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しごと、みつけて 1

新章スタート!やっとこの作品らしい空気が出てきます。

 さて。


 少女に仕事といっても何をさせればいいのかを思案していると、案外楽に時間が潰れるもので、それだけで数時間は無駄な時を過ごしてしまった。結局はまだ少女だし、仕事といっても大したことはできないだろう。それはわかっているからこそ何をさせるべきか悩んでしまった。まさかタダでもう一つ部屋を借りさせるには、ちょっと私の懐は心許ない。つまり誰でもできて、かつ部屋をもう一つ借りて、生活出来る分の仕事を彼女に押しつけねばならないのだ。考えるだけで頭が痛くなってくるが、こちとら頼まれ屋である。理不尽な仕事を幾つもこなしてきた経験が役に立つかもしれない。


 と思ったのだが、経験というのは土台が変わるとさほど役には立たないようだ。さっぱり良い案が浮かばない。そもそも部屋を二つ借りつつ適度な仕事を回す経験なんて培う必要なかったわけだし、一体どういう仕事なら彼女自身の経験値がアップするというのだろう。


 軋む椅子に座ってテレビを見る。なんか映りが悪かったので立ち上がり側面に蹴りを入れる。よし、映った。瞬間ノイズが走るけど、その後に映ったカラーに朝から安堵する。昨夜の大雨が止んで晴れたおかげか、電波の通りがいいのだろう。

 朝のニュースでは今日は晴れるとか言ってるな。昨日は土砂降りだったのだ、今日ぐらい晴れてくれないと気が滅入ってしょうがない。

 しばらくぼぅとしてテレビを眺めていた後、おもむろに立ち上がって台所に行く。普段からしてあまり使わない場所だが、時折こうして料理を作る。腕には全く自信はないが、いつかこの経験も活かされる事を祈っている。


 焦げた目玉焼きと焦げて炭化したベーコンと色々加減を間違えたコーンスープを持って床に置く。どんな外食よりも自分で拵えたほうが食費は安いのだ。どすんと座って不味い飯を頬張っていると、玄関の戸が叩かれた。


「はい、どちら?」と、私は扉を開く。

 少女がそこにいた。昨日と同じワンピース姿だ。

 そういえば名前を聞いてなかったな。服も買ってやらんと駄目だろう。あまり人のことは言えないが女の子がいつまでも同じ服を着てるもんじゃないからな。


「ご飯、食べにきたの」


 たかりか、良い身分だな。と思いつつも、中へと招き入れる。ホントは一人でこっそりゆっくりと朝食を嗜むのが私流の一日を平和に過ごす為のジンクスだったが、無碍に拒否をする訳にもいかない。彼女には他に頼れる人間がいない。かといって私にばっかり頼られるのも何かと迷惑だが。


「……何コレ?」

「飯だよ」


 失礼な少女だ。見てわからないのか。


「……」じっとこちらを見つめてから、「ヘタ?」

「悪かったな。料理ばかりは免許を取ってないんだ」

「免許とってなくても、お料理できる」

「良いことを教えるよ。完璧な人間は一人もいない」

「……」


 人が素晴らしいことを教えてやったのに、少女はそれを無視して台所へと向かった。何かと掃除していないその場所を見て一瞬足を止めたが、何か意を決するように小さく頷いて中へと入り、冷蔵庫から勝手に卵とパンと牛乳を取り出した。

 料理でもするつもりだろうか。

 ちょっとしたお嬢さんの空気を出していたから、それこそそういう家事手伝い系は苦手だと思っていたのだが……。早とちりはするものじゃないな。


 そう、それは本当に私の勘違いだった。


 歌でも歌い出しそうな身軽さで、彼女はフレンチトーストを作り上げていく。四分の一ずつにカットされた食パンに程良く絡んだ卵、それをフライパンで焼く。私が作るとパンにあそこまで卵は絡まないのだが、どういう手品を使ったんだか。


