最終話 10年後 それから
四大人災との戦いが終わり、村雨の計画を潰した後、墓石は密国庁秩序維持課に所属することととなった。
墓石が密国庁で働くようになってから、10年が経過した。
某日、墓石優一は、密国庁が管理しているオフィスビルの一室でコーヒーを啜りながら新聞を読んでいた。
墓石の勤務時間は九時からであるが、常に一時間前に出勤し、コーヒーを飲みながら新聞を読むことがルーティンとなっていた。
墓石が新聞のテレビ番組の一覧表を読むことに集中していると、後ろから同僚に声をかけられた。
「おい! 墓石! わたしそろそろ出るわ! T県で、謎の電波障害が続いてて、町の機能が停止しつつあるらしい。墓石二号が現れたのかもしれねーな」
声をかけてきたのは、鶴田亀子だった。
十年前の金髪スカジャンの姿ではなく、黒髪ポニーテールに黒スーツと、社会人らしい服装に身を包んでいた。
「どうだろうな。《《俺の時》》みたいに、武装集団が現れたり、警察が動かなくなったりはしてないんだろ? まずは、その地域の警察と連携して、原因を探るところからだな」
新聞に目を落としながら、冷静に状況を分析する。
「んなこた分かってんだよ! すでに衛時が警察に向かってる! お前も準備できたら早く来いよ! 勤務時間が来てないからって、優雅にモーニングルーティン決めてる場合じゃねーぞ!」
“観測使い”の大澄衛時は、のんびりとしている墓石と違く、目的地にたどり着き、仕事を始めていた。
慌ただしく出動準備を進める鶴田の横で、墓石は再びコーヒーを啜り始める。
「あちっ!」
「アホか。この男は……。とにかく、先に行ってるからな! 行くぞ、遠出」
「はい」
鶴田の後を若い男が付き従う。彼は、“反撃使い”の遠出歩だった。
墓石との一戦後も、密国庁に残り、秩序維持課の一員として貢献していた。
今では、墓石・鶴田・大澄・遠出の四人で大澄班として任務にあたっていた。
チーム内で武道派は鶴田一人であったが、遠出の加入により、力を行使する場面でも、大澄班は強くなった。
鶴田と遠出が部屋から出て行き、墓石が一人ポツンと残される。
しかし、慌てる様子はなく、新聞の記事をゆっくりとめくる。
「ん? こいつらは……」
墓石の目に一つの記事が目に飛び込む。写真には、二人の女性が並んで写っており、見出しには“日本から来た二人の天使”と書かれていた。
一人は黒髪ショートヘアーで、かつて墓石と恋仲であった家事が得意の“恋使い”秋山円慈と、奇抜な髪の色をした元バンドマン“不運使い”こと夏目深琴であった。
彼女達二人は、春野由良とともに死にかけの墓石の治療を行った後、世界中の紛争地域や、貧困な地域を巡り、病気や飢餓で苦しんでいる人々を無償で助けるボランティア事業を行っていた。
新聞の写真はどこかの国の地震による被害が出た地域で、二人が食糧の提供をしている写真だった。
記事の中でも「多くの人を救っている」との記載があった。
この活動で人を殺めてしまった過去は決して消えないけれど、少しでも罪と向き合い償おうとする二人の姿を見ることができた。
「あいつら、頑張ってんだな」
次のページをめくると、先程の記事よりもいくらか大きく取り上げられている記事が出てきた。
その記事に載っている写真の顔にも見覚えがある。
見出しは“天才医師 春野由良 不治の病を治す!”と大きく書かれていた。
春野は、墓石の“風邪”を治した後、医療の分野に興味を持ち、そのまま自身の能力を世の中に役立てていた。
墓石は、春野とはごくたまに会うことがあり、春野が医療の分野に進んだことは知っていた。(会っている理由は、卓球をするため)
春野は、外科医と内科医の両方をこなし、薬学にも精通し、ほぼ全ての外傷や病気に対して治療することができるようになっていた。
その春野の功績には、写真の中で恨めしそうに春野を睨みながら横に立っている春野の助手の力も大きな助けとなっていた。
助手の名前は冬木そよ。
春野と同じく元四大人災の一人だ。
春野達が墓石と別れた後、すでに遠くに逃げていた冬木そよを捕まえ、無理矢理贖罪の旅に同行させた……ように見える。
冬木の恨めしそうな顔が、それを物語っていた。
「はっはっ、さすが春野だ。相変わらず不可能なことを可能にしているんだな。こいつには、うちの妹も世話になったな」
また、ページをめくる。
すると、また見覚えの顔が新聞記事一面に出てきた。
見出しは“日本人最速の短距離走者 墓石直 世界に挑む”。
写真は短距離走の大会時のもので、直が圧倒的速さで、他の選手を引き離してる瞬間を捉えたものだった。
墓石直は、短距離走者として、陸上競技界で名を上げていた。
中学の頃に受けた傷が原因で、しばらく陸上から離れていたが、二年前に外科医となった春野の手術を受けて、足の傷が完治したのだ。
走れるようになった直は、その直後から失った時間を取り戻すかのように走り込みを行った。
起きてる時間はほぼ全て走る時間に費やした結果、二年後の現在、日本一のランナーとなっていた。
そんな直が次に狙うは『世界一』である。
そのタイミングで、墓石の携帯に直からのメッセージが入る。
『明日から大会で海外だから、今日の夜ご飯いかない?』
内容は直からの夕飯の誘いだった。
村雨との一件が片付いた後、直との関係も良好になっていった。
一時はかなり険悪になっていたが、墓石優一の人の良さを間近で見ていたら、徐々にあの頃の二人に戻っていったのだ。
元々仲のいい兄妹だったのだ。
海川に記憶を消されようが、二人の絆は無くなったものにはならない。
『OK!』という返信のメッセージをして、最後にもう一つだけ記事を読んでから、鶴田達のところへ向かおうと思った。
最後の記事を読んで、墓石はふふっと笑った後、新聞を丸めてカバンにしまい込んだ。
残りのコーヒーを飲み干し、目的地へと向かった。
密国庁秩序維持課は今日も世界の秩序を保つため奮闘している。
墓石優一は単千尋と同じく、自身の正義に従い、この組織を導いていった。
その結果、墓石が所属する数十年の間は、世界の平和がちょっぴり保たれた。
さて、最後に墓石が読んだ記事の見出しにはこう書かれていた。
“有名バンド クラウドファウンディングス 活動を休止していたなっちゃんを加え、ギターのシンとベースのイシカワで再出発! 来年から世界ツアー開始!”
終




