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ワールドRe:トライ・セブンオーブ  作者: 下級魔術師17号
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第10話 ギルド

 “翼種(よくしゅ)”とは、その名の通り、“翼”をもつ種族だ。

 植物を育てて薬草や治癒に長けた純白と武芸に長けた好戦的な黒、手先が器用で技巧に長けた青、精霊と語り合い魔法に長けた緑と、翼の色や多少の身体的特徴がある有翼種族である。

 彼らの共通点は、生涯の“(あるじ)”を探し求めること。

 ただし、“主”としては、“聖なる存在”が最上であり、“聖なる存在”を主とした翼種は、一族でも高い名誉を与えられるらしい。


 『まぁ、“王国”が滅びてからは、彼らも“台地”に引き籠もり、滅多に見ることはないな。一時期、彼らの特性を利用し、奴隷として酷い扱いを受けたらしくてな。人間を毛嫌いしているらしいぞ?』

 「あー、そうなんだ」


 俺は、町のメイン通りを歩きながら、クロガネから“翼種”について聞いていた。

 どうやら、珍しい種族らしい。

 

 『冒険者になっている辺り、“黒翼(コクヨク)”だろうな』

 「銀髪のあの見た目に、黒い翼か。かっこ良すぎるだろ、それ」

 『“翼種”は、見た目が麗しい種族だからな。大昔の力ある“聖なる存在”が作り出したと言われる。自身に仕える者として、見目麗しく作ったらしい』

 「…………“聖なる存在”って………」


 種族とか作ってしまうとかって、”神“か?

 いやでも、クロガネは、確か“俺”も“聖なる存在”とかって言ってなかったか?

 あれか?ピンキリあるのか?


 『“神”ではないぞ。大昔の“聖なる存在”は、とんでもない“力“を持っていたそうだ。無論、シオンも“宝玉“を全て集めれば、そのくらいの力を持てるはずだ。なにせ、尊き血筋の末裔だからな』

 「いやいやいや、それはない……!」


 クロガネの言葉を否定する。

 記憶が無くとも、俺は、普通の非力な一般人だ。

 そんな大それた存在ではない。

 というか、やっぱり“宝玉(オーブ)“を探さないといけないのか?フラグか?

 まぁ、どうやら俺自身を探る上で、重要なアイテムらしいけど、言ってるのはあくまでクロガネのみ。まぁ、俺自身、“宝玉(オーブ)“に関しての謎知識人があるみたいだから、関係無くはないのだろうけど。

 うぅ、なんか面倒な感じがして、乗り気じゃないんだよなぁ。

 でも、流れ的に“宝玉“探しする感じてだよなぁ。


 溜め息を吐きながら歩いていたら、無事にギルド前に着いた。

 小さな町なので、割とすぐに目的地に着いてしまう。他の酒場と比べると、やや大きな2階建ての店だ。午後もまだ日の高い時間なので、周囲にたむろしている人間はいない。

 俺は、意を決して、ギルドに入った。

 できれば、ここまで来る途中の通りに本屋とかあれば良かったのだが、この町に本屋はないらしい。

 書籍も取扱う雑貨屋ならあったが、地図などは“ギルド”で扱っているらしかった。

 というか、この町、冒険者ギルドしかないのだ。

 途中で寄った雑貨屋で確認したんだが、普通は“ギルド”にもやはり種類があるらしい。だが、この町にあるのは、冒険者ギルドだけなので、“ギルド”のみで話が通るらしい。

 

 「中は意外に広く綺麗だった……」


 おもわず呟く。

 入ると広い店内は、右手に受付らしいカウンターが2、3つあった。端の低めの台のカウンターは、買い取り専用らしい。 

 窓際に並んだ掲示板は、依頼書が無数に貼られている。

 入り口から左側は、幾つかの円テーブルと椅子が置かれ、その奥にカウンターがあり、酒場というか、カフェっぽい感じだった。仕切りに区切られた一角は、ちょっとした商談とかに使うのだろうか。

 

 『ふむ。昼間はカフェ、夕方から酒場と時間帯で分けているらしいな』


 まぉ、昼間から酒を呑むとか、イメージが悪すぎるもんな。でも、見る限り昼間でも、安い麦酒(エール)は出すみたいだ。


 『麦酒(エール)か。我は、大麦酒(ビアー)の方が濃くて好きだな』

 「いや、大麦酒(ビアー)って高価だよね?」


 あれだよね。多分、発泡酒と生ビールの違いみたいな感じか!

