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クルーエルラボ  作者: 村崎 芹夏
序章 
6/16

絶望の序章 Ⅵ

「大丈夫!?」


日々香の心配に満ちた声がやっと久人の耳に届いた。


「すまん・・・大丈夫だ・・・はぁ、はぁ。なんなんだ・・・今のは・・・?」

呼吸を整えながらしゃべるため久人の言葉は途切れ途切れになってしまう。突如襲来したそれは尋常な痛みではなかった。 

痛みの大きさもさることながら何の予兆もなく突然現れ、大暴れした後はあっさりと消えてしまう。 ただの頭痛でこんな症状をまるで聞いたことが無い。

痛みが消え、呼吸を大方整えた久人は頭部を押さえていた手をゆっくりと離す。 

その時、手のひらが頭部でボコっと盛り上がったものに当たった。

先程、この部屋で意識を取り戻したときに気づいたコブである。 

出血こそ無いものの触るとまだ軽いヒリっとした痛みが頭部を駆け回ることから割りと最近に出来たものらしい。


久人はこんな状況下でさらに自分自身の体にさえも不可解な事が起こっているという混乱していた。 

なにもかもが自分の理解の範疇を超えている。

不安でたまらない。 しかし、横を見るといまだ心配そうな表情でこちらを見ている日々香がいる。 

彼女だって先程自身の心情を吐露したように恐怖で押しつぶれそうなのは目に見えて分かる。 そんな彼女にこれ以上余計な心配を掛ける訳にはいかないっと決めた久人は一度大きく深呼吸をすると再度口を開く。


「ふぅー、もう大丈夫だから、心配かけてごめん」


この言葉に偽りはなかった。 先程までの衝撃的な痛みは嘘のように完全に消えていた。


「そっかー、良かった!すごい痛そうだったから心配しちゃった」

心の底から久人のことを心配していたのだろう。そう言う日々香の表情は少し明るくなったように見えた。


「久人、本当に平気か?どっか具合悪くないか?もしかして何か病気だったりするのか?」

大輔から一度に投げかけられるたくさんの質問。

そして久人は丁寧にそれに答えていく。


「あぁ、心配けかたな。もう大丈夫だ、体もいまんとこは特に問題なし。病気も・・・」

"病気もしてなくてずっと健康だったよ"と言おうとした久人の言葉がつっかえてしまう。


自分は本当に健康だったのか? それが久人には分からなかった。

いや、正しくは、健康だったかどうかの記憶がないのだ。

それだけではない自分がどういう人間でどういうことを事をしていたのかそれが薄霧に覆われたかのようにモヤっとしてハッキリ思い出せない。


「どうした?」

久人の考え込むような表情をみて大輔が問いかける。


「あ、いやなんでもない。とにかく俺は大丈夫だから皆で一回話し合おう」

これが記憶喪失というやつなのか・・・という自己結論に至り、久人の動揺は更にも増した。 ただ、記憶喪失といっても全てを忘れているわけではないらしい。

自分の名前は分かるし思考もハッキリしている。 過去の記憶はぼんやり薄れているが、完全に穴が開いて忘れてしまっているわけではないようだ。

これならもしかしたら時間が経てば記憶が戻るかもしれない、そして記憶が戻ればここにいる経緯や頭部のケガの理由、その他諸々も分かるかもしれないという根拠の無い希望的観測を持つことで無理やり焦燥を押さえ込む事にした。


「そっか、お前が大丈夫っていうならいいんだけど・・・無理すんなよ?」

大輔の心配を"あぁ"という返事で受け取ると久人は皆での話を進めるべく口を開く。


「こんな状況で混乱してるのはわかるが聞いてくれ、皆でこれからについて話合いたいんだ」

綺堂が映し出される以前の大輔が出した声量に負けずとも劣らないほどの音量が部屋の隅まで届く。


「お前、名前はなんて言うんだ?」

不意に久人に質問が投げかけられた。 

質問をした主は先程まで綺堂のことを"髭面眼鏡"と称し罵声を浴びせ続けていた男であった。

外見を一言で言えば典型的な不良少年という感じである。

身長は久人よりやや高めだろうか。歳はほぼ同じくらいに見える。 

荒めの茶髪はツンツンに逆立っており、目つきは睨みを利かせたように鋭い。 

黒いボテっとしたズボンには派手な鍍金のバックルが付けられた蛇皮のベルト、そのベルトからはチェーンが垂れ下がっておりズボン後方につながっている。真っ白なTシャツの上から羽織る形で赤い薄手のジャケットを着用しており、首元には十字架を象った銀色に鈍く輝くネックレスが下げられている。

