第7話 墓石直はお兄ちゃんのことなんか全然好きじゃない。
六月七日
墓石優一は、自分のベッドの上で目を覚ました。
まだ、頭がぼんやりとしている。
記憶がおぼつかない。
俺は何でここにいるんだ?
今まで何をやっていた?
今は何月何日だ?
上半身だけを起こしてみるが、全身に強い疲労を感じ、ベッドに再び身をあずけるように倒れた。
────そうだ。俺は──
「春野に勝ったんだ」
春野由良との卓球勝負。セットカウント2-0で勝ち、そのまま気絶するように寝てしまったんだ。
窓の方に目をやると、空が明るくなり始めている。
時間を確認しようとしたが、携帯の充電は切れていて起動しなかった。
昨日の夕方から、今日の明け方までぶっ通しで寝てたのか。
勝負の後どうなったのだろうか?
春野は? 単は?
再び体を起こし、昨日のことを思い出そうとする。
俺は卓球場で、春野由良と卓球勝負をして、一セット目は11-0、二セット目は32-30で何とか勝利できた。
そして、勝ったと確信した瞬間、倒れた…ような気がする。
思い出した瞬間、床に打ちつけた頭に痛みが走る。
今着ている服装が卓球のユニフォームのままだったので、シャワーを浴びて、学生服に着替える。
俺は卓球場で倒れた後、どうやって家に戻ってきたのだろう?
単さんが、運ぶ手配でもしてくれたのか?
リビングでソファに座りながら、朝のニュースでも観ようかとした時──
「何やってんの?」
不意に、部屋の扉の方から声をかけられた。
その声の主はもう一人の同居人であった。
「ああ、起こしちまったか? 直」
現れたのは墓石優一の妹である墓石直である。敷織中学校の三年生だ。
優一と直は、現在一軒家に二人暮らしである。親は父母ともに存命だが、二人とも仕事の都合で海外出生をしている。そのため両親は家にほとんどいない。
「“起こした”? ……というか、今家に帰ってきたんだけど」
直は冷たい口調で言う。
「今帰ってきたって朝帰りか? お前こそ何やってるんだ? 今何時だと思ってるんだ!?」
妹が不良のようなことをしているからか、つい問い詰めるような口調になる。
ちなみに、妹の直は不良などではなく、ごく一般の学生である。
────その直が朝帰り!?
「何時だと思ってるんだ……って、兄貴こそ何時だと思ってる? ……今?」
「今って、朝の五時くらいだろ? 空も白んできているし……」
カーテンを開けてみる。
白んできている……と、思っていたが、先程起床した時よりも空が暗くなってる気がする。はて?
「今は夕方の七時だよ。わたしは学校が終わって、帰ってきたんだよ」
「夕方の七時!?」
朝の五時かと思っていたが、夕方の七時だったってことは────じゃあ、俺は丸々一日寝ていたのか!?
「昨日、《《先生みたいな人》》に送ってもらって、そこからもずっと寝てたね」
先生みたいな人──大澄衛時か?
「最近、ずっと帰ってこないなと思ったら、今度は卓球のユニフォームを着た兄貴が、男の人におぶられて運びこまれてきたからびっくりしたよ。卓球部にでも入ったの?」
「あ……いや」と、優一は言い淀んだ。
四大人災という連中に命を狙われている。
何やかんやで卓球勝負をすることになった。
勝負に勝つために、夜な夜な図書館で卓球の練習をしていた。────なんて妹には言えない。
心配されるか、頭がおかしくなったと思われるか、引かれるかだ。
「まあ、何でもいいけどね。わたし今日の夕飯は食べてきたから、部屋に行ってるね」
そう言うと、妹はペタペタと家の廊下を歩いて寝室に向かっていった。もちろん優一とは寝室は別部屋だ。
優一と直は、いつもこんな感じで会話している。仲が悪い訳では無いが、良くもない。お互いが必要以上に干渉しない関係である。そのため、普段家ではほとんど会話しない。なんなら、今日の会話はここ数日では長くやりとりした方である。
昔はもっと仲良しだった記憶があるが、遠い昔のことのように感じる。
「……マジか。学校を無断欠席してしまった」
今年の墓石は皆勤賞を狙っていたが、わずか三ヶ月でその夢は達成できなくなってしまった。
夢が絶たれてしまったのも束の間、次は単や大澄のことが気にかかった。
「今日はもう学校には行けないが、あっちには顔出してみるか」
