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なかを、とりもち 3

次回は8/2(金)22時頃を予定しています。

宜しければまたこの作品にお付き合いください!

「今日は平日だろ。居るのか?」

「昨日の今日で仕事なんてしないだろう。この町に住む奴らは皆マイペースさ」


 タクは私の想像通りに首を傾げた。訳が分からないのも当然だろう。

 そう、この町の住民特有のマイペースっぷりだからこそその夫婦の家に行けば大体居るだろうと思ったわけだ。とはいえそこらを緑の町の比較的新参者と思しきタクに説明してもあまり意味はない。タクとシキを引き連れて、私達はそこへと向かった。

 夫婦共働きというわけじゃないので奥さんがいてもなんら不思議はないし、そもそも彼女は妊婦だ。無理もさせられないだろう。不思議があるとすれば働かなければならない旦那が余裕たっぷり、ソファーでくつろいで私達を出迎えたということだ。――そんなマサオに半ば呆れつつ、私達は家の中へ案内された。


「イチコ、お前の方から来るなんて珍しいな」


 まだ金持ちとも言えないし出産も控えているというのに、この男には無駄に余裕がありすぎる。これから大量の出費を抱えていくことになるというのにこの大物ぶりは将来を期待させる、というわけじゃなく、将来をどことなく不安にさせる類のものだった。そもそも昨日のことはもうすっかり忘れてしまったんだろうか。


 奥さんのヨウコはヨウコでシキを見るなり「かわいいー、やっぱりこんな子が欲しいわー」とうっとりして、


「シキちゃん、アイスクリーム食べる?」

「食べる」

「だめだって」


 折角の申し出を断りつつ、私は玄関で立ちつくす男の襟首を掴んで引っ張り込んだ。


 昨日の今日という意味を知ったタクはしばらく呆然としていたが、クライアントがそれではこちらとしてもやりにくい。笑顔で出迎えてくれた夫婦に一通りの事情を説明し、何かアドバイスが無いかと求めてみる。


「そうだな、そっちの刑事さんは……」


 昨日の変な状態だった時の記憶は曖昧らしい。一応病院で一通りの検査を受けて何も無かったから解放されたとはいえ、タクに飛び掛かられた記憶は多少残っているのか、その目はあまり彼を歓迎しているとはいいがたい。けど刑事のおかげで奇妙な行動の結果を見ずに済んだことも事実なので、無碍に断るわけにもいかないという葛藤を抱えているようだ。


「昨日の敵は今日の友か」


 自分で自分をそう納得させたようだ。それで水に流そうとしているのだから、意外と心も広いのかもしれない。


「仲人って普通はもっと身内じゃねーの? どういうことかよくわからんけど……んじゃアドバイスさせてもらうが、その前に……恋愛を成立させた俺から言わせてもらうとアンタは女関係にビクビクしてるクチと見た? 違う?」


「むっ……」


 押し黙る刑事に、自分の推論は正しかったとほくそ笑むマサオ。そんなのは私から見てもバレバレだ。


「そこでだ、女性との会話をなんら問題なくこなせるようになれば、友達の良いところも普段のお喋りを楽しむ程度には伝えられるんじゃないか。だからちょっと訓練しようぜ。都合良くここには女がいっぱい居るんだしな。おっと、ヨウコは駄目だ。そっちの二人にしなよ」


 私とシキを指差す。


「ちょっと待て、そっちって……これか?」


 マサオは私達だが、タクは私を直に指差してきた。


「……まぁ、女に見えるかっていうと、ちょっと即答しがたいけど」

「だろ? こいつ相手じゃ緊張しない」


 非常に失礼な奴らだった。否定はしないが気分は悪い。


「じゃあシキちゃんだろ。なぁシキちゃん、構わないよな?」


 分かってるかそうじゃないのか、それとも仕事を任せられるのが嬉しいのか、シキはこくりと頷いて了承した。したからには、今回のはシキの仕事となる。これはちょっと面白い。


「じゃあシキちゃん、こっちへ」


 テーブルを挟んでシキとタクが向かい合う。

 相手が子供だからさっきまで全く意識してなかっただろうタクだが、いざ女性として意識をすると緊張するらしい。まさかそういう意味で子供好きというわけじゃないだろうが、一応シキも女の子ということだ。


「相手の男の良いところをシキちゃんに説明するんだ。やってみ?」

「わ、わかった」


 こほん、と一度咳払いする。


「え、えーっと、本日はお日柄も良く――あ、これはいらないか、どっちだ? ま、まぁあれですね、あいつの良いところっていうのはですね。面倒見が良いところなんですよ。俺が仕事で尾行に失敗してもあいつがフォローしてくれますし、何よりですね、俺が犯人取り逃がしてもあいつが先回りして捕まえてくれたりですね」


 それは面倒見がいいんじゃなくて尻ぬぐいさせられているだけじゃないか。


「結婚式でそんなこと言うつもりか。まぁいいんだけど」

「う、うるさい。緊張して上手く話せないんだ」


 さっきはシキも女の子だと思ったが、さすがにまだ十歳ちょいの女の子相手に緊張しすぎじゃないだろうか。


「それでは改めて。本日もお日柄良くは、あ、本日はお日柄も良く、この度は二人の門出を祝って私が仲人役として二人の仲を末永くお付き合いし職業は緑警察署の刑事で――」

「ちょっと待ったちょっと待った」


 あまりの暴投ぶりに慌てて止めに入ってしまった。どうやら自分で考えさせるより、こちらが文章を作成した方が良さそうである。マサオにそう提案し、チャレンジは改めてということになった。

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