 うちの父親は、生ビール派だったから、発泡酒ってあんまり飲まなかったんだよね………って、俺、今、サラリと思い出したな。

 まぁ、父親について顔も思い出せないんだが、こういう無駄な記憶が浮上するってことは、完全な記憶喪失じゃないんだろうな。

 クロガネが言っていたように、記憶を封じられている線が強いのかもしれない。

 でも、なんか、いろいろ混ざってるんだよなぁ。

 なんなんだろ、俺。


 『…………大丈夫か、シオン?』

 「あー、うん。大丈夫……多分」


 入った所で立ち止まってしまった俺を、クロガネが心配そうに見上げている。

 俺は、クロガネを抱き上げて、カウンターの1つに向かった。

 今は考えている場合じゃない。

 カウンターには、焦げ茶色の垂れた犬耳をした女性がいた。同じ焦げ茶色の髪に、垂れ目で、どこかおっとりとした感じの小柄な女性だ。


 「いらっしゃいませ!どんなご用ですか?」


 営業スマイルでにっこりと笑う。

 俺は、この町から[イオーリス]に行きたい旨を話し、この周辺の地図と[イオーリス]までの道案内兼護衛を依頼した場合の相場など尋ねた。

 

 「……祖父が世捨て人でね。“外境”………といっても、昔の守護結界の効果が残っている森を見つけて、そこに住んでいたんだ。少し前に祖父が亡くなって結界の効力が薄れてきたせいか、森も最近かなり物騒になってきてて………」

 「そうですか。それで[イオーリス]に?」

 「ええ。生前、祖父がそこに知り合いがいるって言っていましたし、大きな街の方が何かと便利だと聞いて………」

 「そうですね。この辺りは、腕に覚えのある人じゃないといろいろ大変ですからねぇ」

 『…………ふ、ふむ。シオン、そなた、デマカセが上手いな………』


 雑談混じりに身の上話をする俺を、クロガネが呆れたように見る。もちろん、過去話は“デタラメ”である。

 でも、有り得なくない話だ。

 昨日から町でちらほらと耳にしたり、聞いた話では、魔術師などか世俗を嫌い、“外境”に隠居するというのは珍しい話ではないらしい。

 “外境”には、クロガネのいた“神殿跡”のように、魔物の近づけない遺跡や昔の守護結界の効力が残っている場所はちらほらあるようで、そこに新たに結界師を張り、一夜の宿場代わりにするポイントが幾つかあるらしい。

 なら、見つかっていない場所もあるわけで、そういう場所に隠居した陰者に引き取られた子供という設定も、有り得なくはない。

 そうすれば、多少の“世間知らず”も誤魔化せるし、魔法や戦い方を知らなくても、「祖父が必要ないと教えてくれなかった」と言えば、偏屈な隠居に対する憶測や邪推で、こちらに同情がくる。


 『無くはない話だし、シオンが魔法を知らない理由やこんな危険な辺境で非力な理由にもなるが………、ううむ、大丈夫なのか?』

 「大丈夫もなにも、正直に言って、逆に信じられるか?」

 『まぁ、無理だな』

 「多少、無理やりでも、“有り得なくない”話の方が納得するだろ。まぁ、なるべく過去話は避けるようにするけど、こういう状況だと、逆に話さない方が変に思われる」


 受付嬢が席を離した隙に、小声でクロガネと話す。

 俺が、ある程度戦えるとかなら、他に理由を作れるだろうが、“非力で世間知らずな人間が、こんな辺境にいて、大きな街に行く為に護衛を雇う”理由なんて、限られている。

 ただ、村から出てきたのなら、“ギルド”登録して一旗揚げる為に、そこそこに戦う訓練をしているか、なんらかの技能を持っているだろう。それに、俺ほどに世間知らずということはないはずだ。


 つまり、俺の場合、“少し特殊な環境で育った”必要があるわけで、相手が自然に納得する話となると、まぁ、こんな感じしか思いつかなかったのだ。


 「お待たせしました。こちらが、この地方の地図になります」


 A4ほどの大きさの紙を広げる。少し黄ばんだ紙は、繊維も荒く、あまり良い質ではないみたいだ。

 そこに描かれた地図も、俺の感覚では稚拙で漠然としたものだった。


 「この下にある小さな町が、ここになります。ここは、[ウミナハス王国]の結界域からも外れた辺境なんです」

 「[ウミナハス王国]?」

 「ええ、ここや[イオーリス]を含めた領域は、[ウミナハス王国]の領土なんです。えーと、こちらの地図なら分かり易いかな?」


 そう言って受付嬢は、別の地図を取り出す。

 

 「内海を中心に、北東は[皇国]、南西は[帝国]があります。[ウミナハス王国]は、内海の西側にある小国群の1つで、見ての通り、上は[皇国]、下は[帝国]、東は内海、西は“外境”に囲まれているんです」


