しごと、みつけて 6
掲載が一日遅れました。申し訳ございません!
アレを観ると一種の催眠状態に陥ってしまう。
それを知っているのは『グリーンランチ』のようなあらゆる情報も取り扱っている店主を抜かせば警察関係者か、または連中の――ハローグッバイの一味ぐらいだろう。
ということはあのマサオ宅の前にいたあからさまに怪しい連中がテロリストの一味だという可能性は非常に高くなる。もう手遅れなのかもしれないが、追いついたらなるべく助けてやろう程度には相手を気遣う余裕が自分にもあってちょっと驚いた。あの店からマサオ夫妻の家はそんなに離れちゃいない。むしろそこまで離れてないからこそ格好の店だったし、今となってはありがたい。
だが、私は途中で服屋に立ち寄り適当なジャンバーと帽子を購入してそれを着込んだ。グラサンもかけたかったところだが、あいにくとそこには売っていないので断念する。店を出で、まもたや走り出した私を店員は奇異な眼で見たことだろう。
マサオの家の前というわけじゃなく、やや離れた古い電柱近くに二人組の男がいた。先程の連中だ。まだそこに突っ立っているということは目的を果たしていないということだろう。さて、物陰に潜んだ私はどうやって奴等に接触するか、または中の夫妻を気付かれずに逃がすか、その方法を思案し始めた。勢いで飛び出したのはいいが、その先を考慮しないと何も進まない。
しかし奴等はどうしてあんな目立つ格好であんな場所にいるのだろう。偶然を装って相手に催眠術を掛けるならもっと色んな方法があるはずだ。それなのに奴等はまるで見張るような――実際見張っているのか。じゃあどうして見張る必要がある。さっさとテロを起こしたいならこんなところで足止めを食っている時じゃないと思うんだが。何より目撃者が増えて身の危険が増すだろうに。
相棒のバッグを店に置いてきたのが何となく気に掛かりつつ、私は物陰から相手側が身を隠している建物の裏へと回る。
うっすらと流れている風と湿気った空気。昨日の雨がこんなところに影響されているらしいのだが、なんで今になってそのことに気付くかね。そんなことを気にしながら建物をぐるりと周り、奴等の背後につける。案の定奴等はマサオ達の家から視線を逸らさずそちらへと注意が入っていた。とても隠密に行動を行えるタイプではなさそうだが、専門でもない限り、こんな程度だろう。つまり隠密行動を取ることに関していえば、決して玄人じゃなかった。
不意さえ突けば、相手がある程度心得のある人間だったとしても二人までならなんとかなる。三人からはどうにもならない。もちろん二人相手でも本格的に訓練された連中だったらいくら不意を突いても駄目だろうね。そこはまぁ運の要素が絡むのでどうしようもない。
というわけで私はジャンバーを脱いで帽子を深く被り、二度ほど深呼吸をして、手足をほぐし、身体が思った通り動くかどうか頭を冷静にしてじっくり自分を品定めする。ここで問題無かったら価値のある身体ってことで、鈍っていたら頼まれ屋としての価値がちょっと下がってしまっているということだ。なにしろこの仕事は身体が資本なのである。
下腹に力を入れる。
できるだけ静かに駆けだして、左手に掴んだジャンバーを左側の男の頭に被せる。隣の男がそれに気付いた刹那、滑り込ませた手のひらを相手の腹部に当て、気合いを込めて一撃を加える。もんどりとか打つ前に気絶したのを見て、まだまだ自分もいけるもんだと感心しながらジャンバーを頭から取ったもう一人の男がこちらを見遣る前にその背後へと周り、手を取って捻りあげた。
ここまで上手く行くと非常に怖いんだが、それは後で考えよう。
「さて、質問だ」
「な、なにもの、だ……!」
抜かりなくしっかり捻りあげているので、相手は身動き一つすることもできやしないだろう。
「あの家に何の用だ? テロリストか?」
「は、何を言ってるんだお前は……?」
「え?」
「こ……公務執行妨害だ……! さっさと手を離せ!」
「なんだって?」
倒れていたもう一人がむっくりと起き上がり、頭を振りながらも懐から何かを出してくる。気絶させたと思ったのに、存外頑丈だ。
「本物の警察手帳だ……」
さすがに呆れてしまう。
「こんな怪しい格好しているのに、警察だって?」
「わ、分かったならさっさと手を放してくれ」
これは悪かったと、私はすぐに手を放す。
「いててて……思いっきり捻ってくれたなぁ」
