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第9話 目指せ ワールドライブ!

 バンド名“クラウドファウンディングス”


 結成は今からおよそ3ヶ月前


 ボーカル(兼ギター)担当 (かみ)ちゃん ♀ 

 ギター担当 平井(ひらい) 晋佑(しんすけ) 通称“晋ちゃん” ♂ 大学生

 ベース担当 石川(いしかわ) 香菜(かな) 通称“石川氏” ♀ 大学生

 ドラム担当 なっちゃん(脱退) ♀ 大学生

 新ドラム担当 墓石(はかいし) 優一(ゆういち) 通称“カイシン” ♂


 クラウドファウンディングスの命名までの経緯───神ちゃんがノリで決める。(思考時間約5秒)

 神ちゃんが知り得る中で一番カッコいい言葉だから選ばれたとのこと。神ちゃん以外のメンバーは初めは渋々了承していたが、今はちょっぴり気に入っている。


 ちなみに、神ちゃんは意図していないが、“クラウドファンディング※”という言葉が由来している。

※インターネットを通じて、資金援助を募ること。

 バンド名の方には途中『ウ』が入って、“ファウンディング”となってるいこともポイントだ。


 ちなみに、バンドメンバーは神ちゃんが、インターネットを通して募集をかけて集めた。そのため、神ちゃんと他のメンバーも知り合ってから三ヶ月ほどしか経っていない。


 神ちゃん以外の三人は学生ということもあり、他メンバーが授業が無い日や、学校終わりに集まって練習している。


「────とまあ、以上が“クラウドファウンディングス”の紹介かな」


「なるほど」


「神ちゃん、俺は聞いてねーぞ!? 誰だよこいつ!? ああ……、俺だけのハーレムが……」


 神ちゃんのバンド紹介が終わった後、横から騒ぎ出したのが、“晋ちゃん”ことギター担当の平井晋佑だ。

 どうやら墓石が加入することによって、男一人の状況ではなくなるのが嫌らしい。


「それに、こいつ高校生じゃねーか? 俺ら大学生と違って、あんまり時間取れないんじゃね?」


 露骨に墓石の加入を嫌がっている。

 半ば無理やり連れてこられてきたのに、受け入れてもらえないのは心が痛い。


「まあまあ、晋ちゃん……そうピリピリするなよ。なっちゃんの後釜がなかなか見つからない時に現れた救世主なんだから」


「そもそもこいつドラムできるの?」


「できぃ〜……るよな? カイシン?」


「バチも握ったことねえよ」


 嘘をつけということだったのかな。さすがにそれは(はばか)られたので、本当のことを言う。


「“バチ”だと!? 太鼓じゃねーんだからよ! こいつ素人じゃねーかよ。────やっぱダメだ! なっちゃんに帰ってきてもらおうぜ!」


 晋ちゃんはかなりお怒りの様子だ。

 後で知ったのだが、ドラムを叩く棒は“ドラムスティック”というらしい。その基本的な知識さえも持っていなかったので、それは呆れられるなと思った。


「まーまーまー、晋ちゃん落ち着きな。カイシンは確かに素人だ……しかし、才能があるかないかはこれからはまだ分からないじゃない? カイシンはまだスティックも握ったことが無いらしいから、実力は未知数! ────逆を言えばまだ可能性は無限大だ!」


「才能を確かめるったって……ワールドライブまで、あと三ヶ月も無いってのに!?」


「───というか、スティック握るのも初めてなの!? ……何でこいつが選ばれたんだよ!?」


 当然の疑問である。

 墓石が平井の立場であれば、同じことを思う。

そして、当の墓石本人もドラム経験はゼロであるため、自信があるわけではない。


「────うーん、何でカイシンを選んだかっていうと────まあ、直感かな」


「直感か……」


 ──直感って。

 それじゃあ、晋ちゃんとやらを説得できねーだろ!?

 もっと、それっぽいこと言えなかったのか?

 さっき言ってたドラムを叩き続けられる筋肉とか、バンドマンっぽい強面フェイスとかさ!


