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なかを、とりもち 2

本日22時頃の掲載を予定していましたが1時間ほど遅れてしまいました。

大変申し訳ございません。

 ゲンさんが連れてきてくれたのはこの町でも珍しいマンションが建ち並ぶ地区だった。

 マンション群の近くには二十四時間体制のスーパーと十分おきに電車が止まる駅、生活一般を揃えるのに困らないデパートもある。我々がいる地域とはまたかけ離れた豪華さで、なんとも身分の差を思い知らされるねこれは。

 そもそもこの緑の町が一部を除いて諸地域より開発が遅れる理由の大半は、この植物共にあるのだ。東地区なんてある時から植物によって人が住めない地域すらある。どういった理由からか地面からにょきにょき生えるこいつらの処理に手間取い、開発が遅れているという。そして緑の町名物であるあの崩れそうな建物達ときたもんだ。住み辛いというよりも外から来た人からすれば『住むのが危険』という印象が強いだろう。

 この辺のマンション群はまだ建造に取りかかっていない段階で地面から根っこごと引き抜き、かなりの植物を減らして対策をしているとはいうが、それでもちらほらと見える緑色を見遣るとそれが完璧でないことが知れる。緑色の彼らは遠慮なんかしないおかげで、この辺の草刈り屋は金持ち相手に大儲けだろう。


 そう、この辺に住む連中は金を持っている。マンションという最近建てられたところに住むような連中は昔からこの地に居着く一軒家の人間達とは違い、わざわざ金を払ってここへ引っ越してきたぐらいだ。その理由は色々とあるが、せいぜい緑溢れ空気が綺麗で、都会まで電車一本で行けるというふれこみで引っ越してきたというところだろう。間違ってはいないのでそれに関しちゃどうこう言うつもりはない。たとえ彼らがここまで緑溢れる場所だと想像していたかどうかも、どうだっていい。緑の町の連中もここらに住む人間を『新参者』として一括りにしている感があるとはいえ、基本的には知らんぷりだ。

 ただまぁ金持ち連中は悩みが少ないのか私に依頼を持ってくる人が皆無な為、ここらに知り合いは一切いない。下手すると向こうだって私を知らないだろう。それなのに指名してくる人がいるとは、一体どういうことだろうか。

 街の噂で知ったとかなら、別段不思議でもないか。

 そう思い直して、ゲンさんの後をついていく。


「ここの三○五号室だ」


 八階建ての建造物だった。三階なら大したことないなと階段で行こうとすると、ゲンさんが私の服をがっしと掴んできた。


「階段は腰に響く。エレベーターにしようや」

「年だね」

「五十年後にこの気持ちはわかる」


 その五十年後とやらにはゲンさんのようになるわけか、私も。


 エレベーターで三階へ。ウチのアパートから見える二階の景色とはまた違った光景が広がりをみせる。この緑色というのは眼に優しく、いくら見ても飽きないものだったが、さすがにこの町へ来た当初のような感動はもう心の中にいくらも残ってやしない。

 インターホンを押せばいいのに、ゲンさんは律儀に扉を叩く。

 しばらく待っていると中からひょっこりと見知った顔が現れた。


「んな……」


 なるほど。確かに私を知っている人物だ。

 驚いた事に、中から出てきた人物は昨日の間抜けな若い刑事こと、タクだった。





「俺としてはとても屈辱的であるのだが、背に腹は替えられない」


 そりゃそうだ。背と腹は替えられない。

 そんなくだらないツッコミを心の中でしつつ、私とシキは用意された茶を同時に啜った。


 目の前の刑事は例の仲人の件で悩みまくった挙げ句、本日有給休暇まで取ってしまったらしい。昨日の動きが鈍かったのもそれが心に引っ掛かっていたからだというが、そんなのが刑事になっていいのだろうか。仕事が仕事なので気持ちを切り替えて職務を全うして欲しい。

 で、先の一件で頼まれ屋という存在を知り、わざわざ頼んできたとのことである。元々ゲンさんとは知り合いだったらしく、ちょっとゲンさんに相談したら頼まれ屋と顔見知りだというから、これは丁度良いということで、なんやかんやで今に至る。

 ゲンさんはゲンさんで何か食べられないかと、私達からやや離れた場所で椅子に座っている。何故か私達はコタツを囲んでいた。


「人前に出るのが苦手なわけじゃない。コミュニケーション能力が劣ってるとは思っていない。ただ、そのな、誰にだってあるだろう?」


 言いながらバンとコタツを叩く。上に乗ってる蜜柑がちょっと跳ねた。

 タクはそういうがな、いまいち要領を掴めない。


「苦手なこと? なこうどが?」

「うっ……そうだ。そもそもおちびさん、君までなんで居るんだ。どういうことだ?」


 警察の立場からすると、まだ義務教育中と思しき子供を働かせていることに抵抗があるのだろう。私だって素直に受け容れたわけじゃないが。


「とにかくだ、人の人生が掛かってるんだ。そんな場所で二人の仲を取り持つなんて俺に出来るわけないだろ。というより親がやれよ。上司なんだし。なんで俺なんだよ。あの野郎、お前ならなんか人畜無害そうだから頼んでみたとか抜かしやがって。俺に出来るわけないだろう。上司まで使って俺をハメるなよ、ちくしょう」


 なんともまぁ、情けなさここに極まる男である。


「いいじゃないか。人生の門出を祝ってやればいい。気分良く、だ。それじゃいけないのかい? 私なら普通に引き受けるけどね……本当は嫌か?」


 質問を投げかけつつ、茶碗を差し出す。お代わりという意味だ。タクは渋々受け取りつつポットから茶を注ぐ。


「結婚はいい。羨まし――とても素晴らしいことだ。祝い事だ。だがな、そんな二人の人生に今後一生記憶に刻まれるだろう事を俺がやっていいのか? よくないだろ? そんなこと俺に任せるな。けど任されたんだ。やるしかないんだ」


「あんたが今まで捕まえた犯人も、今後一生あんたの顔は忘れないだろうね」


 お茶を受け取ってもう一回ずず~っと啜る。なぜかシキがそんな私の動きに合わせて同じく茶を啜った。


「別に犯罪者に顔を覚えられるのはどうでもいい」

「あっそ」

「つーわけでだイチコさんよ、俺の背中を押してくれないか」

「唐突だね、アンタも。要するに自信を付けさせてくれってことだろう」

 それを他力本願というのだが、それを言ったら私の仕事が無くなってしまう。頼ってくる人がこの世からいなくなったらいきなり職無しだ。

「大体相手の男の良いところを相手の女に伝えるとかな、無理だ。あいつに良いところはないんだぞ。どうやって伝えるってんだよ。教えてくれよ」

「無茶いいなさんな。私はその二人の事を知らない。……そうだね、実際の夫婦に色々聞いてみればいいんじゃないか。まだ結婚して一年経ってない夫婦を知っている。別に仲人仲介でやったわけじゃあないが、男女関係に関してはまだまだ現役の筈さ」


 相手の顔が輝き出す。そもそも仲人なんて私もやったことないし、その場に居合わせたこともないんだが。


「本当か。案内してくれよ!」

「ただし、文句を言わないこと」

「あ、ああ……」


 何の文句かも聞かず、タクは了承した。情けない上に間抜けがついた。


「え、いいんだ」


 眼前の大人よりしっかりしているらしいシキは、おそらく全てを分かった上でそう呟いた。そんなシキの頭をぽんぽんと叩き、立ち上がる。


「さて、それじゃ行きますか」

次回は7/29(月)22時頃を予定しています。

宜しければまたこの作品にお付き合いください!

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