墓石は着替えた学生服のまま、家の外に出た。
目的地は渋津野図書館。
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六月八日 午後八時四十二分
渋津野図書館 一階 卓球場
「おめでとう、墓石くん!」
ガッと手を掴まれ、無理やり握手される。
単千尋はニコニコしながら墓石を出迎えた。
「君ならやってくれると信じていたよ。春野由良を退けるなんて大したもんだ!」
「……はあ。まあ、単さんの策があってこその勝ちなので、俺一人の力というのは……」
正確に言うと、単千尋の発案に加え、“記憶使い”の海川農里の協力も無ければ、この作戦は、春野にバレて攻略されてしまっていただろう。
「──まあ、実際はそうだな! 墓石くん、我々に感謝したまえ! はっはっは! 特にわたしを敬え!」
「はい、ありがとうございます。海川さんもありがとうございました」
単の後方に控えている海川にも礼を言う。
「いやいや、俺なんてほとんど何もやってないからさ。墓くんの勝負強さと──ボスの頭脳がいい感じにマッチしての勝利だよね!」
────なんてできた人なんだ。海川さんの能力が意外と鍵を握ってたはずなのに。すごく控えめな姿勢が、できた大人という感じだ。単さんとは違って。
「そうだろ? そうだろ? 海川くんもそう思うだろ?」
「はい! さすが我らがボスです!」
「はっはっは!」
単が両手を広げ、天を仰ぐようにしている。
まあしかし、実際単さんの“探し使い”の能力で得た答えに沿って動いたから、何とかなったわけだし。単さんのおかげなところもあるよな。
「そうだ! わたしを敬え! はっはっは!」
しかし、調子に乗ってる様子を見てると、素直に尊敬できないという心情もある。
そこへ──
「────失礼します。盛り上がっているところ申し訳ありません」
卓球場(に改造した部屋)の出入り口のところに白髪の大男が立っていた。年は六十〜七十代くらいか、身なりは小綺麗で老紳士のような佇まいであった。
その男は墓石とは面識の無い人物であった。
「ああ、すまない。うるさくしてしまったかな?」
「──いえいえ、単様に帰宅の挨拶をと思いまして」
「もう帰るのか?」
「ええ、これから夜勤ですので」
男はペコリと下げた頭をあげる。そこには穏やかそうな表情が見えた。
「海川さんも、これで失礼しますね。あと……こちらの方は?」
老紳士風の男は、墓石に視線を向ける。単と海川の知り合いということは分かったらしいので、そこまで警戒心は向けられていないようだ。
「ん? ああ、彼は墓石という者だ。この町の学生だよ。まあ、わたしの協力者みたいなものだ。信用できる人物だから安心してくれ」
「墓石です」
咄嗟のことだったので、無愛想な感じに挨拶してしまった。
しかし、老紳士風の男は、そんな墓石の様子は気にしていないかのようだった。
「そうでしたか。わたしは、ここ渋津野図書館のオーナーをしております。爺 始一郎と申します」
「おやじ……さん?」
聞き慣れない苗字だっため、聞き返してしまう。
「ええ、“爺”と書いて“おやじ”と読みます」
「へぇ」
────の後に、墓石は『珍しい苗字ですね』と爺に言おうとしたが、その台詞は、珍しい苗字を持つ“墓石”には言われたくないだろうと思い、言い留まる。
「それでは墓石さん、これでわたしは失礼します。単様にもお伝えしているのですが、ここの図書館は好きにお使い下さい。単様から多額の寄付金をいただいておりますので」
「たいした金額ではないよ」
と、単は謙遜するが、大した額を納めていることは、薄々感じていた。かなり大胆に図書館を使っているので、それを許容させるほどの金の力が働いたのだろうと。
「いえいえ、この図書館がこうして続けられるのも単様のおかげでございます」
「ここにはそれだけの価値があると思ったからね。ここに置いてある昔の古い新聞記事やら記録やらは、絶対に他の図書館には残ってないからね。すごく《《助かっているよ》》」
「ありがたいお言葉です。趣味で始めた記録集めが好じて、気に入って頂けたのでしたら何よりでございます」
記録集め……? ふーん。
単さんは、古い新聞記事を読むのが好きなのか?
