4
女は無表情で
「バカをしなさい」
って、いまなんとおっしゃいました?バカになれ?あー、何と言ったらいいのでしょうか……。あまりにも抽象的というか、アバウトというか、だから何という感想が正しい。
「今までにしたいことをすれば良いのです」
なるほど。あなたの意見は正しいのかは放っておいて、世界が終わるならね、みたいなノリでか……なら、今から店員さんからお金を奪うとかは
「OKです」
だそうだ。本当に好きなことをしろというわけですね。でも、今すぐと言われても何も思いつかないのが現実で、出来たらすごい。
「できないのですね、そうですか出来ないのですね。分かりました。こうすればいいのですね」
と、言って女性はどこに隠し持っていたのか分からなかった包丁を持って、店員の方へと向かい脅して金でも奪うのかと思いきや『ズブッ』と重い音が店内に響いた。そう、女性はレジにいた店員を刺したのだ。しかも、貫通するぐらい強く。
僕から、日常に必要な感覚が一瞬で消えた。その代わりに未完成な本能が登場し、初めてキチガイという存在に出会った。そこから正当な判断を探すが、危険というサインが堂々巡りしているせいでエラーばかり出る。体が動かない。金縛りってきっとこんな感じなのかと、何故か頭だけ活性しているのだが正しい情報がやってこない。僕の頭は……。
「キャー!!!!!!」
近くにいた女の客の叫びによって、やっと五感全てがよみがえり金縛りから解放される。どこかへ逃げようかと策を練ろうとしたときだった。
殺人犯である女性が、僕の方へとダッシュしてきてあっけなく手を握られ、そしてそのまま逃走。もつれて躓きそうになってもお構いなしだ。
理由なんて聞く余裕なんてこれっぽちもない。ただ引っ張られて走っているだけである。だが、この時ふと考えた。
僕も犯罪者になったとかないよなぁ……。