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苦手な方はご注意ください。

短編集<家族物語>

エイプリルフールは危険すぎた!

作者: papiko

それはやってはいけないことだった。

本当に軽い気持ちだったんだ。

当然誰も信じないと思って、俺はとんでもないメールを打った。

そして返ってきた返信は

『じゃあ、彼女同伴で来いよ!みんなでお前の童貞卒業いわってやるから!!』


やばい。

どうしよう。

あわてていろいろ言い訳の返信をしてみたが。


『心配すんなって。未成年に酒飲ますほど馬鹿じゃねぇよ。夕方6時くらいなら問題ないじゃん。ちゃんと門限の8時までにはお開きにしてやるから。絶対つれてこい!!』


後の祭り。


というわけで、俺は今、弟に土下座している。

「お前、アホだろ?」

「もちろんです。俺がアホでした。だから、頼む。今日だけでいいから」

「冗談は顔だけにしろ!僕はもう女装はしないんだ!」

「そこをなんとか……」

俺は必死で頼んだ。

そして神は降臨した。


「面白い話してるね。君たち」

にやりと笑うアマゾネス。

……もとい、俺たちの姉であり、うちの大黒柱さま。


弟の顔が青ざめた。

「うんうん、お姉ちゃんが綺麗にしてあげるからね。それでどんな彼女だっていっちゃたのかな?」

俺はこまごまと姉に説明した。

姉は有無を言わさず、逃げようとした弟の首に片腕を回し、引きずって行った。


そして、約束の時刻。

俺たちは仲間と待ち合わせの近所の公園へ行った。

桜は満開。

平日の6時だから、人もまばらで、まだ明るい。

「お~来た!!」

「え?マジ可愛い!!」

「お前ぇ。どうやって落としたんだよ」

などなど、総勢4名の悪友とその彼女がワイワイ騒ぐ。

「幼顔で胸はまだ発育中だけど超のつく美少女だぞ!!その上ロリ服が似合う!!なんていうから、どこまで盲目だってわらってたんだけどさぁ」

全員の視線が弟に注がれる。

「ばっちり、まんまじゃん!木崎が奇跡を起こしたよ」

二人の女子はうっとりとした目で弟を見ている。

「やぁん。何この子。マジお人形!!」

「ねえねぇ、お姉さんたちに名前教えて」

語尾にハートマークが飛んでいる黄色い声。

弟は、必死にはにかみ、ミヤですと小声で名乗った。

もちろん、本名ではない。


(それにしても、姉の神業恐るべし)


弟は茶色系ショートヘア(地毛)に赤い薔薇と白いレースのあしらわれたカチューシャがおしとやかに微笑んでいる。

薄化粧に見えるが、メイクには二時間かかっている。

弟はもともと中性的な顔だが、男女の区別がつかないほどではない。

その顔を完全に可憐な美少女にしたてあげた姉。


(さすが元スタイリスト!!)


そして、どこに隠し持っていたのかマジモンのロリータ服!

真っ白なハイネックのワンピース。首もとに黒いリボン。七分袖の上着は紅で袖口は幅ひろ。

もちろん袖口と裾には透けたレース付。

ワンピースのスカート部分には細やかな銀糸で唐草の刺繍がされていて、それをだんだん重ねにしたうえに細かいレースが継ぎ目にあしらわれている。

足は黒のニーハイだが、ちらりとのぞく紅いソックス止めのリボンが小悪魔的だ。

靴も足首に大きな紅いリボン付の厚底のヒールだった。


(徹底してるなぁ……)


いつの間にか日も暮れて、公園の街灯が桜を美しく照らしていた。

女子は可愛い可愛いを連呼しながら、弟の両隣にはべり、あれやこれやと食べ物を弟の口に運ぶ。

まるで、お嬢様にかしずくメイドと化している。

「お前ら……いいのか?」

俺は悪友二人に言う。

「何が?」

「彼女たちほっといて……」

「いいにきまってんじゃん」

「「超目の保養」」

二人はぐびぐび酎ハイを飲みながら、女性陣(弟を含む)をめくるめく妄想とともに見つめていた。

俺は時計を何度も見た。

約束の時間は八時。


(よし、あと五分!弟よ。もう少しの我慢だ。あとでなんでも買ってやる!!)