と、墓石はぼんやりと考えていた。
そして、その会話を最後に、老紳士は図書館をあとにした。
「宿代に、一体いくら払ったんです?」
「さあな」
単はとぼけた顔をする。
命を狙われている理由を聞いた時に、墓石に説明するのをはぐらかした時と同じ顔だ。
「────ところで、こんな遅い時間になんの用なんだい? 墓石くん。秘密の特訓はもう終わりだろう?せっかく今日から昼夜逆転生活を逆転させて、元の生活スタイルに戻そうとしているんだから、邪魔しないでくれよな?」
と、言いながら、単はもぞもぞと布団に入る。
──布団とは言っても、それを卓球台の上に敷いているため、ベッドのような高さになってしまっているが──
卓球台をそんな使い方するな!と思っても、一応は命の恩人のため、ツッコめずにいた。
「単さんの顔を見に来ただけです」
墓石は無意識にそんなことを言ってしまう。
「なんだい墓石くん。そうやって年上のお姉さんを口説きに来たのかい?眠気がふっとんでしまうよ」
寝転びながらニヤニヤする単に、墓石は全力で否定する。
「いえ、そういうことではなく…、言葉どおりの意味です。春野に勝ったけど、“俺達を見逃す”っていう約束がちゃんと守られているか心配になって」
「なーんだ。残念。墓石くんは真面目だな」
単はポケットからアイマスクを取り出し装着した。本格的に寝入る体勢に入る。
「心配しなくても大丈夫だよ。春野由良は諦めた。ここの場所も内緒にしてくれるらしいよ」
「そうでしたか」
「────あとは?」
「はい?」
「あとは言うことないの?」
「ん? ん〜……特に無いですかね。二人の安否が確認できたし、お礼も言えたし……俺もそろそろ帰ります」
「あっそ」
プイッと後ろを向くように寝返りをうつ単。
墓石もひとしきりイジったところで、満足したのたろう。
その体勢のまま、一言付け加える。
「───お礼と言えばさ。大澄くんにも、お礼しときなね」
「大澄さんにも? 勝負の後、俺を家まで運んでくれたのは、やっぱり大澄さんなんですね?」
「んー──それもあるけど──テニス勝負の後──あーほら、春野との最初の勝負が終わった日の夜──大澄くんが見つけたんだよね」
単は眠気のせいか、言葉がしどろもどろになってくる。
「《《見つけた》》って、何をですか?」
「──体育館に大勢の人を集めて───体育館ではなく、屋内プール場だったかな?───春野がプロに水泳の練習を教えてもらっていたのを《《観測》》したんだ。────それで、春野の戦法が分かったんだよ。春野は一夜漬けで、次の日の勝負に備えているってね──」
グゥ……と、少しだけ寝息というかいびきのような音が聞こえた。
「──あっ、でね──それでわたしも仮説を立てられたんだよ。春野由良は、そうして一夜漬けの練習をしてプロに匹敵する力を得ていると────じゃあ、うちの墓石くんにも同じことをやらせよう───と思いついたのもその時だよ。つまり、秘策を思いつけたのは大澄くんのおかげなのさ──グゥ……!」
「大澄さんが?」
しかし、単は深い眠りについたため、それ以降返事は返ってこなかった。
単が寝てしまったため、その後、海川に挨拶してから、墓石も帰路に着いた。
夜道を1人で歩きながら、ここ数日の出来事を振り返る。たいして時間が経った訳では無いが、昨日の春野との勝負が遠い日のことのように感じた。
春野由良には勝った。
でもその後は?
刺客は残り三人。春野と同じように退けなければならない。
それってどうなんだろう? 可能なのか?
春野のようにあっさり引き下がってくれないかもしれない。
夜道を一人で歩いていると、静かすぎるせいか、余計な思考がぐるぐる頭の中で廻る。
とりあえず、今日は帰って寝よう。
何もいい考えが浮かばないまま、家の付近まで来た。
遠くから見て、妹の直の寝室を確認したが、今は窓から明かりが見えていない。恐らく電気は消して、もう寝てしまったのだろう。
家に入る時は静かに入らなければな。
そんなことを考えていたら、急に世界の景色が逆転した。
うぇ! っと変な声を出しながら、墓石は道の真ん中で仰向けに倒れた。
うぇ! もうひとつ……墓石とは別の声が、墓石の体の下から聞こえた。
誰か俺の下にもう一人いる──!
墓石は慌てて起き上がり、地面に倒れている《《もう一人》》に目を向ける。
どうやら、墓石は何かに躓いた後、くるっと宙で一回転し、その先に倒れていた《《もう一人の人物》》の上に落下したのだ。
「…わりぃ! 気づかなかった! 大丈夫か!?」
倒れている人物に呼びかけるが、応答はない。
まさか……死んでる?
倒れている相手の顔をもっとよく見る。
グゥ……グゥ……と、つい先程、渋津野図書館卓球場で聞いた単千尋の寝息と同じ音が聞こえる。
こいつ、寝ている!? しかも……!
