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クルーエルラボ  作者: 村崎 芹夏
序章 
8/16

絶望の序章 Ⅷ

「わかった、じゃあ俺が預かるよ」

そう大輔が言い終わった頃には日々香の顔色はずいぶんと良くなり、少し笑みがこぼれていた。


「とりあえずこいつは皆にはあんまり知られないほうがいいな」


「そうなのか?」


「他のやつらにどんなもんが入ってたかは分からないけど、たぶん銃は当たりの部類だろうな。そんなもんを持ってるなんて知られたら奪い合いが起きないとも限らない」


「無用な争いをさけるため、っか」


「そゆこと」


そう言いながら大輔は自分のバックの中に日々香から受け取ったハンドガンと予備の弾薬を自分のリュックの中にしまい込む。

幸い、他の者たちは自分のリュックの中身の確認のため、もしくは入っていたものを弄くるのに夢中でこちらを見ている者はいない。

日々香のリュックに銃が入っていたこと、現在の大輔のリュックの中に移されたことを知る者はこの3人以外にいないようだ。


「日々香さん、安心して。必ず俺と大輔で守るから」


先の日々香の一言で久人の心臓はまだ早鐘を打っていたためか、日々香を安心させるために自分でも嫌になるほど格好をつけた恥ずかしい台詞を口にした。


「うん、お願いします!」

どうやら真に久人と大輔を信頼しているらしい。明るい声で反応する日々香の表情にはもはや先程までの不安そうな影はなくなっていた。



「さて、これからどうするかなー」

誰に言うでもなく呟いた大輔に久人は律儀に返事をする。


「どうもこうもあの扉が開かないんじゃここから出られないしなぁ」

コンクリート壁に覆われた灰色の部屋の唯一の出入り口と思われる扉は重々しく閉ざされたままである。


「まずはこの部屋から脱出しろってことなのか?」


「だったら初っ端から行き詰ってるな」


久人と大輔がうな垂れながら会話をしていると端蘂がゆっくりとこちらへ向かってきた。


腰の派手なバックルが付けられたベルトには赤い棒状の物を二本を鎖でつないだカンフー映画などでよく見られる武器、ヌンチャクが無造作に差し込まれている。 これが恐らく端蘂のオリジナルアイテムだったのであろう。


「おう、長谷部。皆だいたい荷物のチェック終わったみたいだな。んで、俺達はまずこの部屋から出なきゃいけないんだろうけど、あの扉は鍵が掛かってるみたいでビクともしねぇ。なにかいい案ないか?」


