絶望の序章 ⅴ
「髭面眼鏡!こっちにきやがれ!」
「もういや・・・」
「・・・」
部屋の唯一の出入り口である鉄製の扉のノブをガチャガチャと無理に回そうとする者、コンクリート壁をバンバンと蹴りだす者、その場でうずくまって泣き出す者、ただただ声を荒げる者、それぞれが押しつぶされそうな程の感情を必死で吐き出し行動に移しだした。 もやは手を付けられないほどの地獄絵図である。
久人はこんな状況下を自分達ではどうすることも出来ないと判断するとその視線を再び綺堂が映るモニターへと移す。
皮肉なことだが、綺堂が説明を続ければだいたいの人間がその意味を理解しようと静まり返るからである・・・自分たちをこんな目に貶めたであろう本人に結果的に助けを望むなど不愉快極まりなく、
そんな思考を持ってしまった自分の矛盾が恨めしい・・・しかし、そんな分かりきった矛盾でも尚、今は藁にもすがらなければならない状況だと自分の中で無理やり言い訳をつけた。
すると久人の皮肉に満ちた思いがカメラ越しに伝わったのか、また部屋の横方向を注視していた綺堂が正面に向き直ると先ほどと変わらぬ淡白な口調で言葉を発する。
「えー、細かいルールはまた後ほど説明するとして、習うより慣れろってことで先に進んでみることだ。えー、それと実験の参加者の確認をするぞー」
綺堂はいままで長裾の白衣のポケットに入れていた両手のうち、右手だけを取り出すとモニターの画面外からなにやら資料のようなクリップで纏めてある紙の束を取ると、確認と表して名前を呼び始めた。
「えー男子、宮江 結城、長谷部 久人、滝田 大輔、児仲 雷太、谷岡 慎太郎、栢山 橙耶、端蘂 友永」
久人や大輔、そして栢山の名前があるという事は他の名前もおそらくこの部屋にいる男子の者であろう。
「えー、続いて女子、仲居 雅、細江 遥、北川 理恵、アステリア・ユフィエル・レイラ、小野村 日々香、和田 久美、永ノ宮 愛香 以上14名が参加者となる」
全員の名前を読み上げ終えた綺堂は相変わらずの光の薄れた瞳をこちらに向け、そのままこの説明の最後であろう言葉を告げた。
「えー、では諸君らの検討を祈る。生きて先に進むことが出来たらまた会おう事もあるだろう・・・えー、あっー早々言い忘れていたがこのクルーエルラボには君たち以外の"お友達"もいるから出会った時は"頑張って"くれ」
不可解な付け足しを残して綺堂の台詞が終わると同時にいままで彼が映し出されていたモニターの電源が自然に落ち、そこには液晶の暗闇しか残されていなかった。
「俺達以外にも誰かがここにいるって事なのか・・・?」
「私達だけじゃなかったんだ・・・」
日々香と大輔はお互いに目を合わせ、ここにいるメンバー以外にも仲間がいるという事に内心では安堵していた。 何もかもが狂ったこのクルーエルラボで他にも巻き込まれた子達がいるという点では酷く心が痛むが、自分たちにとっても助け合える仲間は一人でも多いほうが良い。 そう考えてしまうと矛盾した気持ちであるが、やはり少し安心してしまうのであった。
しかし、久人は日々香、大輔とは異なる事を考えていた。
綺堂が最後に放った 「出会った時は"頑張って"くれ」 このフレーズがどうにも気になって仕方がなかったのである。
普通ならこんな事をいうだろうか・・・? 何を頑張るのだろうか・・・? どうにも引っかかる点であるが、やはり考えたところで答えは出てこない。
このことを頭の隅に追いやると日々香、大輔に問いかけをする。
「小野村さん、滝田。これからどうする? あいつの言ってたことが本当だとしたら俺達結構やばい状況なのかもしれないぞ。」
二人は久人の問いかけに対し、部屋中にいる14人の実験参加者達を見回して少し考えた後に答えた。
「大輔でいいぜ。やっぱり皆で一度話し合う必要があると思う、それで多少なりとも皆の不安が和らぐかもしれないし」
「あっ、私も日々香でいいわ。 うん、私も・・・私もそれに賛成。正直言うと私自身もいま不安で押しつぶされそうなの・・・」
そういう日々香の表情には言葉に偽り無き程に暗雲が差していた。
「じゃあ、俺の事も久人って呼んでくれ。そうだな、とにかく皆でちゃんと話を・・・くっ・・・はっ・・・」
全ての言葉を言い終わる前に久人は突如、頭を内側からハンマーで殴られたかのような激しい頭痛に襲われ、その場で頭を抱えて蹲ってしまう。
不可解な痛みと共に久人の心臓が早鐘を打つ。トクン、トクン、トクンと強壮なビートを刻む臓器のスピードは徐々にあがり、苦しさで呼吸が乱れる。
「久人君!だ・・・大丈夫!?」
「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」
目の前の二人の声が耳に届くが、経験したことも無いほどの唐突な痛みのせいで反応している余裕も無い。
何度も何度も襲い来る激痛に奥歯をかみ締めて必死に耐える。
「ぐっ・・・うぅ・・・」
やがて久人の異変に気づいた周囲の者たちの視線が集まってくる。 心配がる者、怯える者、ただ見つめるだけの者。
「うぅ・・・あぁ・・・はぁ、はぁ」
そして十数秒後、久人にとっては果てしなく長く感じた数十秒。彼を襲っていた痛激は静かにゆっくりと引いていき、やがてその症状を消した。
頭を抱えてうずくまる少年の額には大量の汗。高鳴った心臓はゆっくりと落ち着きを取り戻し始め、痛みの余韻が消え、少しずつ回復を計る久人の呼吸音が静まり返ってしまった室内に響く。
こんにちは、作者の村崎 芹夏です。 まず始めに謝っておきます。 すみません。
本来はもうちょっと先まで書いてから投稿する予定だったのですが、どうにも忙しくて執筆が間に合わなくて・・・
かと言って連載の期間をあまり空けるのもどうかと思ったので短いですが投稿しちゃいました。
ですので今回はさほど進展がありません><
一応、予定ではあと1話~2話で序章が終了し、その後、新章としてクルーエルラボ攻略を書いて行こうかと思っております。
評価なんかを貰えるとすごく嬉しいです。
ちょろっとクルーエルラボの合間に10分くらいで考えた詩も投稿してみたのですがどうでしたでしょう?
クルーエルラボもそうですが、普段なれない感じの文章ってすごく難しいですよね。
でもどんな形でアレ文章を書くのは楽しい!
また長編小説や詩なんかもちょいちょい投稿しようかと思いますので、よろしくお願いします。
ではでは今回も駄文ですが、読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。