みどり、どかして 1
朝、扉がドンドンと叩かれその音で目覚めた私は、仕方ないなぁとその扉を開こうとする。……が、妙な力が掛かってなかなか開かなかった。
こういう時の原因なんぞ九割九分植物の所為だと、この町の相場は決まっている。
「シキ、離れてろ」
そう言って、ドアノブを捻ったまま、足に力を入れて強引に開ける。ぶちぶちと音が聞こえるが、もちろん蔦が引きちぎられる音だ。この間綺麗にしたばかりだというのにもう成長しているなんて、まったくこいつらが憎い。
シキが外から扉を叩いていた理由なんてわざわざ聞くまでもない。彼女のか細い腕ではこの緑を引き裂いて扉を開くなんてことできやしないだろう。大の大人でもここまで絡まるとコツを掴むまで力ずくでは難しい。アパートの扉にびっしり張り付いた蔦を見上げつつ、またもや刈らなきゃならんのかとため息を吐く。
「すごいみどり……」
「凄いだろ。ここに住むということは、こいつらと付き合っていくということだ。三日前は雨でそれ以降は晴れていたからな。水分はあるし陽はあるしで絶好調だったんだろう」
「うん。じゃああさごはん」
「やっぱりそっちか」
この子が来るようになってから、食事はまさに大革命の時を迎えた。
大革命を迎えてしまったなら仕方ないじゃないかと、彼女を部屋の中に入れて好きなように台所を使わせる。三十分もしない内に温かい料理にありつけるなんてありがたいことだ。数日前の自分が侘びしく思えてくる。
テレビを付けるとどうにも映りが悪かったので二回ほど側面を叩き調子を正す。
朝の番組はお菓子の特集だった。朝から甘ったるいお菓子ばっかり見ると、それだけ胸焼けしそうになる。とはいえ他の番組映したところで大して脳に入ってこないのだから、テレビの言う見た目も鮮やか美味しいお菓子特集を椅子に跨ってぼんやり眺めているぐらいしか今はやることがない。
そうしていると少女が椅子の隣に座ってきた。
「朝食は、おかし?」
「勘弁してくれ」
朝から胸焼けしそうなクリームアンドチョコに砂糖まみれなんていうのはごめん被る。その一言でシキは再び台所へ戻っていった。
「甘いモノが苦手というわけじゃないんだけどね……」
おそらく同世代の連中はみんなお菓子が好きだろう。休日は街に繰り出してスイーツを楽しんでるのかもしれない。
番組に目を戻すとその特集は終わっており、新しいニュースが流れ始めた。テロップからしてどうにもきな臭い。なにしろ『またも爆弾魔か』と書かれているのだから。
爆弾魔というと嫌でもハローグッバイを思い出してしまう。あの時から今日で二日目となるわけだが、少なくとも昨日は何もやってこなかった。状況から考えてマサオに何かを仕掛けた可能性は高いわけだが、その後に行動したマサオを私達が止めて相手のもくろみを挫いている。失敗した人間を放置したままにしておくだろうか。――警察も当然そう考えてマサオの周囲には密かに人員を割いているという話もあるというのを、昨日タクからこっそりと聞き出した。
「できた」
今日は出汁巻き卵にパンか……。妙な組み合わせだ。
「ご飯、炊けなかった」
そんな私の心を読んだというわけでもないだろうが、シキはそう呟く。使えなかったというよりも、ろくに洗ってもいなかったので汚くて触りたくないってことだろう。
「あとで洗う」
「そうか、頼みたいな」
部屋の蛍光灯がチカチカと光る。そろそろ寿命らしい。外は植物が多くて扉を塞いでいた。そういえば窓も汚れているし、炊飯器や電子レンジはいわずもがな。
なんだかんだいっていたタクから「やっぱり悪いと思うから自腹で払う」と義理堅い言葉と共に先日仲人の挨拶依頼とマナコの依頼報酬を受け取っていたので、懐も余り寂しくない。
「ん~」
パンを囓りつつ、どうしたものかと頭を捻らす。こういう時は普段やらないことをやったほうがいい。
「今日は掃除だ」
そう決めた。パンを喉の奥へと押し込んで牛乳を一気のみする。
「家の中を掃除して、アパート周囲の植物を全部刈る。忙しくなった時に後悔しないようにな」
少女は混乱しただろうが、私の中では決まったことだ。さっさと立ち上がり部屋の掃除を始める。なんてことはないただの掃除だ。今まで手も付けなかった部分までやろうという気になったのはなんでだろうか。




