プロローグ・『イチコ』【現在】
もし、だ。
今現在の私が暮らしているこの緑の町で誰も手を差しのばしてくれない状況に陥ったとき、さて一体どうすればいいのかなんて考える奴はどれだけいるだろうか。
何度も何度も手を伸ばして誰も掴んでくれず、結局は自力で独り立ちするしかなかった私だが、こんなものは偶然に過ぎない。もし一歩間違えばそこらで野垂れ死んでいたかもしれないし、下手すりゃ緑が覆うこの町に辿り着くことすらなかったことだろう。
私はとても運が良い。
運が良いから出来ることがあるんじゃないかなんて自惚れた事を、崩壊しかかったビルの屋上に寝転がり空を見上げながら考えるのだ。ただの悪運持ちにしか過ぎない私にしか出来ないことなんざ恐らく世の中のどこにもありはしないが、私しかやらないだろう事なら多分どこかにある。
本当に頼らなきゃならない時、その人が伸ばした手の先に私が居ればいい。
些細なことでもいい。その人が本気で頼みたい時に、私はただ頼られる人間であればいい。たったそれだけのことだったが、そんなことに気付くまで、一体何年間かかったんだろう。禄に勉強してやしないから、些細な結論に辿り着くのですら時間が掛かってしまうんだ。
かつて小さな手であらゆる絶望を生み出したこの手が、いつか人の手を握れるぐらいに強くなって誰かに心から頼れる事を夢見るなんてのは、少しばかり都合が良すぎだろう。――そう自嘲しながらも、私は頼まれ屋という仕事を始めるに至った。
植物の根が深く根を張り緩やかに崩壊していく町の中で、今日も私は人から何かを頼まれる為に相棒の古い鞄を背負って家を出たのだった。
プロローグはもう一つあります。今後ともお付き合いいただければ幸いです。




