表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海神  作者: 樋渡 幸
5/10

神室の婆 弐

「よく来た。よく来た、二人とも」

婆は二人には背をむけたままで言った。

「ふむ…風が荒い。風が荒い。ちと都合が悪いの。海神わたつみの気が荒ぶっている…」

神室というのは神が訪ねて来る部屋という意味だ。郷の人間も入れるこの社とは別に、神域としての神室があった。そこには近付くことも禁じられている。

婆の前には、榊の木や桶に張った水が置いてある。婆はそれを見ながら、貝でできた首飾りを右手でじゃらじゃらもてあそんでいた。

「……」

早伎津と柾木は、婆が注意をこちらにむけるまでじっと待たなければならなかった。

じゃら、じゃらじゃら。

部屋の中にはきつい匂いが漂っている。

じゃら、じゃらじゃら。

早伎津は段々頭の中がぼんやりしてきた。

婆の首飾りの音が妙に心地よく響く。

じゃら、じゃらじゃら。

じゃら、じゃらじゃら。

じゃら、じゃらじゃら。




すすり泣く女の声が聞こえる。


「……様。共に生きようとおっしゃったのに…。」


早伎津は女を見つけようとした。周りが暗くてよく見えない。


誰なの?あなたは誰…?


女はただ泣き続ける。




「…き…つ。おい、早伎津!」

柾木の声がする。早伎津は目を開けた。

心配そうな顔の柾木と目が合った。早伎津は柾木に頭を支えられていた。

「あたし、いつの間に…」

そう言いながら体を起こす。

「早伎津や、お前は何かを見たか?何を見た?」

婆がこちらを向いていた。

「えぇっと、女の人。姿はよく見えなかったけど…泣いていた」

「そうか」

婆は嬉しそうに目を細めた。

「お前には巫女の素質があるかもしれぬ」

くっくっと喉を鳴らす。

「どうじゃ、わしの後継にならぬか。神室で修行を積まぬか?」

「え?あたし、その…」

横目で柾木を仰ぐ。柾木も困っているようだった。

「柾木に付いてゆかずとも、そういう手もあるということじゃ」

「婆、なぜそのことを?」

驚いた表情の二人に婆は言った。

「なぜそのことを知っているのか。お前が聞きたいのはそれだな。それにはわしもいらえができぬ。なぜならわしも今知った。人は知らぬことをふと思いつくこともあるものじゃ」


ぱちんと何かがはぜる音がした。

婆が持っていた首飾りの貝が一つ、粉々に砕けていた。

「おや、砕けたか。砕けた貝は海に戻すがよい。生まれた場所へな」

婆は貝の残骸を集めると、大事そうに布に包んだ。

燭台の炎がゆらゆらと揺れる。

早伎津はあの紅い火を思い出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