こころ、さがして 2
「君がここにいると気になるという老人が居てね。私は彼の気を散らす原因を取り除かなければならない。が、その原因は原因となっている理由を話してくれそうもない。けど、老人の頼みを叶えるには原因の元を取り除く手伝いをしなければならない。オッケー?」
一気に話すと不思議な自信が沸いてくる。それこそ不思議だったが、その自信が相手に通じるとは限らないのだ。大人の社会とは何とも無情で冷徹なものだ。こちらの凡ミスを発見次第、まるで水を得た魚よろしく言葉の針千本を叩き込んでくる。
少女は立ち上がって歩き出した。もちろん、私から離れる為だろう。これで一応は障害を取り除いたことになるのだが、まぁそういうわけにもいかない。
この町は治安こそ悪くはないが、悪人がいないわけじゃない。当然ながら事件も起これば不祥事もあり、強盗もあれば泥棒もある。殺人事件がこの間新聞の一面を飾っていた。その中を金持ちそうな少女一人で歩かせる訳にもいかないだろう。
ノースリーブの淡いワンピースの背中を見ながら、その後をついていく。さてさて、知らない町の中をどこまで歩けるものか。
──案の定、すぐに少女の足は止まった。
緑の町は不必要に入り組んでいる。壁という壁には蔦が這い、地面はやや滑りやすい具合に濡れていた。この町に住んでいるわけじゃない少女がここを歩くのは酷だろう。見ればサンダルじゃないか。足を滑らせでもしたら挫いてしまいかねないな。
「探し物なら警察に行くと良い」
返事はない。
「頑なに手伝いを拒否するのはなんでだい?」
ややぶっきらぼうだったかもしれない。バッグを背負い直して周囲を見回す。飲み物を買おうと思ったのだが、自動販売機はどこにもなかった。普段そんなものなど利用しないので、正直どこにあるかなんて覚えていない。
仕方ないと、私はなおもヒョコヒョコ歩く少女を見守りつつ、一定の距離を保って背中を追いかけた。まるでストーカーっぽくて気分が悪い。
またもや足を止めた。今度は知らない土地、歩きづらい道だからといった理由ではなさそうだ。へたりと座り込んで、私を見上げてきた。
「……なにや?」
「ん?」
やっと話し掛けてきたと思ったら……意味がわからない。
「なにや?」
「何を言っているんだ、君は」
「てつだって……くれるの?」
ああ、なにやっていうのは『何屋?』か。
「ん、ああ……そうだが」
頼まれたから嫌々に、とは言えなかった。少女の顔が、私のそういったマイナス面ばかりを生み出す素直さを取り除いてしまったようだ。一時のものだろうが。
しかし何よりも驚いたのは少女から話し掛けてきたことで、完全に無視をされていたわけじゃないと気付かされた事だ。てっきり自分は鬱陶しい大人なんだろうと思っていたからだ。
「探し物を教えてくれると有り難いんだが」
「……こころ」
「こころ? 心、か?」
こくりと頷かれる。
これはまた随分と抽象的なものを探しておられる。
「なるほど、拒否をしていた理由が分かったよ」
肩をすくめて首を振る。意味は分からなかったが、心とこられたからにはどうアドバイスしていいのか検討も付かない。そもそも探せるものなのか。
「探してくれる……って」
確かにそう言った。溜息をつきたくなる。しかも思いっきり。
「そうだな、私に出来ることなら何でもしよう。で、何をどうやって探せばいい。私は頼まれ屋だ。頼まれれば何でもしよう」
「たのまれや……わたしが落としたこころを探してほしいの」
「それはどんな形をしているんだ?」
「それも探したいの。失っちゃったから、わからない」
やれやれ、本気で重症だ。
「一目でわかるものなら良いんだけど」
「……みてみないと、わからない」
分からないのは困る。
「わたしひとりじゃ、みつからない……」
「……そうか」
だから手伝って欲しいということか。子供とはいえ見知らぬ人間だ、警察に無理矢理連れて行ってそこでお終い、という手段も考えなかったわけではないが。何にしろ彼女はようやく私を頼ってくれる気になったようだ。そうなればもう嫌々という気持ちは吹き飛んでしまい、今はその期待に全力で応えたくなる。
「──この街を回ってみてはどうだろうか。私が案内をしよう。そうすればこの街で不自由な君でも歩けるだろう。観光客にはつくづく優しくない場所だよ、ここは」
場所は優しくないが、せめて言葉だけは優しくしたいと願ってそう言った。
「座っていては歩けない。立ち上がらないと探せない」
「……うん」
まるでその言葉に促されたかのように、少女は立ちあがった。
また続きます。……ん?あんまり話が進んでいないような……? き、気長にお付き合いください!