相変らずその容姿からは少し意外な軽快さで端蘂が話しかけてきた。


「案って言われてもなぁ・・・俺達がここから脱出出来るか実験してる奴がいるってことは閉じ込めっぱなしって事はないだろうけど・・・何か扉が開く条件とかがあるのかも」


「条件っか・・・あの髭面眼鏡が言ってたけど本当にアトラクションみてぇーだな」

訝しそうな表情で左右の筋肉質な腕を胸元で交差組みをし考え込む端蘂。


久人はそんな彼の動作を見て何気なく気付いたことがあった。


「あれ、あんたのリュックには腕時計入ってなかったのか?」

そう言いながら自分の右腕に巻かれたマッドブラックカラーの重厚なデジタル時計を胸元まで上げて対面の不良風少年に見やすいように掲げた。

周りを見渡せば皆が皆同じデザインの時計らしきものを左右どちらかの腕に嵌めている。

ただ、誰一人として盤面に何も映し出されていないところを見ると、どうやら久人の物が壊れていたわけではなそうだ。

使い方は分からないが、各員とりあえず腕時計っぽいから本来の使い方に従って腕に巻いているという感じである。


そんな中、確かに端蘂の腕に皆と同じものは装着されていなかった。大した事ではないが、少し気になってしまい久人はそれを尋ねてみたのであった。


「あぁ、こいつのことか。なんか画面うつんねーし壊れてんのかと思ってリュックにしまいっぱなしだったわ」

凄みのある野太い声でいかにも現代っこっぽい崩したしゃべり方の少年は自分の肩にかけていたリュックを下ろすと、おもむろに開口部に手を突っ込み

手探りで中を漁ると、的確に久人が気になっていたものを取り出した。


やはり端蘂にも全員とまったく同じデザインの時計が入っていたようだ。

リュックの中身は1種のオリジナルアイテムを覗いて全員同じ物が入っているのは間違いなさそうである。


「あっ、私の時計も全然動かなかったよ」


「俺のもそうだったなー」


先程までは日々香、大輔も端蘂の強面な風貌から萎縮して話しかけづらそうであったが、久人との会話を見て多少警戒心を解いたのか、会話に自然な流れで混ざってくる。

端蘂も発言元の二人のほうを軽く見るが、特に嫌そうな雰囲気は出していない。


「試してみたけど俺のも電源が入らなかったよ。恐らく他の人も同じだろう。あんたのが特別壊れてるわけじゃないと思うよ」


「そうなのか?じゃあなんなんだこいつ?ったくわけわかんねーなー」


「分からないことだらけだよ、ホント」


久人の最後の一言は誰に向けたわけでもなくボソリと宙につぶやいたものであった。

そんな久人を横目に”ふんっ”っと鼻を鳴らした端蘂は何の気なしにたったいまリュックから取り出した時計のようなものを左腕に乗せ、マットブラックの重厚な質感をしたベルトを締め上げて腕に

パチッと固定した。 腕時計にしては比較的重みのあるそれの重量がズシリと腕に伝わる。



その時であった。”ガシャン”というなんとも重々しく大きな低い音と”ピーピピ”という小さいが多方向からいくつも聞こえる電子音のような高い音が空気の沈んだ灰色部屋に交差して響きわたる。


「なっ、なんだ!?」


「何!?また何かあるの!?」


「くっそ、髭面眼鏡の野郎か!?」


部屋中の誰しもが小さな混乱に陥り、奇怪な二つの音の発信源を探る。 そしてそれが判明するまでにそう時間は掛からなかった。


”ピーピピ”という電子音の発信元は多方向からいくつも聞こえていたが、なによりもっと間近、自分の腕からも発せられていたのである。


久人は先まで端蘂に見せていた自分の腕に巻かれているつや消し黒色のそれに目を落とした。


すると、先程までなにも表示されていなかったデジタル表示の盤面には71:59 52という数列が映し出されている。

そして右端の数値52が時間経過と共に51 50 49 とどんどん減少している。


腕時計に向けていた視線を部屋の中に戻すと各々時計に表示された数字に気付いたらしく、皆の視線は自身の腕に向けられていた。

どうやら14人全ての時計が同時に起動したようだ。



「これって・・・」


日々香の何かを察したような口調が不安感をそそる。


「これはどうみても残り時間だよな・・・カウントダウンがスタートしたって事か」


「つまり今から実験がスタートって事なのかな?」


「そういうことらしいな、残り時間を表示する時計・・・さしずめリミットウォッチってところか」


「この時間がゼロになったら私達・・・どうなっちゃうんだろう・・・」

日々香の表情が不意に曇る。


「それは・・・分からない・・・」

久人は答えられなかった。ただ単純に答えが分からないという事もあったが、それ以前に最悪のパターンが脳裏によぎっていたからだ。



”死”


なんの根拠も無い。それは分かっている。だが、しかしこんなイカれた状況下で設けられたタイムリミットに脱出できなかった場合に、ただ笑って”脱出できなかった”で済むはずが無いだろう事は