グゥ……という寝息とは別のもうひとつの音が、その人物から発せられていた。腹の虫の音だ。
───空腹なのか!?
とりあえず生きてはいるようなので、ひとまずホッとするも、再度呼びかける。
「おい、大丈夫か!? こんなところで寝てると、車に轢かれちまうぞ!?」
それでも起きない。ただ、グゥグゥの寝息と腹の虫の二重奏が、住宅街に響き渡る。
寝ている人物は、若い女性のようだった。着ている服がズタズタに切り裂かれたようになっているが、そういうデザインの服らしい。
髪の色も、黒色一色ではなく、金色やら、ミント色が入り混じっている。
かなり派手な見た目の人物だった。
そして、傍らに黒くて細長い箱のようなものが落ちている。
先程、墓石が躓いたものだ。
あれは──、ギターケースか?
ってことは、この人はバンドマンか何かか?
楽器の知識に明るい訳では無いが、墓石もギターケースくらいは見たことがある。
寝ている相手の正体が見えてきたところで、墓石は考える。
眠ってても起きない相手。このまま放置して帰ってもいいだろうか。
携帯の充電は切れているから、警察には連絡できない。交番も近くにない。
世の中には、寝ている若い女を襲う輩もいるかもしれない。そういった理由からも、ここに寝かせておくことは危険だ。
うーん、うーん……
墓石は考えた末、家に連れて帰ることにした。
明日の朝には出て行ってもらおう。
そう安直に考え、寝ている女をおぶり、ギターケースを片手で持って運ぶ。
女は小柄だっため、そこまで重さを感じなかったが、ギターケースの方はめちゃくちゃ重かった。
「こいつ、こんな体ちいせーのに、よくこんなの担いでたな……」
なんとか、家の前まで来て扉を開けた。
家の中に入り、ひとまず女をソファに寝かせ、一息つく。
光の下で見る女の顔は、色白く、幼く見えた。しかし、髪色はやはり派手で、黒・金・ミントの3色が同じくらいの配分で、髪を染め上げていた。恐らく、黒だけは地毛なのだろうが。
「さて、どうしたものか」
てか、こいつ何歳だ? 未成年だったらやばくね?
途端に、墓石は焦って、謎のバンド少女を起こそうとする。
寝ている少女の肩を掴み、軽く揺すってみる。
「おい! 起きろ、お前! 寝たら死ぬぞ!」
寝たら死ぬぞ……は違うか。
勢いで変な事言っちまったが、誰も聞いてないよな──
ガタッ──扉が開かれる音。
「あ……」
リビングの扉が開かれ、そこには妹の直(ちょっと引いた目をしている)が立っていた。
確かに、知らない女を連れ込み、肩を抱いてる絵を見られたら、勘違いするやつもいるわな…
「あっ……直……違うんだ! この人が、家の前で寝てて……」
「……」
「路上に寝てたから、車にでも轢かれたら危ないと思って、家に連れてきたんだ」
「……」
何も言わない直。ここまで30秒ほどフリーズしている。
「あれ……? 信じてない?」
「……えっ、ああ、お気になさらないで下さい。兄がそういう年頃だということも存じておりますので、続きをお楽しみ下さい」
そう言い捨てると、自分の部屋に戻っていった。墓石直は、虚無の瞳で優一を見ていた。
「……あれ? 敬語止めて! 信じて! 直!」
そう呼び止めるも虚しく、奥の方で直の部屋の扉が閉まる音がした。
ああ……終わった。元からそこまで中のいい兄妹というわけではなかったが、さらに関係が悪化した気がする。
さっきの数刻の中に、俺への評価が、無関心から、嫌悪に変わった瞬間があった確かにあった。
はあ……、とがっくり落ち込んでいると、能天気な声が後ろから聞こえた。
「……うるせーなー、今何時だと思ってんだよ?」
黒、金、ミント髪少女が目覚めた。
いや、年齢が少女かどうかは分かっていないのだけれど──
「……お前、起きたのか?」
妹にさらに嫌われたことで、この世の全てがどうでもいいと思い始めてしまい、少女が起きたことさえどうでもよくなってしまった優一。
「起きたろ…な。で──あんた誰? ここどこ?」
「ここは、俺んち。俺は墓石って者だ。あんたが、うちの前の路上で寝てたから、家に連れて帰ってきたんだ。あのまま、あそこに寝かせておくと、色々と危ねーと思ったからな」
「……路上で寝てた!? わたしがー?」
「そうだよ」
「うーん、記憶が無いのお」