鉄パイプが似合いそうな見るからにヤンキー風の少年に突如話しかけられ、久人は一瞬萎縮してしまうが、なんとか自分の名前を口にする。


「あ、えっと、俺は長谷部 久人だ」

傍らでは日々香、大輔が心配そうに久人を見ている。


「そうか、俺は端蘂って言うんだ。 さっそくだが、あの髭面眼鏡の野郎が言ってたことだけじゃイマイチ分からん。どういうことなんだ?」


端蘂・・・先程の綺堂が読み上げた参加者リストとやらにその名前があったことを久人は思い出した。 フルネームは確か端蘂 友永(はしべ ともなが)だったはずだ。

先程まで綺堂に食って掛かっていた態度、威圧的にみえる外観の先入観からもっと感情的にくるものかと久人達は身構えていたが、その内容や態度は以外にも冷静なものであった。


「俺達も情報的にはたぶん皆と同じもんさ、だから一度全員で話を整理しよう」

久人の言葉に続いて大輔が現状の確認に入った。


「まず大事なことは俺達がクルーエルラボって呼ばれる施設に閉じ込められているってことだな」

部屋の中にいる者たちの意識が久人達に向けられた。部屋を見渡し、それを確認すると大輔は状況の整理を進める。


「そして何故か実験体として選ばれたらしい俺達はここから脱出しなければならない。それも72時間というリミット付きで」


「でも脱出する過程でたくさんの罠があるのよね・・・それも死んじゃうかもしれないようなものが・・・」

ボソリと険しい表情で日々香がつぶやいた。


続いて久人が現状で不明な点を補足をする。

「なぜ俺達が選ばれたのか、ここがどんな研究をしているのか、罠とはどういったものなのか、タイムリミットを過ぎるとどうなるのか、仮にクリアできたとして俺達は助かるのか、分からないことが多すぎる・・・」


