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しごと、みつけて 3

 迂闊にそれを差し出される訳にはいかなかった。とはいえ、差し出されるまでそれを防ぐ手段が浮かばない以上、どうしようもない。


「これがわかるか?」

「……むしろお前さんがこれを知ってるほうに驚きだね」


 金属製の小さなコインの縁から一カ所、フックみたいなものが飛び出している。そこを掴んで表面を覗き込むと複雑な模様をしたコインだというのが分かる。模様は薔薇のような花を中心に、その周囲を棘のある蔦が絡まり合って円を描いていた。見ていると意識を持って行かれそうになる、そんな不思議な模様だ。

 古来より価値のある物とは、意外と歴史の知識などが必要とされる。そこらの人に五百年前のコインを見せたところでただ古びた鉄のかたまり程度にしか思われないし、もし一歩踏み込んだ考え方をしたとしても、その正しい価値を見いだすことは無理だろう。その価値を知っている人間からすれば一体どれだけのものか――彼の妻がお茶を出して私を引き留める必要なんてなかったのだ。ただ、それを目の前に差し出して見せてしまえば……後は何とかしてくれと頼むだけで依頼成立だ。交渉も何もない、なんとも強引な契約じゃないか。素人一人増えた最初の依頼がここ最近で最も難関になるだろうという嫌な予感を私は感じずにはいられなかった。


「このコインは……分かってるんだろうね」


 だが、今回の場合はっきりいってコインの価値はこの場合どうでもいい。コインに含まれる意味が問題なのだ。


「誰も釣り堀に垂らした針がそれに引っかかるなんて、思わないだろう? ま、実際は釣った長靴の中に入っていたという情けない話だが……」


 マサオの言うとおりだ。ただでさえ魚と靴を引っかける以外には不向きな針が、こんなコインを運良く引っかけ持ち帰ってくるなんて想像もしないだろう。


「テロ扱いにされてしまう。警察に届けようかと思ったんだが……」

「無理だね。普段は温厚な警察も、こればかりは目の色を変えるだろうよ。最悪なコインを見つけてくれたもんだ。だからあの釣り堀は嫌いなんだ。あらゆる所が手抜きだし。埋もれた箇所を調べないからこんな危険な物が出てきてしまう」


 この私に壊れそうな箇所を隠すことなんざできやしない。あのレジャーの構造的欠陥は以前足を踏み入れて壁に手を当てた時、すぐさま気がついた。


「え、手抜き?」

「こっちの話。なんでもないさ。どうする。これはとても危険で歴史的価値のあるものだが、家の中へ大事にしまっておけば問題ないだろう。どこか川の中へ投げ捨ててもいい。どうせ私に頼む依頼なんてそういうもんだろう。これを如何に処理してくれっていう類の」

「そうじゃない、そうじゃないんだ」


 なぜか否定してくる依頼人に首を小さくかしげる。


「……なんとか儲け話にならないだろうか」

「は?」


 思わず聞き返してしまう。


 このコインはかつて有名なテロリストが好んで身につけていた品物の一つで、それだけならただの悪趣味なコインとして語り継がれただけのシロモノだったのが、そのテロリストが非常に都合の悪い人物だった。どういう手段を使ったのか、彼の周囲は人だかりが必ずできていて、しかも彼の命令には誰一人逆らうことがなかったという噂である。自爆テロだろうが何だろうが、指先一本と一言さえあればどんな人間だろうと命令に従い、実行してしまう。テロリストなんて信条によって自爆テロをするのだろうが、その男の場合は昨日今日出会ったばかりの人間を自分の手駒としてしまうということだった。しかも必ずといって良いほど自爆テロが多い。


 そういう過去に事例のない最悪な人物であり、しかも十年以上前にとある地域で起こった戦争にも何かしら関わっていたということから、各所で最重要人物として扱われていたらしい。過去形なのはもうとっくに捕まって処刑されているからである。じゃあもうテロは起きないのかといえばそうでもない。彼と同じ手口のテロは今でも時として色んな町を騒然とさせる。この緑の町ですら例外ではない。


 そんなテロリスト達が必ず持ち歩いているのがある。


 それこそが今回マサオが釣り堀で拾い上げたこのコインなのだ。彼らの首謀者と同じコインを、同士は必ず持ち歩いていたという。そうして無差別に自爆テロを起こすのだ。

 ――出来るだけ人の多い場所で、そして必ず新しいビルや技術革新を起こした発明品の発表時になどだ。まるで人間の築き上げてきた文明に恨みでもあるかのように。


 なんにしろ自爆テロばかりの集団なので警察にこのコインを見せたら身の安全の為その場で射殺されかねない。そこまでいかずともマサオは素直に帰ってこれないだろう。彼らだって国民を守る立場といえど、自分の身が可愛くないわけじゃないのだ。そして事例が事例なので、信じられないことにその行為が世間的にも認められている風潮がある。さらにたちの悪いことに、数年前、実際にそういう事件が緑の町で起こっている。今はもう犯人も警察に逮捕され、その時の事件も世間の噂から絶えて久しいとはいえ、だ。


 ――そんな馬鹿げた連中が持っているコインを金に換えられるかどうか、それは流石の私でもちょっと存ぜぬところだ。連中に嗅ぎ付けられた時のリスクを考えると引き受けるべきではないが、知ってしまった以上、この夫婦に任せっきりというのも実に不安だ。


「なんとかなんねーかなぁ」

「なんとか、と言われてもね……なんともしようがない」


 そしてこのコインを無視しようにも、そのコインの歴史的価値を考えるとちょっと無視しがたいものがあった。別に考古学者を気取るつもりでも、ましてやそこまでの知識は無いのだが、それでもちょっとかじったことのある人間ならそれらの模様に驚かざるをえないのだ。詳しいことは省くけど、ようはテロリストはとんでもない価値のある古物を自分のシンボルとしていた、というわけだ。これらの古代遺跡から発掘しただろう物品を連中がいつどこで発見したのかは謎のままだ。何しろ発見した首謀者はとうに処刑されているのだから。

 頭がいなくなっても、なんといったかな、志を引き継ぐとかなんとかいう連中というのは沸いてくるものだ。そうなると統率の取れてない連中がわらわら沸くので、より危険度が増している。

 マサオの発見したコレが偶々釣り堀の池に埋まっていて、今回初めて発掘されたものならまだしも、もし連中の所有物で何かしらの事情があって昔あの辺に捨てられたとかだったら洒落にもならない。


「こちらに預けてくれないかい。色々と伝手を当たってみることにしよう。正規のルートからは難しいが、裏ルートでマニアック層を見つければすぐにでも売れるはずだ」

「預ける……おい、これ預けていいと思うか?」


 マサオが背後の妻へ振り返ってそう言う。


「え、ええ……そうね。イチコさんなら大丈夫だと思うけど……」


 妙な態度にちょっと引っかかったが、すぐさま二人はこちらへと向き直り、


「わかった。それではお願いするよ」


 と、結局私に頼んできたのだった。

次回更新は7/1(月)の22時頃になります!

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