容易に想像できる。

更に、綺堂の説明が本当ならばこのクルーエルラボには生死に関わるような仕掛けがあるということになる。

それを考慮すると最悪の場合があってもおかしくはないと考えてしまったのだ。


「そう・・・だよね」


「それよりも、カウントダウンが始まったって事は」


日々香の声には先程までではないが少しの緊張が見える。久人はなるべく日々香に不安感を与えないよう明るい声を取り繕って話を逸らした。

そこに絶妙なタイミングで赤いヌンチャクを腰に挿した男が荒々しい野太い声で割り込んできたので久人は端蘂に心の中で小さく感謝する。


「あの低い音は扉のロックが開いた音って事か」


確かに先の重々しい低音は扉の方向からしていた。  

14人分の視線が今度は部屋の一角に鎮座して中の人間を外界へ吐き出すことを拒み続けていた濃鉄色の扉へと向けられた。


ロッカー開閉時に端蘂の率先した行動に感化された久人は今度は誰よりも先に閉ざされた鉄扉へと歩みを進める


「試してみればわかる」


ゆっくりと備え付けられた取っ手へと手を伸ばすと背後から数々の視線の重圧がのしかかる。


”ゴクリ”と一度生唾を飲み込み、額からかすかに滴るを軽く拭くと意を決してノブを掴むとそれを力いっぱい手前に引いた。

するといままで頑なに開放を拒み続けていた扉はそれが全て嘘だったかのようになんの抵抗も無くその大口を開け放った。


「あ、開いた!」


つい喜びの声が漏れてしまう。

後方からもガヤつきの声が聞こえてくる。

いままで俯いて泣きじゃくっていた永ノ宮という少女やリュックの配当以降、また興味なさそうに壁にもたれ掛かっていた栢山でさえも立ち上がり扉のほうへと近づいてくる。



「でもなんで今更・・・?」


その疑問を口にしたのは大輔だった。それに続いて端蘂も口を開く。


「この時計も同時に起動したよな」


それに関して久人はおおよそ予想が付いていたので自分の推論を話し始めた。


「おそらくだけど、この時計・・・リミットウォッチを全員が腕に装着することが起動条件であり、この扉の開放条件だったんだと思う・・・いいや、この実験の開始条件っか」


「それなら納得がいくな、いままで俺がこいつを腕に付けてなかったから扉が開かなかったんか」

小さく頷く久人。


「これで一歩前進ってわけか、ここでじっとしてても時間がなくなる一方だ。皆行こうぜ!」

新たな道が開かれたことによって本格的に実験に飛び込むことになる。それを理解してか、先に進むことに怯える者も数名いるようだ。

そんな者を達の背中を押すために大輔が明るい声で呼びかけた。

そして大輔の声を聞いて勇気付けられたのかゆっくりと近づいてくる者たち。


自分は日々香一人すら満足に勇気付けることができないのに、こんな状況下でも明るく振舞い、みんなに気を使う余裕がある大輔を久人は素直にすごいと感じていた。


”ふぅー”と一度小さく深呼吸をすると誰に言うでもなく小さくつぶやく。

「必ず脱出してやる、待っていろ綺堂」

そういう久人の瞳には強い意志を刻んだ決意が映し出されていた。


久人を先頭に14人の足音は新たなる変化の先へ進み、クルーエルラボから脱出すべく大口を開けた扉を越えてゆく。


これから14の少年少女達は残酷な研究所、クルーエルラボと呼ばれる施設に生死をかけて挑むのである。







とある部屋の内部、装飾の類は一切存在せず、代わりにいくつものモニターとパソコン、そして見たことも無いような用途不明の機械の数々が部屋の隅々を埋め尽くしている。

そんな奇怪な部屋の中に14人のモルモットがやっとスタート地点に立った光景を無数に置かれたモニター越しに観察する白衣姿の男がいた。

眼鏡の奥にはやる気のなさそうに垂れた目。不精髭が目立つ口元は微かに釣り上がっている。


男は右手に持った分厚い資料の束の中腹ほどのページに視線を落とし、左手で白いカップに入ったコーヒーを軽く啜ると独り言のように怪しげに呟いた。


「頑張ってくれたまえ」


男が右手に持った資料をそっと手前のデスクへと放る。

開かれた資料のページには”長谷部 久人”という名前と顔写真。さまざまな個人情報。そしてそれらの文字列の上から赤いインクで”Main target”と書かれていた。

こんばんわ、作者の村崎 芹夏です。


暑さでバテバテの私です・・・orz


はてさて、やっとこさ今回でクルーエルラボの序章が終わりました。

なんとか序章を終わらせられてよかった!(笑)


投稿当初は途中で挫折しそうな気がしてたので不安だったのですが、書かねば!という気持ちで望むと案外いけるみたいです。


今回は最初の部屋から脱出してストーリーが大きく前進しました。


次からはいよいよクルーエルラボに挑んでいく事になります。


ただ・・・すみません!来週は土曜日に更新できるか分からないです(爆


いやはや、序章をなんとか終えたのですが新章の細かい内容や人物の動きをどうするか考えるのに少し時間がかかりそうな・・・


なるべく来週に・・・どんなに遅くても2週間は間をあけないように頑張ります!


感想等いただけると大変うれしゅーございます。


ではでは今回も読んで頂きありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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