グゥ……と、少女の腹が鳴る。
「ほらよ」
夜食に食べようと思ってたカップ麺を少女に差し出す。
すでに3分経過してできあがっている。
「久しぶりにあんなデカい腹の虫の音を聞いたよ。これ食ったら、家に帰んな、ガキ」
「うぇーい! カップ麺! ありがとう! お兄ちゃん!」
墓石の手から、乱暴にカップ麺を奪い取る。
この数分間のやりとりで、墓石は若干この少女のことが嫌いだなと思った。
「あー! でも、塩味じゃんかこれ! わたしもっと濃いめのやつがよかったなー」
「──でもしょーがない、我慢してやるかー」
ここで初めて、“助けなきゃよかった”と思った。
苛つきが増していく。
少女はカップ麺をすすりながら、もごもごと話しだす。
「きまにみ、がふへいふふをひへいるようだめど、きみっへほうほうへー?」
何を言ってるか解読できない。
「ちゃんと飲み込んでから話せ!」
「ゴクン───君って、学生服を着てるってことは高校生?」
「──?ああ、今高校3年生だが?」
「じゃあ、わたしの方が年上だな」
「何!?」
どう見ても、中学生くらいにしか見えない。でも確かに、そこまで攻めた髪の色にできるということは、学生ではないか、学生だとしても大学生というところなのだろう。
「──22歳!」
少女は、フッ……勝ったな、という顔をする。
22歳!? 俺、こいつより年下なのか!?
「では、我に敬語を使いたまえ。そして、味噌味のカップ麺を新たに買ってこい」
さすがの墓石もキレて、少女(22歳)の頭を鷲掴みにする。ギリギリギリと頭蓋骨を片手の握力で締め上げる。
「いだだだたたたっ! やめろおおおおおお!」
「調子に乗るなよ、小僧!」
「小僧じゃ……ねぇ……! 小娘じゃあああ!」
「うらあああああ!」ギリギリギリギリ…
「──黙れよ、あんたら」
突如静寂が訪れる。静かな怒りを携えながら、扉のところに妹君が立っておられた。
闇のように暗い瞳で、騒いでいた小僧と小娘を睨見つける。
う、動けねぇ……
「次、騒いだら警察呼ぶよ」
待て待て! 警察はまずい!
「ははあー、これから静かにいたします!! どうかそれだけは許して下さい!!」
墓石は、人類史上最速で土下座のフォームを作る。
そこには“土下座使い”の墓石優一がいた。
墓石の見事な謝罪を見て満足したのか、直はスーッと扉の奥の闇に姿を消していった。
やばいやばい……今日一日で妹との関係がめちゃめちゃ悪化した────こいつのせいで!
ギリッと横の小娘を睨見つける。
小娘は我関せずといった様子でズズズと塩カップ麺をすすっていた。
「あれ、君の妹? 怖いねー」
何だかんだ文句を言いつつ、塩味食ってくれたんだな。
──じゃなくて、何でこいつは平然とカップ麺食ってるんだ!?
そう考えた途端、急に少女を追い出したくなる。
「おい、あんた……それ食ったら、出て行ってくれるんだろうな?」
「ん? ほう。へへいふほ」
“ん?おう。出ていくよ”と言ったであろことは分かった。
少女はカップ麺を完食すると、テクテクと玄関まで歩いていき、「じゃあな、土下座男。カップ麺美味かったぞ」と捨て台詞を吐き、墓石家から出て行った。
「〜〜〜〜〜〜〜ーー!! 〜〜〜ー!!」
怒りで頭をガシガシ掻きむしる。本当なら叫びだしそうなくらい怒っていたが、直にまた怒られるかもしれないという恐怖がブレーキとなり、無音で怒りを発散する墓石優一。
「ああ、ムカつくぜ。玄関に塩まいたろか」
まだ若干の怒りを溜め込みつつ、リビングに戻り、カップ麺塩味の食べ終わりを片付ける。
ふぅ……今日はもう疲れたな。
午後七時くらいに起きて、四時間くらいしか経ってないが、前日の疲労もあり、疲れがどっと全身を襲う。
もう寝よう──と、リビングの電気を消したところである違和感に気がついた。
再度、勢いよく電気を点ける。
─────すると、そこには見覚えのある黒くて細長い箱が部屋の隅に転がっていた。
「あいつ、忘れていきやがった!!!」
少女はギターケースを忘れて帰ったのだ。
「あああああああああっ! あのやろおおおおおおおおおっっっ! ……あっ…………直様」
いつの間にか優一の背後に御妹君がお立ちになられていた。
────この日、本日二度目の雷が優一に落ちた。
続く




