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ふたり、はなれて 7

 今すぐあそこへ行って連中をとっ捕まえたい衝動を抑え込み、目を背けた。これ以上見ているともう自制心で抑えられなくなりそうだったからだ。抑えられなかった部分は食い込む爪の痛みだけで十分である。


「イチコ」


 少女は私を見上げ、そっと首を傾げた。するりと、柔らかそうな髪が流れて左の耳にかかった。


「大丈夫だ。何でもない」

「あれも……記憶がないだけで、もしかしたら」

「言うな」


 彼女の言葉をその一言で遮る。


「時限式だとでも言うつもりかい。それなら見当違いだ。これだけ時間を空けて爆発させてどうするんだ。あの方向は先ほどの爆発と距離が近い。先に爆弾が発見されて解除される可能性もあった。だから時限式じゃないさ」


 自分の推理は、あくまでシキを安心させる為のものだ。それが正解かどうかなんてこの際どうでもいい。

 シキを庇って、町を案じて。

 まったく……もっと気楽な性格だと自負していたつもりだったんだが。


「イチコ、つらそう」

「シキは心配することない。大丈夫だ。私は案外こういうのに慣れているのだから」


 その言葉が吐き出された直後、シキが私の腕をぎゅっと握ってきた。たいして痛くないのは少女の握力が平均以下だからだろうか、それとも遠慮しているのか。そこらは判断つかない。

 ただ、やろうと思えば簡単に振り解けるその腕を振り払おうという気にならなかった。


「辛そう……すごく」

「だから慣れてるさ。シキがとやかく言うことじゃない」

「ちがう。イチコはかさねてる。きっと自分とかさねてる」

「……なにを?」


 まさか見抜かれたか、と心臓が跳ねそうになった。


「わからないけど……そう思った」

「……そうか」


 私の過去が知れたのではないと分かり、ほっと胸をなで下ろす。

 さらに爆発が起こり振り返ると、またもや別の建物が冗談のように崩れて、瓦礫と化した。その衝撃で周囲の建物もかなりの被害を被ったことだろう。


「……一体何が目的なんだ」


 あの無差別の破壊は一体なんだというのだ。

 ――もし、シキの言う通り、この行動がかつての私と同じなら?


「ただ、破壊したいだけ……?」


 そういう結論に辿り着く。これは必然だ。昔の己の頭をトレースすればごく当然のように辿り着く結果。かつての私は破壊を楽しんでいた。何でも壊せるこの両手で、何でも壊し、憎しみの先にあるものを楽しんでいた。

 ――ハローグッバイという連中は爆弾でそれを楽しんでいるということか。そうなると奴らの正体が気になる。シキの両親、彼らを知っている者、しかしその子供であるシキを放置する理由……。

 ……そうか、そうなのか。もしかしてそういうことなのか。


「もし、それが本当なら……」


 時差を使って爆発を起こしている。周囲の建物を巻き込み、楽しげに嘲笑うその姿。連中の考えていることは手に取るようにわかる。なるほど、さぞかし楽しいだろうよ。私は爆弾なんぞ使ったことはないが、もしそれを手段として楽しむ野郎なら、その両目にこの崩れやすい町がどれ程魅力的に映ったことだろうか。


「イチコ、止められる?」

「あの爆発を、かい? なら無茶言うな。いくらなんでも爆発の中を飛び込んで帰ってこれるなんて、映画のワンシーンぐらいさ。爆発の中を飛び込むのは無理だ」

「……うん」

「だが、これ以上爆発はさせたくないな」


 意を決して、私はシキに微笑んだ。


「爆発をなんとかすることは無理だが、爆発する前に止めることは可能だろう。ちょっと動いてみようかね。段々と面倒な紐が解けてきているからね。多分、動けば間もなく解決するさ」


 その為にはそれこそタクと連絡を取らなければならない。


「近くに公衆電話は……」


 トランシーバーをジャックして云々、という発想もあったが、後々面倒なことになりそうだった。そんなことをして警察からごちゃごちゃお説教をくらうのもなんだ。この辺にある店と公共施設を思い出しながら、窓から外へと抜ける。夜も近いからか、空気がひんやりと冷えて肌が引き締まり、ほおに緊張が走った。奴らは――いや、奴はまだ爆発を続けるだろう。奴の目的は最初から警察を狙うことなんかじゃなかった。もっと愚劣だ。ただ破壊を楽しんでいるだけなのだ。

 電話ボックスを発見し、まだ回線が生きていることを祈りつつ百十番する。


「くそ、回線が混んでいる」


 緑の町にかつてない混乱が生じ、そのせいで電話回線がパンク寸前ということだ。それでも諦めずに何度か警察へと電話をかけ直し続ける。

 二十回を超えたあたりでようやくコールが鳴る。


「はい、こちら緑の町警察署――」

「タク刑事を頼む! 早く!」


 怒鳴るように言うと、受付の女性らしき人が「わっ」と声を上げた。


「え、えっと、タク刑事は現在病院で治療を……って、え、タクさん? 大丈夫なんですか?」


 電話越しに向こうでなにやら話している。


「替わった、誰だ?」

「私だよ、タク」

「イチコ! イチコか!」


 電話越しでも五月蠅い奴だった。


「タク、話を聞いてくれ。信じられないかもしれないが」

「ちょっと待て、ジンヤさんがお前達を探してるんだ。というか、そこにシキちゃんがいるんだろ? なんで探してるか分からないけど、すぐにここまで来てくれないか。なんかジンヤさんが呼んでるんだ。それで無理矢理署まで来たんだが」

「それだ。それについて話がある。いいか、落ち着け。そして驚かず、周りに悟られないようにしてくれ。いいな。納得しないと話ができん」


 しばらく無言が続く。異様な緊張感が相手にも伝わってくれたことを心の中で祈る。


「……あ、わ、わかった……なんだよ、何があるんだよ」


 伝わってくれたようだ。これからタクに私が推測した全てを語ることにする。


「実は――」


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