俺が心の中で叫んだ瞬間。

「楽しそうだね」

という聞き覚えがある声が降ってきた。

それは悪魔の声だ。


俺は凍りつき、弟は顔を真っ赤にしている。

そして、悪友とその彼女たちも声の主を見て言葉を失っていた。

悪魔はそんな視線をよそに、弟をさっとお姫様抱っこするとめちゃくちゃ濃厚なキスをぶちかました。

「お、おい、お前の彼女!」

はっと我にかえったように悪友が叫ぶ。

すると悪魔は美しく微笑んだ。

「お遊びの時間は終わりだよな。俺のだからもってくよ」

俺はこくこくと必死にうなずく。

悪友も彼女たちも呆然としていた。


二人が公園を去った後。

「ちょっと、どういうこと!!あれって、あの人って!!」

「「夏目さまよね!!」」

さすが、芸能界には敏感なお年頃ですね。ええ、そうですよ。アレがカリスマモデルの夏目蒼ナツメアオであり、うちの弟の恋人様ですよ。

「ええっとですねぇ……あの人は俺の遠縁で、夏目さまによく間違われるひとです!!」

「うそぉ。どこをどうしたら、あんな美形がこの世に二人も存在するのよ」

「す、するんだよ。とにかくするの!!」

「じゃあ、ミヤちゃんは何者なわけ?」

「そうだよな。どうみても、お前の彼女じゃないよな」

「そ、それは……」

四人が俺ににじりよる。

さあ、吐けと言わんばかりに!!


(別の意味で怖い!!)


俺は近くにあった酎ハイをぐいっと飲んで、一気に更なる嘘をついた。

「俺はメール打ったあとに、本物の彼女にフラれたんだよ!そんで、仕事のことで姉貴を訪ねてきたミヤちゃんに頼み込んできてもらいました!すみません!俺が悪かったです。四月バカだと思ってゆるして!!」

悪友はなんだぁとつまらなそうにつぶやいた。

「どうせ、お前のことだから見え張ってんだなと思ったんだよね」

「そうそう。だから、まさか本当にメール通りの女の子が来たから、マジだって信じたぜ」

「すっかりだまされたねぇ」

「でも、いいもんみたわぁ」

その後は、騒ぎ過ぎておまわりさんに注意され、ようやく解散。

家についてリビングのソファーに倒れ込んだ瞬間、携帯が鳴る。

番号も確認せず、俺は携帯にでた。

『今度やったら殺すから。まあ、今日は俺の誕生日だから大目にみるけどね』

相手はそう告げて電話を切った。


俺は心底、四月一日が夏目蒼の誕生日であることを神に感謝した。

そして、悪魔にささやいたアマゾネスが風呂から出てきて言った。

「あれ?無事だったんだぁ。つまんないの」

「あ、あんた何したんですか!」

「ああ、蒼君に誕生日プレゼントは公園においてるから速攻とりにいっておいでって言っただけだよ」

「そうっすか……じゃあ、プレゼントは今頃……」

「完璧ラッピングをひん剥かれてんじゃないかなぁ」

「お、鬼!」

姉は目を細めて俺を見下げる。

「いい根性ねぇ。高校生の分際でデート商法なんぞに引っかかったバカは誰だったかしら?可愛い弟に女装させて稼がせて穴埋めしてもらった上に、このあたしに向って鬼とおっしゃるかね。誰のおかげで無事に大学生やってられるのか、ミジンコクラスの脳みそでよくよく考えてごらんなさい。ってことで、あんた一か月飯なし」

「えええええ。バイト代入ったばっかなのに!!買いたいものあったのに!!携帯の引き落としもあるのに!!」

「……お前、自分の立場をいいかげん思い知れ」

姉は呆れた顔でそう言うとさくさくと自室へ去って行った。


そのころ、弟は……

「もう<ミヤ>はやめたんじゃなかったっけ?」

「……ごめん」

「ま、いいけど。何せアカネさんのありがたい誕生日プレゼントだからな」

蒼が楽しそうにラッピングを外したのは、言うまでもない。


そして俺は深く反省し、真面目に彼女を作る決意をした。

「幻の美少女モデル<ミヤ>の兄であるこの俺がモテないはずがない!!」

そう言った瞬間、部屋に戻ったはずの姉からぶん殴られた俺なのでした……。


ごめんなさい。もう、嘘はつかないから、天国の父さん、母さん。

俺に幸せをください!!



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