肩を回しながらその男も立ち上がる。もちろん警察手帳を私に突きつけてきた。
「まったく……ちょっと署まで来て貰おうか、といいたいところだが……」
「いやー、正直悪かったよ。そちらの旦那も。まさか警察だとは思わなくてね」
「気持ちはわかるが……」
最初に倒した方の男は、見てみれば中年ぐらいの痩せた奴だった。結構苦労しているのか、顔に深い皺が刻まれている。もう一人のジャンバーを被らされ腕を捻った男のほうはまだ若い。私と同じぐらいか、いやちょっと上ぐらいかもしれない。
「いきなりこんなことをすれば、ただの暴力になるだろう。実際ちょっと署まで来ていただくか」
その言葉は実にぞっとしない。
「ちょっと待ったちょっと待った。それよりここで何をしているのかを聞かせてくれないか。私だって理由があってこうしてんだよ」
しょっ引かれるなんて冗談じゃない。慌ててそう言う。
「ん、なんだ女か」
若いほうの警察が軽く驚いた声を上げる。
帽子を深く被っているからかもしれないが、男か女かわからないとはまた酷い話だ。確かにあまり女性らしい格好もしてないが……。
もう一人の中年の男が顎をさすりながら尋ねてくる。
「あー、もしかして頼まれ屋さんか?」
「知ってるのかい」
こんなところで職業がばれるとは。頼まれ屋なんてこの街でも私ぐらいしかいないので、そう尋ねられれば自ずと個人が判明してしまう。一般人ならいざ知らず、警察相手じゃあ宣伝にもならんだろう。
「風の噂程度には。なんでも頼まれればやってくれる職の人がいるとか。半分ブラックな職みたいなもんだ」
「疑わしきは罰せずの精神でヨロシク」
「うぉっほん……それで、君みたいな人間がどうして我々に絡むのかね、ん?」
「ああ……」
どこまで説明したものか。いくら警察だからって、いや、警察だからこそコインの話を伏せるべきだろう。
「ここの家の人達に仕事を依頼されたんだ。内容は商売に関わるから言えないが、ちょっと情報を集めている間にあんた達がいたからさ、一応依頼人に危害があっちゃいけないと思ってね。――で、お巡りさんがどうしてここにいるんだい?」
「お巡りさんって……俺達は一応刑事なんだけどな」
「だろうね。警察官が私服とかはないだろうし。片方の肩が実に重そうだ」
何か重い物をぶら下げていなければ、わずかとはいえ二人して片方の肩が下がることもないだろう。つまり拳銃を所有しているのだ。
「はは、こりゃやられたな」――中年の男が笑いながら若い方の肩を叩き「詳しいことは言えないが、我々にも任務があってね」
「なら、互いに分からずじまいってことになっちまう」
「なぁ、頼まれ屋さん。ここは一つ手を引いてはくれないかね。一週間程度でいいんだ。それから依頼人と仕事の話を成立させるってのは駄目なのかね」
「ジンヤさん、それは……」
若い方の刑事が何かを言いたげだったが、熟年のほうがそれを視線で黙らせる。
その刑事の提案だが、出来ないことはない。しかし、と私は頭を巡らせる。
「一週間……ね。その為にも中の依頼人と話をする必要があるんだけど、駄目かい?」
「駄目じゃあない。我々の事を話さず、且つ余計な事を言わなければ、だが」
自分達のことを話すな、か。
思わず肩をすくめる。
「依頼内容によるね。刑事さんの期待に応えられるかどうか、保証しかねる」
「……どんな内容なんだ」
若い刑事が妙な迫力を出して迫ってくる。
「やはり内容次第ですよ、ジンヤさん。もしかしたらこいつもテロリストかもしれない」
「滅多な事を言うな。――まだ若いんでね、口悪いのは許して欲しい。しかしちょっと無視もできそうにないな。やはり依頼内容を話してくれんかね。じゃなけりゃ、いくら依頼人関係でも大人二人をいきなり締め上げようなんて普通はせんだろう?」
食い付いた、と私は心の中でほくそ笑んだ。ちょろっと餌を撒けばこの手の人間はあっさりと食い付く。これで互いに身の保証をした上で情報交換が行えそうだ。
「わかったよ。――だが、一つだけ納得して欲しい。私はテロリストじゃないし、おかしくもない。その条件を飲めなければアンタらの期待した情報は一切渡せない」
「……」
ジンヤだったか。その男は目を閉じてしばらく思案するそぶりを見せた後、
「いいだろう」
と、条件を飲んだ。
次回は7/8(月)の22時頃掲載となります。よろしければ読んでやってください!




