姿を消した“黒獅子”と、間違いなく古き尊き血を引く“聖なる存在”が、こんな辺境に現れるなんて、前代未聞だ。

 しかも、[イオーリス]に行きたいなんて、一体、どういうことだ?」


 俺は困って、クロガネを見た。

 カリナの隣に座る黒猫は、俺の視線に『まぁ、正直に話すしかないな』と、あっさりのたまう。

 俺は、「うーん………」と、悩んだ。

 いや、話すのはいいのだ。ここまでバレていて、適当な“設定(でっち上げ)”を貫く気はない。

 だが、話して信じられるかが非常に怪しい。なにせ、俺自身、分かっていないことだらけなのだ。


 「なんというか………。正直に話すけど、信じられない話になるかもしれない………」

 「どう言うことだ?」 


 こちらを見て、目を細めるルディオス。

 いや、眼光が鋭くて、怖いですよ。ルディオスさん。頼む。威嚇しないでくれ!


 俺は、内心、ビビりながらも、これまでの経緯を話すことにした。

 まぁ、大したことではない。俺が、“記憶喪失”なことや、何故か時々“知らない”知識が浮かんだりする事。気付いたら丘にいて、野獣に襲われ、神殿跡に逃げ込んだらクロガネに会ったこと。

 そこから、町に来たこと。

 そんなに大した目的もなければ、重い過去もない。ただ、成り行きだけで今に至るのだ。


 『我は、“宝玉(オーブ)”を探し出すことを薦めているが、シオンは乗り気ではない』

 「というか、何にも分からないからなぁ。まずは、きちんと生活できるようにしないと、どうしようもないだろ?

 別に、探さないとは言ってないよ。なんとなくだけど、多分、自分に関わる物であるなぁとは思うし………」

 「それで、[イオーリス]か。なるほど、理解した。確かに、[イオーリス]辺りなら、情報も手に入りやすいだろう」


 ルディオスは、納得したように言った。

 聞けば、俺が“聖なる存在”であることは間違いないらしい。

 “翼種”は、聖なる存在に作られた種族のため、聖なる存在や聖獣を見分ける事ができるそうだ。

 ただ、この時代、“聖なる存在”は希有で、大国である[帝国]や[皇国]がこぞって探しているらしい。


 「“宝玉”は、かつて、この内海全域を治めた[統一王国]の至宝だ。“王国”の王や王族は、“神”が創り給うた“聖なる存在”であり、最も古き尊き血筋であり、“神”から賜りし“宝玉(オーブ)”の唯一の使い手だという。

 王の一族で、全ての“宝玉”を使える者が“王”となる。………黒獅子が言うなら、シオンには“王”の素質があるのだろう」

 「いや、そんな大それたこと……」

 「だが、シオンが“宝玉”を扱えるなら、見つかれば[帝国]も[皇国]も黙ってはいないだろう」

 「うぇぇ~、なんか面倒臭い………」

 「まぁ、“聖獣”や“翼種”でなければ、“聖なる存在”の見分けはつかない。だから、そうそうバレる心配はないだろうが、な」


 うなだれる俺に、ルディオスが苦笑した。

 ちなみに、護衛については、前金の銀貨10枚を払い、ついでに[イオーリス]に着くまでの食事代は全部負担することにした。

 ルディオスやカリナは、料理ができない。[イオーリス]からこの町に来るときは、商隊の護衛を受けて来たので食事は問題なかったらしい。

 そんなわけで野宿時の食事の調理を、俺がする事になったので、まぁ、纏めて作れば食費も抑えられるだろう。

 野宿での調理は初めてだが、簡単な料理くらいなら出来る、と思う。やった記憶はないが、記憶を失う前に多少はやっていたのかもしれない。

 ただ、調理道具や調味料は無いので、買わないといけないだろう。

 そう言えば、「まぁ、やってみればいい」と、ルディオスが言った。

 あまり期待されていないようなのが、少し悔しいな。宿の厨房を借りて、一度試してみるか?

 そう思いながらも細かな分担を決め、明日、必要なものを一緒に買うことになった。


 「とりあえず、宿屋はどこだ?」

 「ああ、そこの[コマドリ亭]っていう小さな宿だよ」

 「この町では、良心的な宿屋かな。私たちたちの[オシドリ亭]とは、親戚だって聞いた」

 「一階が食堂だから、夕食とか食べれるし、なかなか美味しいよ。ボリュームがあるし」

 「いいなー。[オシドリ亭]は、宿だけかな」

 「食堂だから、食べるだけでもいいんじゃないか?もし良かったら、今日は、一緒に食べる?」

 「ヤッタ!奢り!」

 「……いや、まだ、町を出てない。各自払いだ、カリナ」

 「がーん……っ!!」


 ルディオスの言葉に、がっくりと肩を落とすカリナ。その様子に、俺は苦笑した。

 そんな雑談をして、時間を潰していると、1人カフェに入ってきた客が、俺たちのテーブルの前に立った。

 十代半ばの小柄な少年だ。

 見事な金髪に獣のような耳、やや大きめの茶色いの目は気が強そうだ。

 和風な前合わせの白い上着に深い青のズボン。その上に、胸当てや肘当てなどの軽武装をし、短いケープタイプの外套を羽織っている。背中にはロングボウの弓と矢筒を背負い、革製のウエストバックにベルト、ベルトにはポーチとショートソードが吊されている。

 

 「プレイ、どうしたの?」


 カリナが首を傾げる。

 聞き覚えがあるなと思い、俺は、昼のオープンカフェで言い合いをしていた少年だと思い出す。


 「そいつは、なんですか?!」


 プレイと呼ばれた少年は、キッと俺を睨みつけて声を上げた。ルディオスは、溜め息を吐く。


 「プレイには関係ない。それとも、一緒に[イオーリス]に行くつもりか?」

 「それは……もう少し考えさせてください」


 ルディオスの言葉に、プレイは怯んだように言葉を切る。そして、俯くと小さく言った。


 「オレたちは、明後日には町を出る。そのときには、こちらのシオンも一緒だ。

 一緒に来るつもりなら、それまでに考えておけ」

 「……っ!なんで、そんな役に立ちそうにない奴も一緒なんですか!? 

 完全に足手纏いでしょっ?!」

 「プレイには、関係ないかな?……まだ、私たちと“組む”ワケじゃないのに、“部外者”が口挟むことじゃない、かな」


 声を上げたプレイに、カリナが冷たく言い放つ。

 俺は、プレイの言い様に内心ムッとしたが、足手纏いは確かなので、何も言えなかった。

 役には立たないが、一応、“依頼者”だから一緒なんだが、まぁ、正直、こいつは雇いたくないな。

 プレイは、ぐっと言葉を飲み込む。

 だが、すぐに俺を睨みつけて、「僕は認めないからなっ!」と、捨てゼリフと共に店を出て行った。


 『ふむ。若いな……』

 「そうか?……というか、“依頼者“だって発想はないのか、あれ………」


 プレイを見送ったクロガネがしみじみと言い、俺は半分呆れながら、呟いた。

 そのときは、“迷惑な乱入者”程度でそんなに気にはしなかった。ルディオスたちと一緒に夕食を取って、たのしい時間を過ごしたら、忘れてしまった。


 だが。


 翌朝、再び、対峙することになるとは、このとき、俺は、考えてなかったのだ。


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