表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドRe:トライ・セブンオーブ  作者: 下級魔術師17号
1/25

第1話 記憶の無い男

今時流行りの最強!無双!チート!ハーレム!に密かに反抗すべく、ある意味“王道”的な話を目指しました。もちろん、作者は主人公最強!無双!チート!とか好きです。

だが、カテゴリーを[ファンタジー]にして喧嘩売る度胸はありません。チキンです。こっそりプルプルしながら、地味に書いていきます。

作者すら、行き先不明な見切り発車ですが、見捨てず気長にお付き合いくださいm(_ _)m


 誰かに何かを言われた気がした。

 それが夢なのか、過去の記憶なのかは定かではない。ただ、囁くような声が耳の奥に残った。


 「…諦めないのか?」


 何を?

 何を諦めないのか?

 浮上する意識と共に、ぐるぐると疑問が頭を駆け巡った。

 

 「なら、行くがいい。君の望むままに……」


 誰ががそう言って笑った。

 

 「君だけが、“最後”だ。その宝玉(オーブ)が、君を頂に導くだろう。吾が“王”よ。

 それまでは…………」


 次の瞬間、バチッと火花が散ったかのように、意識が覚醒した。

 呼吸も荒く、全身が汗だくだった。

 夢を見ていたようなのに、誰かが何かを言っていた気がするのに、思い出せない。

 火照った身体に、ひやりと夜風が撫でつけていく。仰向けに倒れている自分に気づいた。

 身体を起こすと、肩に掛かる髪がさらりと零れた。


 「どこだ、ここ?」


 見覚えの無い丘の上だった。

 夜なのだろうか。明かりの無い夜闇が広がっていた。これほど“夜”が暗いと感じたのは、初めてだ。

 目が闇に慣れると、暗闇の世界が浮かび上がってくる。真っ暗なはずなのに、暗くない。

 不思議な感じだった。


 眼下になだらかな丘が下っていた。その下に広がる鬱蒼と陰を落とす森。そのさらに奥に幾つかの小さな光が見える。

 街、の明かりだろうか?

 自分の知る街の明かりは、もっと明るく煌びやかで、まるで昼間のようだったのに、その光は随分と暗い。

 だが、それは明らかに“文明”の光のようだ。

 首を動かし、ぐるりと周囲を見回すと、少し離れた背後の丘の上には、廃虚らしい柱や石が転がっていた。

 なにかの神殿だろうか?


 見知らぬ場所だった。

 今まで自分がいた場所とは違うと、無意識に理解していた。けれど、何故か無性に懐かしい。


 「………訳が分からない」


 知らないのに“懐かしい”とは、なんだ?

 なんなんだ?


 ふと、顔を上げれば、一面の星空に思わず息を呑んだ。こんなに満天の夜空なんて、見たことがない。

 その夜空に浮かぶ赤い半月と青白い満月。


 「赤きは“(ル・シン)”、青きは“(ホウ・ト)”……闇と光、本能と意志、大いなる御魂に宿る神の願い。

 月は、其を示す世界の“(こころ)“………………って、なんだ?なんだよ、これ?

 俺は、なんでこんな事を知っているんだ?」


 訳が分からない。

 そう、分からないのだ。

 俺は、頭を両手で抱えた。

 一体、何が起きていて、ここはどこで、俺はなにをしていたのか。


 「…………俺、俺は…………」


 ふと、気付いた。

 何も思い出せない。今まで何をしていたのか。帰るべき場所も、家族のこと、友人、周りの人、過ごしてきた日常のこと、何一つ分からない。

 愕然として、俺は自分の手を見た。


 思い出せないのだ。

 “自分”のことも、何一つ思い出せない。

 そう、自分の“名前”すら…………。


 「………誰だ?」


 俺は誰だ?