「牛乳、混ぜる」


 そんな私の思考を読んだわけでもないだろうが、じっと見ていた私が気になったのだろう。少女はそう呟いた。

 一体何に牛乳を混ぜたのか、よくわからないが。

 あっという間に出来上がったフレンチトーストが私の前に並べられた。すっかり冷えた黒い目玉焼きと並べられると、シュールすぎて笑いも起きない。


「つぎはわたしの分。食べてて」


 言われたとおり、砂糖を適当に振りかけて食う。蜂蜜とかそんなのはないから砂糖だ。

 ……素直に認めよう。彼女の腕は私より上だ。フレンチトースト程度で何をとは思うが、それでも潔く認めることは美徳である。


「よいしょ」


 じーさんみたいなことを可愛らしい声で言うな。少女は私の真正面に正座で座り、同じく砂糖を振りかけ、フォークを刺して食べ始めた。


「床に座るのは慣れてるのか?」


 思わず訪ねてしまう。あんまりそういう習慣はここら辺には無いと思ったが。


「うん、家だと座って食べてた。こたつはあった」


 コタツ、ね。なるほど、それなら座って食べる習慣があってもおかしくはない。ここより離れた土地の住人であることは今ので察することが出来た。やはり彼女の親は観光目的でこの緑の町へ来たのだろう。

 そうするといつか親戚が彼女を迎えに来るかもしれない。本当ならそうするのが一番だ。しかし彼女は頑なになって連絡先を私に教えてくれないだろう。昨日から続くやりとりでその程度には彼女のことを理解していた。しかし法律の関係もあって親戚が彼女を引き取りにきたら強制的に帰してやらねばならない。いくらまだ若いとはいえ、その辺がまったく分からないなんてことは無いだろう。つまりそれまで手伝うと申し出てきたのだ。

 逆にこの国の法律は引き取り手のいない子供に対して残酷だ。若い身空から働くか、孤児院の二択しかない。まぁ、まだ孤児院があるだけこの国はマシなほうだろうし、実質的にそれ以上どうしようもないだろうね。


「ところでだ」


 私はフォークの先を少女に向ける。


「私は君をなんて呼べばいい?」

「なんて? 名前?」

「そう、名前。私はイチコ。こう見えても性別は女」


 偶に自分が女か男かわからなくなるので敢えて一言付け加えておくのだが、正直意味はない。ただまぁ寒い日に飾りっ気もないコートを着ると身体の凹凸が目立たなくなるため、人からはよく間違えられる。というよりも男に勘違いされることが多い。短い黒髪に喋り方が災いしているようだ。


「イチコ……シキ」

「シキ?」


 少女は頷いて、自分を指差した。


「あー、名前ね、名前」


 わかりづらい少女である。


「じゃあこれからはシキと呼ぶ。いいね」

「うん」

「よし、シキ。今日から働いてもらうけど、それは大丈夫かい」

「そのつもり」

「いい心構えだ。それで、私の仕事はどういうのかわかっている?」

「何でもする人」

「間違ってはいないけど……まぁいっか。今日は一日私の後ろをついてくるんだ。仕事しながら、頼まれ屋というのがどういうのか教えるよ。ちなみに何でも屋とは違うからな」


 一言で説明するのは難しい。それでも敢えて一言にするならば『器用貧乏な仕事』が適切だろう。ある程度何でもこなせるような人間でないと勤まらない仕事だ。この街でも私ぐらいしかこんな仕事をしてる奴はいない。自業自得とはいえ、そんなのを手伝わせようしてるのだから、よくよく考えれば頭が痛い。


「最近仕事らしい仕事の依頼はないから、さてどうしたものか」


 集められる場所はいくつか知っているのだが、こんな子供と一緒ではあまり入りたくない場所だった。


「いつも通り」


 ――目の前の少女、シキのことについて理解したことがもう一つだけある。彼女は人に意志を伝えるとき、極端に言葉が少ない。相手に意志を伝える術は基本的に言葉や文字しかないというのに、それが足りないとなると厄介だ。

 だからといって今から言葉を教えるわけにもいかない。これでも生活がかかっているので、仕事を優先させてもらう。


「食器を片付けたら出かける。ちなみにまずは服屋だが、作業に適した服装を選ばせよう。ま、店に行けば何かあるだろう。流石にそのワンピースじゃ仕事に差し支えるし、一着しかないのは何かと不便だろ」

「それがいい」


 少女はすかさず私を指さした。


 一瞬何の事かわからなかった私であるが、すぐさま何を意味しているのか、少女が何を望んでいるのかを察して、頭を抱えたくなったのだった。


次回「しごと、みつけて 2」は6/26(水)22時の掲載予定となっています。

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