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こころ、さがして 3

今回は結構短めです。次回掲載は6/19(水)21:30~22:00の間を予定しています。

 この町はどういう理由かさっぱりだが、全体が緑に覆われていた。


 植物名こそ忘れてしまったが、ある一種類の蔓がひょろひょろと伸びて全体を覆い、一歩外へと出れば視界の一片でも緑色が入らない場所はないぐらい、壁や道、ありとあらゆる部分に植物が伸びていた。さらに便乗するかの如く、どこぞの木まで隙間を縫って成長するものだから、一種異様な光景が広がっている箇所もある。こいつらはいくら刈っても勝手に伸びてきて、仕舞いには草刈り屋という町の床屋みたいな専門職まで生まれるといった具合だ。


 そんな町はおそらく世界中を探してもココぐらいしかないだろうという気がしている。おかげで、この子の家族みたいな観光客が訪れるのだが、先程も言ったとおり、この街は複雑に入り組んでいる。迷子なんて決して珍しい話ではないのだ。だからこそ本来は手間が掛かる前に警察へと連れて行くのだが……。


「見つからなさそうだね」


 とにもかくにも手伝う話となり、私は迷子がこれ以上迷わないように案内役を務めている事となった。お嬢様の我が儘な探し物と一笑するには、ちょっと少女の顔が真剣に過ぎる。


「川に落としたかも」


 といえば川の中をじぃっと覗き込み、


「道ばたに落としたかも」


 といえばポリバケツをひっくり返す勢いだ。


 緑色の町に紛れ込んで、すっかり姿を隠してしまったその『こころ』なぞ、どうやって見つけるもんかね。

 小さな身体を一生懸命に動かしている様は、まるで諦めようとしないことを疲れ気味の私に向かって殊更強調しているようだった。引き受けたのは私からなので、そうそう休もうなんて口に出せる空気でもない。


「いつ落としたのか、それもわからないのかい?」

「……落とした日は知ってるの」

「日だって。時間じゃなくて?」


 ということは何日も前から探していることにならないか。


「あの……交差点で、うしなったの」


 言いながら、少女はすぐそこを指差した。

 その交差点とやらを観てみると、時折自動車が走る何て事はない十字路の交差点だ。今は南北へ通ずる国道の歩行者側が青信号になっている。国道というだけであって、道ばたに緑が這っていることはなく、綺麗に整備されていた。町全体をそうして整理しといてくれると随分助かるのだが。


「あそこでうしなったんだけど、どこで落としたのかわからないの」

「あそこで」


 交差点で失うモノ、か。何やら嫌な予感がしてきた。大体において嫌な予感というのは外れてくれないものなのだ。良い予感ほど訪れてくれないというのに。


 そしてその予感は的中する。


 ひっそりと、交差点の角に添えられた綺麗な花。ここら辺のものではなく、わざわざどこかに頼んで取り寄せてもらったと思しき種類の、茎の部分を切り揃えられ、白い紙に包まれた花の束。しかし少しだけ萎れていて、どこか哀愁を漂わせている。

 両親のいない小さな子供。そう、そういうことだったか。

 失ってしまった『こころ』とは、つまり──


「それを探して、どうするつもりだい?」


 私には見つけられないモノだったのだ。いや、それは少女も同じだ。誰だってその寂しさ、悲しさを埋めたくて探してしまうモノ。

 いくら頼まれたってそれは発見できやしないなと、空を見上げた。部屋を出る前はなんとかなるだろうと気楽に構えていたものだったが、あの雲の濃さはいよいよ本格的に雨の訪れを告げる鐘に等しく、鐘を鳴らすなと憤ったところであの雲達は全く話を聞きやしないだろう。そう、頼まれても不可能な事は引き受けても仕方ない。仕方ないのだ。


 だが──


「雨が降るまで、もう少しだけ余裕があるな」


 少女の肩を軽く叩く。私の手が特別厳ついわけじゃなく、その手の平にすっぽりと収まったのは、小さな肩が妙に痩せていたからだろう。

「その雨が降った時が、タイムリミット。それまでは探そう。そして見つからなかったら、その時は諦めるんだよ」


 肩に乗せた手から、小刻みな震えが伝わってくる。


「それで納得しよう。そうじゃなかったら……」

 なんとなく、その先を言うのは躊躇われた。


 ……そうじゃなかったら、あんまりだ。


「こころ、さがして」編はあと二話を予定しています。

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