 ポツリと、小さな言葉が零れる。

 よく記憶喪失の人が、『ここはどこ?私はだれ?』とか言うと聞いたのを、少し馬鹿にしていたが、本当にそれしか出ないのだ。

 ここは“どこ”で、自分は“だれ”で、帰るべき場所も、寄り添うべき相手も、頼るべき家族も、あったはずの日常も、何もかもが真っ暗だ。

 自分の中に無いのだ。


 どれくらい呆然としていたのか。

 不意に気配を感じて、俺は我に返った。

 見晴らしは良いが、人気もなく、街から離れた丘に人が来るなんてことはないだろう。

 “ここ”は、今までいた“場所”と違い、人を襲う野獣や魔物が普通に彷徨いているのだ。人だけでなく、生き物の命が酷く重くて軽い所(・・・・・・)なのだ。


 「なんで、また…………」


 俺は頭を押さえた。

 分からない事だらけなのに、まるで“解っている”かのように自然と浮かんでくる“認識”に、酷く戸惑った。

 正直、気持ちが悪い。

 自分で思ったことなのに、“疑問”ばかりが増えていく。


 オオーーーーン…………

 アオーーーーーン…………:


 獣の遠吠えが響いてきた。

 俺は立ち上がった。

 目を凝らすと、麓の森から走り出てくる何かがいた。しかも、複数だ。


 「…………犬?野犬か?」


 暗闇に同化して分かりにくいが、灰色っぽい毛並みの獣が、丘を駆け上がってくる。

 まずくないか?

 なんとなく危機感を覚えた俺は、周囲を見回した。しかし、改めてみても、木の一本もない。隠れるどころか、逃げる場所すらない。

 ふと、丘の上を見る。


 なにかの建物の、“遺跡”なら、なにかあるかもしれない。

 

 「というか、逃げるしかないだろっ?!これ!」


 俺は走り出した。

 今の俺の格好は、黒のシャツの上に灰色のパーカーを着て、下はジーンズにスニーカーを履いている。色的に夜闇に紛れやすい服装で良かったと思う。

 とにかく、傾斜がやや急な丘を駆け上がる。後ろを振り返れば、数頭の野獣が丘を駆け上がってくるのが分かった。

 もたもたしていたら、追いつかれてしまう勢いに、俺はゾッとした。


 倒れた柱や大きな石を避けながら上がると、崩れかけた建物が浮かび上がる。

 白い神殿のような建物のようだ。

 大半は崩れているが、まだ、上階が残っている場所があった。


 「上に上がる階段……!階段はっ?!」


 階段でなくても、崩れた建物の上の階に上がれば

、獣が飛んで上がることは出来ない高さがあった。

 俺は、崩れた場所を慎重に避けながら、残っている部分に上がる方法を考える。

 時間が無い。


 アオーーーーーン……!!


 すぐ近くで、獣の声が響いた。


 「やばいやばいやばいやばい………っ!」


 俺は、走り出した。

 心臓がバクバクするのは、走っているだけじゃない。焦る気持ちが急いて、俺は何度も転がる石や障害物と化した瓦礫に躓きながらも、階段を探す。

 裏側に回り込んだとき、柱の影、やや奥まった場所に階段らしい段を見つける。


 「……げっ!崩れてる……」


 途中から崩れて落ちている。真ん中の数段が抜けて、上階への数段が続いている最悪の状態に、俺は舌打ちした。


 「いや!………待てよ?逆に考えれば、上に上がれば、追ってこれないんじゃないか?」


 無くなっているのは数段だ。1、2メートルくらいだろうか?

 俺は、とっさに走り出した。

 背後から無数の気配が迫ってくるのを感じる。

 獣たちに追い詰められているという強迫感なのだろうか。気配なんて、普通、感じられるわけがないのに、俺は後ろを振り返らずに、階段を駆け上がり、途切れた段を思いっきり蹴った。

 身体が宙に浮く。

 短い距離と思った階段の空間は、思った以上に高さがあったらしい。

 足は、まったく届かない。

 俺は、夢中で手を伸ばした。ガシッと擬音がつきそうな勢いで、おれは上半身で階段の上段にしがみついた。

 足は、宙にばたつく。


 ハッハッ……と、荒い息遣いが耳に響く。

 心臓がバクバクした。

 

