しごと、みつけて 10
結局、マサオ夫妻と私達は警察署へお呼ばれとなり、色々と事情聴取を行われた結果、署を出て『グリーンランチ』へ着いたのは夜になってからだった。店の中は昼間と違ってすっかり模様替えが済み、仕事上がりの連中が声を張り上げながらグラスをぶつけ合う音があちこちで聞こえてくる。
この時間帯になるとマスターは料理を作らない。酒の飲み過ぎで馬鹿なことをしないよう、客を見張っているという警備員よろしくにらみを利かせていた。そうなると料理と酒を用意するのはこの間からここで働くようになった少年に任せっきりとなる。確かに客が馬鹿なことをしないように見張るのはいいが、微妙に職務怠慢な気がしてならない。そもそも未成年に酒場の仕事をやらかすな、と言ったところで、そんなのは別にここだけじゃないから今更である。
そんなマスターを呼びつけて、私とシキはさっきの部屋に案内される。今度ばかりはシキを外せない、というよりも酔っぱらい連中のところにこの子を置いておくのは危ないだろう。
「ま、ロリコンがいるかもしれんからな」
そんな私の胸中を察して、マスターが一言余計なことを口にした。……シキの視線を感じる。
「ロリコン?」
「気にしない。それで、何かわかったかい?」
「一応ある程度は調べたがな。そっちの方はどうだったんでぇ?」
「どうもこうも、仕事料が経費から落ちないとか、マサオんところは依頼をこなせなかったんだからお金払えないとかで散々だね。今日は厄日かもしれない」
「あぁん? 何があったってぇんだい?」
まずは私のほうから話す。するとマスターは大声で笑い出した。
「クック、するってぇとあれかい。さんざタダ働きさせられた挙げ句、警察からは疑われ、マサオんところからは文句を言われ、下手すっと建物の修理代をふっかけられるかもしれねぇってのかい? くはは、そりゃーいいや!」
「笑い事じゃあない。まぁ、建物のほうは事態が事態だってことでふっかけられないだろう、ということだが……」
一方的に私が悪いといった濡れ衣を着させられたらコトだ。そこはきちんと白黒つけたい。
「さて、俺のほうの情報なんだが……」
私の口外無用の済んだ話はどうだっていいんだ。マスターの話が聞けないことにはここへ来た意味がない。
「そっちの嬢ちゃんはいいんだな」
「ああ、さっきも言ったとおり店には居させられない。それに巻き込まれる可能性は高いからね。理解できなくとも話ぐらいは聞いてもらう。知っているのと知らないのとじゃいざという時の心構えが全然違ってくる」
「オーケー、保護者のアンタが言うんだ。俺から言うこたぁ何もねぇ」
保護者になってたのか……いつの間に。
「まず、奴等の動向なんだが、やはりリーダーが処刑されたってぇのはかなりの影響を及ぼしているらしくてな、ほとんど内部分裂状態だってぇんだ」
「内部分裂、か。ということは、この街に紛れ込んでるだろう、あるいは何かをしようって奴等は全体から見ればたった一部ってことかい?」
「そう言うわけでも無さそうだ。奴らに動きは見られないし、この町に入り込んできた形跡もないらしい。じゃあ目的何なのかってまでは掴めちゃいねぇな。決してマサオを利用して何かをしようっつーわけじゃぁないだろう。もう少し調べさせてくれりゃ具体的な目的までたどり着くんだろうが、どうにも上手くこの先が掴めなくてね。情報の筋は確かなんだが、その情報自体があやふやじゃあここまでが限界だ。それにこれ以上の深入りは勘弁願いてぇところだ」
「掴めない? 嫌な予感が命中ってところかね。具体的なところが本当は欲しいけど、まぁいいさ。とりあえず今回の件はこれ以上関わらないと思いたいね。私はもっと平凡な頼み事を聞くのが仕事なんだよ」
「まったくだ。……ただ、情報ってぇのが」
「ただ?」
その小さく呟いた一言は決して聞き逃すわけにはいかないと、私は間髪入れずに問う。
「いや、なんか情報ってぇのが如何にも流されたモノに思えてならなくてよぉ」
「意図的に?」
彼らが意図的に自分達の行動を情報として流しているというのか。何のために? そこらが全く分からず、ただただ首を傾げる。しかしこのマスターがそう感じたのなら、おそらくは何かあるのだろう。焦臭い情報を嗅ぎ取る嗅覚に関して言えば眼前のマスターは全幅の信頼を置いてもいいとさえ思っている。
「そうだなぁ。ただ奴等がこの町に来たのは偶々じゃぁなく、実験をしようとかいうんでもねぇ。目的を持ってるってぇのはあり得るだろうが……。巻き込まれたくねぇもんだ、まったく」
「同感だね」
テロに巻き込まれたくないなんて、誰だってそうだろう。マスターの言葉には全面同意だ。
「マスター、ありがとう。明日からは通常業務に戻ってくれよ」
私達は立ち上がる。
すると、裾を掴んでくる手があった。
「……オムライス」
ぽつりと、声が聞こえる。
「仕事終了した。オムライス」
……ああ、そうだな、そうだった。
成功報酬だったと思ったが、どうやら仕事の報酬じゃなくて、彼女に支払う報酬がそうなってしまったらしい。気分良く変わる報酬というのも考え物だ。
「マスター、すまない。オムライスを一つ」
「今、店のほうは定食屋じゃぁねぇぞ?」
苦笑しながらマスターはここにいるよう指示を下し、厨房へと向かっていった。酒場で飯を食わすのは子供には酷だという判断だろう。何しろ煙草と酒の臭いがブレンドしまくって、同じ酔っぱらいじゃないとあの場は耐え難いからだ。私一人なら構わないが、まさか子供に酒を飲ませるわけにはいかないだろう。
「そうだマスター」
私はマスターを手で呼び、顔を近付けるようにジェスチャーする。
「もう一つ、あの子の親の事を調べてくれ」
マスターの耳にこっそりと別の依頼を頼む。
「なんだって?」
「――頼む。名前はシキ、性別は見たとおり女の子。年齢は知らん」
「なんだその情報は、無茶苦茶だな。しかもわざわざ教えて貰わんでも知ってることばかりじゃねぇか。……まぁ、俺としてもそっちの方が調べるのも気楽だが」
感謝を述べて、私は改めて椅子に座り直した。
しかし、今回分かったことと言えば……この緑の町に変な連中が紛れこんだことと。
シキが卵好きだってことだ。
次回から新章が始まります!
次回更新は7/22(月) 22時を予定しています!




