表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海神  作者: 樋渡 幸
3/10

早伎津 参

そんなわけで、早伎津は夜の海岸に一人ぽつんと座っていた。

柾木のばか

周囲は暗く誰もいない。堪え切れずに涙がこぼれた。

一緒に都に行きたい…。

でも父さんは許してくれそうにもないし、妹達を置いては行けない。

夏になったばかりの海の風は、早伎津に冷たく吹き付けるのだった。


散々涙を流した後、少しすっきりした早伎津は家へ戻ろうと立ち上がった。

打ち寄せる波の音がやけにうるさい。

ふと沖に目をやる。

「あ…」

遠くに小さく紅い火のようなものが浮かんでいた。海面から少し高いところに、いくつもいくつも。

きれい…

早伎津の視線はそれに吸いつけられたように外せなくなった。

初めて見る光景に恐怖を覚えたが、どうしてもあの火の元へ行ってみたいという衝動が全身を駆け巡った。

知らず知らずのうちに、足がその方向へ向かって動き出す。

気付くと海の中で、もう膝元まで水にかっていた。

早く、あの火が欲しい

早伎津はざぶざぶと水を掻き分けて沖へ向かって行く。

なんてきれいなの…

水のせいで思ったように前に進めず、もどかしさを感じる。

すると突然誰かに腕を引かれ、早伎津は前進を妨げられた。

振り返って見ると、心配そうな顔の柾木だった。


「早伎津、死のうとしたのか!?」

「違うの。あの火が欲しい」

早伎津は沖のきれいな火が気になって、柾木の手を振りほどこうとする。

「火?火なんてどこにもない。早伎津、落ち着け」

柾木はもがく早伎津を離すまいと、腕に力を込めた。

「いや!火…火が欲しいの!」

「その火はどこにあるんだ?」

柾木は困惑したように尋ねる。

「ほら、あそこ。沖に浮かんでいるでしょう?」

そう言って沖を指し示したが、早伎津はそこにはもはや何も無いことを知って愕然とした。

「落ち着くんだ。きっとただの幻だよ」

柾木にそう言われ、早伎津の目には涙が溢れた。

「幻なんかじゃない…。あたしはこの目で見たもの」

力が抜けて崩れ落ちそうになった早伎津を、柾木は抱きかかえるようにして支えた。

「それなら海神わたつみの仕業かもしれない」

「海神…?」

柾木は頷く。

「明日、神室の婆かむろばばに聞きに行こう。婆なら何か知ってるかもしれない」

柾木は早伎津を落ち着かせるために言った。

「とりあえず今日はもう帰るんだ。いいな?」

早伎津は素直に頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