 「ウォンッ!!」

 「ガウガウッッ!!」


 ハッと肩越しに見れば、下段に灰色の毛並みの貧相な体つきの獣が数頭、こちらを見て、グルグルと唸っていた。

 俺は、必死に上へと上がろうともがく。

 だが、上半身と腕の力だけで上がるのは、難しかった。せめて、足が段にまで届けば上がれるのだが、今の俺は、腕だけでかじりついているような状態だった。


 「ガウッ!」

 「?!」


 もがく俺に勝機を見たのだろう。助走を付けた獣がこちらに向かって、飛びかかってきた。

 俺は、獣に向かって、咄嗟に蹴るように足を動かした。足の裏に、柔らかく弾力のある感触があり、それ(・・)を足蹴にしたことで、俺は上段へと全身を持って行くことができた。

 背後で、「ギャンッ!!」と、獣の悲鳴が響く。

 俺は、その勢いのまま、上階への階段を駆け上がり、上階の床に転がった。


 「………っ、ハァッ、ハァッ………っ!」


 ゴロンと仰向けになって、息を整える。

 何が起きたのか、正確には把握できない。いや、

多分、なにやら、とんでもないタイミングで、俺は飛びかかってきた獣を足蹴にしたらしい。

 あのまま、飛びかかってきた獣に襲われて落ちたら、一貫の終わりだ。

 だから、向かってきた獣を蹴ろうとしたのは、ほぼ、無意識だった。


 俺は、よろめきながら身体を起こして、階段を覗き込んだ。

 途切れた階段に、数頭の獣たちが右往左往している。赤くぎらぎらした目が、憎々しげにこちらを見ていた。

 どうやら、飛ぶのを警戒しているようだ。


 「…………今の、うちか………」


 正直、体力が限界だが、ここでは落ち着いて休憩など出来そうにない。

 いつ、あの獣たちが階段を制覇するか分かったものではないのだ。そこまでの知能があるのかどうかは分からないが、とにかく、離れた方がいいだろう。

 俺は、ふらつく身体を叱咤して、奥へと歩き始めた。すでに、足がガクガクしている。


 「はは………、俺、凄いかも……」


 思わず、呟く。

 死に物狂いとは、まさにこのことだろう。

 

 崩れてる柱もあるが、まだ、支えている柱のおかげで、上階は保っているようだ。床が落ちていたり、天井が抜けて夜空が見える場所もある。 

 残っている祭壇のような壁の前まで来て、俺は、腰を下ろした。

 ここで、行き止まりだった。


 「あとは、彼奴らが上がってこないことを祈るしかないな…………」


 正直、ここまで逃げられたのが“奇跡”だろう。

 祭壇らしい台に背中を預け、俺は、崩れ落ちた天井から覗く夜空を見上げた。

 綺麗だった。

 命の遣り取りをしたせいか、余計に綺麗に見える気がした。


 「…………なんなんだろうな……」


 俺は、溜め息を吐いた。

 この短時間が濃すぎた。

 自分の記憶とか、ここはどこなのかとか、そんな深刻な疑問を吹き飛ばしてしまうくらいに、濃すぎた。

 

 「どうでも良くないが、なんか、どうでも良くなった………」


 俺は、抱えた膝に頬を押し付ける。

 とんでもなく疲れた。

 多分、俺は体力が無いんだろう。何となく分かる。何かと真っ向から戦える人間じゃない。只の一般人だ。


 「はぁ~、どうしよう………」

 

 森を抜ければ、街らしいのがあるのは、目覚めたときに確認している。

 あそこまで行ければ、安全だろう。

 だが、何も持っていないのだ。

 食糧も、身を守る道具も術もない。

 さらに言えば、記憶も名前もないが、それは置いておこう。今は、生き残るのが最優先だ。


 俺は、ずるずるとその場に仰向けに寝転がった。

 今のところ、なんの気配もないし、危機感もない。もし、あの獣たちが上がってきても、まぁ、ここで行き止まりだ。なす術がない。


 「…………一体なんなんだよ……」


 全ての“疑問”と理不尽な現状を集約させた一言が、ぼやきのように、満天の星空に静かに消えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