 当の墓石は内心めちゃめちゃ焦ったが、思いの外、晋ちゃんは納得したような表情になり、


「───神ちゃんの直感なら、信じられるかな」


「ああ、わたしは運がいいからね。ビビッときた直感はたいていいい方向に進むからな」


「そうだな」


 晋ちゃんが大人しくなった。

 それほどまでに、神ちゃんの直感は信頼がおけるものらしい。


「平井晋佑だ。みんなは“晋ちゃん”と呼んでる。よろしくな」


 晋ちゃんが墓石に握手を求める。


「よろしくお願いします。墓石優一、高校三年生です。とりあえず神ちゃんからは“カイシン”と呼ばれてます」


 カイシン──自分で言ってて少し恥ずかしい。しかし、友達と呼べる者がほとんどいない墓石にとって、あだ名で呼んでもらえることは、嬉しいことでもあった。


「って敬語かい!? 俺大学生一年生だけど、タメ口でいいぜ。バンドメンバーになるんだからフランクにいこうや」

「────だけど、まだ完全には認めてはいねーからな。ドラムの才能が無いと判断したら、悪いけど出て行ってもらう」


「うす」


 かくして“クラウドファウンディングス”はカイシンこと墓石優一を加え、活動を開始したのである。


 休校となったその日、墓石優一はクラウドファウンディングスと共に、音楽スタジオで一日中練習した。


 最初の最初は嫌々協力するような心境で参加したバンド活動だったが、やってみるとドラムも案外楽しかった。

 器材は、元メンバーの“なっちゃん”が使っていた物を貸してもらい練習した。

 なっちゃんがどんな人物かは知らないが、ドラムセット一式はよく手入れが行き届いたものばかりで、脱退する直前まで、丁寧に楽器を扱っていたことが伺えた。

 なお、神ちゃんと石川氏はドラムの知識が無かったため、唯一の経験である晋ちゃんが墓石にドラムのイロハを教えた。


「スティックの持ち方が全くなってねえ! もっと力を抜け!」


「リズム感ゼロかよ!? もっと落ち着いて叩け! タン・タン・タン・タン・タン……のリズムだ!」


「まずは、ハイハットやスネアドラムから覚えていくべ」


 晋ちゃんに練習を見てもらいながら、練習をする。

 気が付けばかなり遅い時間まで練習してしまった。体力に自信のある墓石もかなり疲労していた。


「……もう腕あがんねーっすよ」


「練習一日目にしちゃあまあまあだったな。俺ほどの才能は無いかもしれないけどな」


「最後の方、結構俺、さまになってなかったか?」


「いーやまだまだだね。まだレベル3くらいな感じ。マックス100のうちの3な」


「厳しいな…」


 平井ともそこそこ仲良く? なったところで、この日の練習は終了となった。


「カイシンー、やっぱわたしの見込みどおり、ドラムの才能あるっぽいね。このペースなら、ワールドライブに間に合いそう!」


「そうね。なっちゃんが来なくなった時は一時どうなるかと思ったけど、カイシンのおかげで出場できそう」


「それなりに、叩けるようで安心したぜ。──まあ、何回も言うが、ドラムの才能は俺ほどではないけどな。明日もここ来るんだろ?」


「来れるけど、明日は学校終わりでもいいか?」


「全然いいぜ。俺らもそのくらいに来るから」


 じゃあ──と言いながら、晋ちゃんはポケットからスマホを取り出す。


「──連絡先、交換しようぜ」


「!?──連絡先!?」


 家族以外の連絡先が俺のスマホに登録されるだと!? こんな日が来るとは───!


「おお、カイシン! わたしにも連絡先教えろよー」


「わたしとも交換しよ」


 しかも、女子の連絡先まで!


 墓石はこの時、神ちゃんについて来て本当に良かったと心の底から思った。


 連絡先を交換した後、各々帰路に着いた。

 帰り道は神ちゃんと同じ方向だったため、一緒に並んで帰る。


 帰り道──

 まだ、暗くなるような時間ではないが、灰色の雲が空を覆いつつあり、もうすぐ夕立でもきそうな雰囲気である。


「──あの漫画の必殺技さ。どうしてあんなに技を出すまでに、力を溜める必要があるんだろうね。その隙にやられちゃうじゃん」


「時間をかけて技を繰り出したほうが盛り上がるからじゃね?」


「でも、それを主人公の仲間の中でも目立たないやつがやるかね。あれは主人公がやる技の演出だよな」


 他愛もない話をする。話を聞くと、意外と趣味が合い、会話が途切れない。

 そのうち、漫画の話から、神ちゃんの身の上話になる。


「神ちゃんって、元々東京に住んでて、バンド活動するために、こっちでメンバー集めて、家も引っ越してきたんだろ? 向こうでメンバーを集めようとは思わなかったの?」


「うーん、まあ、それでもよかったんだけど……ちょっと探し物というか……他にやりたいことがあって、ここに来たんだよね」


「探し物……?」


「まあ、ちょっと仕事の関係でね」


 他のメンバーと違って、神ちゃんが学生ではない事は知っていたが、バンド活動以外にも、やることがあって瀬海市に来ていたんだな。

 自由奔放な感じなのに、しっかり社会人をしているのは意外だ。


「仕事が終わったら、東京に帰るのか?」


「そうだね……仕事の方が落ち着いたら、“クラファウ”の活動に専念するかな」


 クラファウとはクラウドファウンディングスの略称だ。

 実際、晋ちゃんと石川氏も演奏のレベルは高く、墓石の耳で聴いても、プロと遜色無いような気がしている。

 このままメジャーデビューとかも夢ではないのでは?………………いやまさかな……


「そしたら、カイシンも正式にドラムメンバーとして加入してくれるのかい?」


「……それはまだ分からない」


 ドラム初日の男にそこまで期待してくれるのはありがたいが、自分に向いているのかを含めて、今後考えていきたいと思っている。


「出会ってからまだ二日目だけど、わたしはカイシンを結構気に入ってるんだよ。ワールドライブまででもいいから、一緒に頑張ろうぜ──君を一目見た時からビビッときたんだよな」