 地図は大まかな国の配置図のようだ。

 同じくA4ほどの紙に、やや横に膨らんだ歪な円の内海を中心に、内海の北東から東側の広大な領土を[皇国]が治め、西南から南側を[帝国]が治めているらしい。南東部は山脈と平原が国境として交わり、緩衝地域となっているようだ。

 俺のいる[ウミナハス王国]を含めた5つほどの小国が、内海の北西部を分けており、その中でも[ウミナハス王国]は、一番西側ーー“外境”に面した小国になるらしい。


 そこから、さらに言えば[ウミナハス王国]内でもさらに西端の辺境がこの町に当たる。

 [イオーリス]は、[ウミナハス王国]内では三番目に大きな街らしい。

 [ウミナハス王国]は、王都のある中央地方の[ウミナハ]、[イオーリス]のある西域地方[コユリハ]、第2の都市がある東南地方の[ススリヲ]の3つから成る。

 小国といっても、5国では、2番目に大きな国なのだそうだ。


 「えーと、この町から[イオーリス]までは、けっこう遠いんですよ。なにせ、辺境も辺境ですから。

 町から[カラチ平原]って本当に何もない荒れ地を抜けて、[ライハ渓谷]って、山脈の合間にある渓谷なんですけど、ここを通り、[ユーモア大森]をぬけて[スフォリア草原]の半ばにある大河を挟むように[イオーリス]があります」

 「徒歩だとどれくらいかかりますか?」

 「そうですねぇ……だいだい、1月から1月半くらいかしら?」

 「少人数でいいので、護衛を雇うと?」

 「条件や人数にもよりますよ?まぁ、護衛だけで1人金貨1、2枚くらいかしら?

 場合によっては、食事代や宿代を含めて1人金貨3枚するかも………」

 『意外と高いな……』


 受付嬢の言葉にクロガネが唸った。

 衣服類や武具防具、魔法関連の品は高価な部類に入るので除外するが、食費や日用品などは基本的に安いので、金貨1枚あれば、一般的な家庭なら贅沢しなければ数ヶ月は楽に暮らせるという。

 [イオーリス]までは遠く、幾つかの危険な場所があるようなので、高いのは分からなくもないが、それでも金貨3枚は高すぎる気がするのだ。

 普通、護衛料の他に食事代や宿代の実費を負担するとしても、約1ヶ月としても、1人金貨1枚は掛からない気がする。

 聞いた感じだと野宿が基本だろうし、宿だって1人一室なわけではないし、連泊しても2、3泊だ。


 「少人数でも腕の立つ冒険者は、基本的に料金が高いんです。ランクの低いパーティなら安いですが、人数いますからねぇ………」

 「どこかの商隊に便乗させてもらうことは?

 戦えない分、雑用くらいなら出来ますし……」

 「うーん、今の時期は[イオーリス]に行く商隊は少ないですし、そんな余裕のある隊があるかどうか………」


 受付嬢は笑顔でいうが、明らかに商隊への便乗は無理だという空気が滲み出ている。

 田舎から出てきた若者が、金貨などという大金を持っていないと仮定した上で言っているなら、とんだ厄介者払いだろう。


 『なかなかに曲者だな、こやつ』


 今までの対応や説明が親切だっただけにこの変わり様はけっこうキツいな。

 実際、今言った金額なら払えなくはないのだが、払えると分かったら、余計に金額を上げられそうだ。

 運良くお金はあるが、だからと言って先行きの見えない状況だから、無駄に出来るわけではないのだ。使うときには使うが、抑えるべき所は抑えなければ、幾らあっても足りなくなる。


 「[イオーリス]に向かう冒険者は?

 同じ目的地に行くなら、護衛は“ついで”になるよね?」

 「あら、“足手纏い”を連れて歩く冒険者なんて、居ませんよ?」


 笑顔のまま言った受付嬢に、俺は、絶句する。

 いやこれ、“ギルド”の受付としては、明らかに最悪の対応じゃないか?

 どうやら、俺が渋っているのを“支払えない”と判断したらしいが、あらか様過ぎるだろう。

 

 『“ギルド”の評判が良くないとは聞いていたが、冒険者ではなく職員の対応が悪すぎるのか……』


 クロガネが納得したように呟いた。


 「[イオーリス]に行く依頼なら、オレが受けるぞ。丁度、近いうちに[イオーリス]に行く予定だからな」

 「そうだね。丁度いいかな?」


 不意に、背後から声が掛かった。

 振り向けば、そこにはカフェで見たパーティの、“翼種”の銀髪剣士と先攻(シーフ)の少女が立っていた。


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