「そういえばさっきあのおじさんが言ってたプレゼントってのは?ロッカーに入ってるって言うやつ」

唐突に発言をしたのは横でうずくまってシクシクと泣いている女の子を宥めている少女であった。

日々香も可愛らしいが、その少女も負けないぐらいの可愛さである。 肩より少し長いくらいのしなやかなで吸い込まれそうなほどの黒髪。 

シャープなラインの小顔でぱっちりとした目にはやや蒼みがかった綺麗な瞳が久人達を映す。

清楚感あふれる白いブラウスの上に羽織る灰色のフードが付いた控えめな濃茶色の上着。

膝上丈のスカートは上着よりも薄めの茶色で小さいリボンがあしらわれており、膝下ほどのロングブーツを履いている。


いままで久人達に集まっていた視線は次いでその可愛らしい少女に集中される。


「あ、あの、私変なこと言ったかな?」

皆の視線が一斉に自分に向けられたためか少し動揺しながら少女が言った。


「えっと、えー」

大輔が発言主の少女を見て何かを言おうとした後なぜか言葉を詰まらせてしまう。

そしてその理由を悟った少女は自分の名前を告げた。


「あっ、私は仲居 雅って言うの。この子は長ノ宮 愛香ちゃん」

そういって本人の代わりに紹介したのは雅の横で先程からシクシクとうずくまっている眼鏡をかけた少女のことであった。


「仲居さん、ありがとう。ロッカーのことすっかり忘れていたよ」

矢継ぎ早に説明されたためか、綺堂が言っていたプレゼントのことをすっかり忘れてた大輔は雅にお礼を言うと観音開きの大きなロッカーへと向かう。


「おい、大輔。ロッカー・・・開けるのか?」

久人が大輔へと投げかけた。 

綺堂といういかにも胡散臭い男がロッカーにプレゼントを用意したといった。 更に自分達の命を危険にさらす罠をいくつも仕掛けてあるともいった。

あの男の言葉をどれほど信用していいものか・・・それが全く分からない。このゲームは既に始まっており、最初の罠がこのロッカーに仕掛けられているかもしれない。

考えすぎかもしれないが、その可能性が捨てきれない以上、不用意にあけるのは危険だと感じていた久人は大輔にリスクの確認を込めて聞いたのであった。


その投げかけの意味を理解したのか大輔はロッカーのノブまで伸ばした手を一度引っ込めて少し考え込んでしまう。

そして周りの人間もじりじりとロッカーから離れれ出した。


そんな中言葉を発したのは両の手を派手なベルトのバックルが光るボテっとしたズボンのポケットに突っ込んだ端蘂 友永であった。


「確かに罠かもしんねーけど、なにか行動を起こさないとなんも始まらんだろ」

そう言うとズンズンと肩を揺らしながら大輔の元へと近づいてくる。


「どいてな、他のやつらも怖けりゃ下がってろ。俺があける」

端蘂の意外な行動に一同はキョトンと目を丸くしている。

何があるかも分からないものに自ら進んでいく少年。 それが"絶対に罠はない"という自信からなのか、それとも"罠でも大丈夫だろ"という無謀さからくるもの

なのかは分からない。 

しかし、端蘂のこの行動とさりげなく他の人へも気遣う心に久人は素直に敬意を感じた。


「端蘂、気をつけろよ」

大輔の横を抜けてロッカーの前に立った端蘂にせめてもと注意を呼びかける久人。

未知のブラックボックス。危険なのは相変わらずだ。しかし端蘂の言うとおり現状ではロッカーを開けないことには進展は無いだろう。


端蘂の警告のためか、先程まで部屋中央で集まっていた多くの者たちがロッカーとは対の隅に心なしか移動している。

そんな中で久人はむしろロッカーに近づいていた。

先の端蘂の行動で彼の人間性に感じるものがあった久人は危険を省みず現状の進展を選んだ彼だけを危ない目に合わせるわけには行かないという気持ちからであった。

もちろん、そんなことをしても端蘂の危険が減るわけではないが、どうしても彼一人を置いて逃げることはできなかった。


そしてそんな久人の近くにもう二つの影。 どうやら日々香と大輔も似たようなことを考えていたらしい。

二人の表情は硬く、冷や汗が額に滲んでいる。かなり恐怖しているようだ。腕も微かに震えているのが分かる。


端蘂は一度チラッと振り返り、自らの後方で3人が緊張の面持ちでこちらを見ていることを確認すると微かに口を吊り上げニヤけると

「呆れたやつらだな」っと少し嬉しそうに呟きそのまま正面へと向き直ると鈍銀色に染まるロッカーの観音開きの取っ手へと手を伸ばす。


ロッカーの前に立つ4人の心臓のビートが徐々に上がる。それはまるで臓器の早鐘でカルテットを奏でているようだ。

前進の毛穴全てが開き、嫌な汗がにじみ出る。 日々香は緊張に耐え切れず瞼をきつく閉じてしまう。

部屋中の視線が集まってる事にも気が付かないほどの緊張感。


ドクン、ドクン、ドクン やがて心臓の鼓動が最高潮のビートを放った瞬間、端蘂は手にしたノブを力いっぱい手前に引く。

思わず久人と大輔も逃避したい気持ちを両の目に込めて瞬時に瞑る。


"ガシャーン"


学校で聞き慣れたロッカーの扉が開いた時の鈍く軽い金属音が部屋中に響き渡る。

そして・・・沈黙。


3人は恐る恐る目を開く。


そこには先程までとほとんど変わらない光景があった。

ただ違うことはロッカーの扉が開かれ、ぎっしりと黒いリュックのような荷物が詰め込まれていることだけだ。


「どうやら罠じゃなかったみたいだな」

緊張と静寂に満ちた部屋に端蘂の言葉が通る。

こんにちは、作者の村崎 芹夏と申します。 


今回で6話目となりますクルーエルラボ。登場人物も少しずつ増えて参りました。

そして登場人物が増えるたびに私は設定などでテンヤワンヤ。自分自身で設定した内容を忘れているなんてこともシバシバ・・・なんてことは口が裂けても言えません!(笑  


一応、次話で序章は最後になる予定ですが、書きたい事が増えたら延長されるかも!? 

そんな行き当たりばったりで書いております(笑)


最近では1週間に1度(土曜日頃)投稿を目標に頑張って執筆しております! 

ですので順調にいけば次話は来週にでも。


こんな作品ですが、評価なんかを頂ければ大変うれしゅうございます。



ではでは毎度ながらこんな作品ですが、読んで頂いた方々、本当にありがとうございます。


また次もよろしくお願い致します。

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