「そこまで言ってもらえるなんて、嬉しいぜ。俺の方は第一印象最悪だったけどな」


「それを言うなよお! あの時は、探し物に夢中になってて、ご飯食べるの忘れてて、そんでぶっ倒れちゃったんだから! ……もうその話はもうしないでくれ!」


「そうだったのかよ。神ちゃんは間抜けだな」


「まあ、そのおかげで《《運よく》》カイシンと出会えたんだから、結果オーライじゃね? むしろプラス!」


 ものすごくポジティブな思考だ。神ちゃんの運の良さは、このポジティブシンキングが引き寄せているのかもしれない。

 自分も見習わなければと、墓石が考えていたところで、神ちゃんが小さく呟いた────それは墓石にも聞こえないくらい小さな声で。




「──────本当、わたしって《《不運》》だよな…」


 その時の神ちゃんの表情は暗く、今まで見せてきたキャラとは真逆の陰鬱(いんうつ)とした雰囲気が一瞬だけ姿を現した。隣の墓石は一瞬だけ、神ちゃんの雰囲気が変わったことに、違和感を覚えた。


「ん? 何か言ったか?」


「────いや、自分でも困ってるんだよね! 運が良すぎてさ! って言ったね」


「そうか」


 ここで墓石はあることに気がつく。


「お前……さっき犬のウンコ踏んだぞ?」


「えっ!? うそうそ!?」


 神ちゃんは慌てて靴の裏を確認すると、べったりと黒茶色の《《それ》》はくっついていた。


「あ〜〜! この靴高かったのに! ツイてねえ〜!」


 神ちゃんは足の裏を墓石になびろうとする。


「うおっ汚え! 俺につけようとするな!」


「カイシンは運悪そうだからさ。《《ウン》》をつけてあげようと思って」


「いらない────つーかさ、さっき自分のこと《《運がいい》》って言ってたけど、案外そーでもねーな! 久しぶりにウンコ踏む間抜けを見たぜ」


 漫画やアニメでよく見るけど、リアルで見ることってあんまりないよな。


「なにお〜! 神を侮辱しおって!」

「────でもこれでいいんだよ!」


「ん?これでいい?」


「人間の運っていのはね。良いことと悪いことの起こる割合って同じくらいなんだよね。すごく悪いことがあった後って、すごく良いことが起こることが多くない?」


「ん〜、そうかな」


 そう言われれば、そんな気もするし、違うような気もする。しかし、ずっと運が悪いという時期は無かったのも事実だ。悪いことが続いたら、それをリカバリーするかのように、その後運がいいと思える出来事が起きている気がする。

 あながち、神ちゃんの言っていることも間違えではないのかもしれない。


「カイシンという優秀なドラマーに出会えたという幸運があったんだから、ウンコを踏む不運でチャラにしてもらえるなら安いもんさ」


 こいつ……嬉しいことをさらっと言ってくれやがる。好きになっちまいそうだ。……友達としてな。 


「そう……だからね、お前のせいでウンコんだんだから、カイシンで拭かせろや!」


「やめろおおおおおお!」


 この日、墓石は神ちゃんから運のお裾分けをもらうこととなる。


 ──それにしても、さっきの神ちゃんの暗い表情は何だったのか…


 墓石は少しだけ思い返したが、この時のことを深く気に留めることはなかった。


 遠い空の雲の色が、どんよりと暗く空を覆っているのが見える。ゴロゴロと、低い唸りをあげている。

 夏の空が遠雷を運んできた。


「やべっ! 夕立がくるぞ! 俺こっちだから、ここでお別れだな」


「ほいほい〜、カイシンも気を付けて帰んなよ。雷様におヘソ取られないようにね」


「それ、久しぶりに聞いたわ」


 次の瞬間──ゲリラ豪雨が墓石達のいるとこらに降り注いだ。

墓石は手をあげ、神ちゃんと別れた。


 走りながら、墓石は一切振り返らなかったが、雨が激しく降りしきる中、神ちゃんは、走る墓石の後ろ姿を立ち止まったまま見つめていた。


 その表情は曇り空のように暗く悲しい表情していた。


続く





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