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第22話 瀬海市機能停止事件②

「この場所を拠点として、しばらくは情報収集を行う。ここの《《図書館》》のオーナーには、わたしから話をつけておいたから大丈夫だ。ほとんど人は来ないし、過去の出来事に関する資料を調べるのにうってつけだからね」


瀬海市 渋津野(しぶつの)図書館 一階

三月二十四日


 単千尋(たんちひろ)大澄衛時(おおすみえいじ)海川農里(うみかわのうり)鶴田亀子(つるたかめこ)の四人は、無事に瀬海市内に潜入し、渋津野図書館に腰を据えたのである。

 ここのオーナーである爺始一郎(おやじ しいちろう)は、自身のポケットマネーでこの図書館を趣味で運営しており、公共施設である図書館とは違い、入館料から有料となっている。そのため、瀬海市市民もほとんど利用するものがいなく、経営も赤字となっている。Barの経営と、若い頃に築き上げた資産を切り崩しながら運営している。

 単は、利用者が少ないこと、過去の出来事に関する資料の保管がしっかりされているところに目をつけ、ここを拠点とさせてもらうよう、爺に交渉し、了承をもらったのである。


「わたしはここで首謀者の情報を集める。それまでみんなは待機ね」


「待機たって、いつまで待てばいいんです? この大量の資料の中から、首謀者の情報が本当に見つかるですか?」


 海川が、単が集めてきた資料の山を見上げる。海川の身長をゆうに越す高さで積まれた資料の山が二つ、三つある。

 これらを隅々まで読み込むとなると、少なくとも一ヶ月以上はかかることだろう。


「どーだろうね? やってみないと何とも言えないけど、多分すぐ終わると思う」


「すぐってどのくらいすぐですか?」


「今日中だ」


 単はこの後、部屋の一室を借りて、情報を《《探し》》始めた。


「本当に見つかるのかよ?」


 鶴田が単の『今日中』という言葉を疑い、本棚に寄りかかりながら、大澄と海川に質問した。


「あの人が今日中と言ったのなら、今日中に見つかるんじゃない? だって“探し使い”なんだから」


「あんなもん、物理的に不可能だろ。あの資料を読んで、首謀者と関連のある記事を探すんだろ? どんな頭の処理速度でやれば今日中に終わるんだか」


 単の籠もってる部屋を見る。部屋の中の様子は外からでは分からないが、ものすごい速さで紙を捲る音が聞こえる。


「あの人とは、まだ二、三回くらいしか一緒に任務をしていないけど、能力は本物だと思うよ。普通の人が一生かけても探し出せないようなことも、すぐ見つけちゃうんだよね」


「ふーん」


「特に“犯人を探す系の任務”だと、仕事が早いよ。小さな情報から、すぐに真実にたどり着くんだから」


「ふーん」


 二人のやりとりに興味が無さそうに、大澄衛時は傾聴している。いや……聴いているかすら怪しい。


 そのやりとりの数分後────

 単千尋が情報収集のため、籠もっていた部屋の扉が勢いよく開く。


「分かったよ」


「はあ!? いくら何でも早すぎないか? 調べてから、10分くらいしか経ってないぞ!?」


「これが我らがボス──単千尋の実力ですよ」


 海川が自分のことのように誇らしげにすることに、鶴田はイラッとする。


「むう……、で? その首謀者とやらはどこにいるんだ?」


 半信半疑の鶴田が単に問いかける。単はもったいぶりながら、一度咳払いして答える。


「瀬海市民病院だ。そこにいる可能性が高い」


「病院? 首謀者(そいつ)は入院してるのか?」


「まだ分からない。でも首謀者に近しい人物がいるかもしれない。とにかく、まずは行ってみよう」


 まだ分からない──煮えきらない回答であったが、鶴田達は単の言うとおり、瀬海市民病院に向かった。病院の入口はバリケードで固められており、簡単には入れないようになっていた。恐らく、現在瀬海市内に常駐している武装集団から身を守るためなのだろう。

 しかし、単達は病院の中に入る経路を難なく《《探し出し》》、病院に無事に入ることができた。

 外の様子とは打って代わり、中はいつもの病院内の風景だった。

 一行はそのまま受付へ向かう。


「“墓石直(はかいしなお)”という人物と面会したい」


「ご家族の方でしょうか?」


「いや、墓石直さんの知人です」


「それですと、今はご案内できません。病院もこういった状況ですので、ご家族の方以外とは面会できないんです。申し訳ありません」


「そうですか」


「すみません……あ、あのちなみに、ずっとこちらの病院にいらっしゃるんですか? 外からは関係者以外入れないはずなので……」


 受付の職員がパソコンから顔を上げた時には、単達の姿はすでに無かった。


「307号室だ」


「なぜ、部屋の場所が分かったんです?」


 足早に進む単に追いつくのが精一杯で、鶴田達は小走りでその後に続いた。


「職員がパソコンで墓石直のことを調べていただろう? その画面に書いてあったんだよ。『307号室』って」


「でも、その画面ってわたしらの方からじゃ見れなくないですか?」


「職員の瞳の中に写っていたぞ。そこに写る情報から《《探し》》たのさ」


「ヤバ……」


 “探し使い”の単千尋、彼女に探し出せない人や物は無い。いつぞや誰かが言っていたことを思い出した。鶴田は、たった今その言葉の意味を身を持って体感したのである。


「ここだ」


 病室の扉は開放されており、中には容易に入ることができた。

 中には、ベッドが十個ほど置かれており、その内の半分はカーテンで中が見えないように仕切られていた。

 その中の一つのカーテンの前で立ち止まる。


「墓石直さんかな?」


「……」


「密国庁の者だ。中を開けさせてもらうよ」



「単さん、危ない!」


 カーテンを開けた瞬間、鉄パイプのような物で単に殴りかかる男がいた。単にぶつかる寸前で鶴田が、その鉄パイプを両手で受け止める。


「……!? てめえは何者だ」


「……」


 男はチラッと廊下側を見て、逃げるように走り出した。


「追うぞ! あいつが首謀者だ!」


「えっ!? はい!」


 四人とも男の後を追う。


 首謀者と思しき男はどうやら屋上に向かっているらしかった。

 単千尋と鶴田がやや先行して走り、男性陣は少し遅れて走っていた。大澄と海川はどちらかと言うとデスクワークタイプのため、女性陣二人の速さについていくのがやっとと言った感じだ。

 そして、とうとう逃げる男を病院の屋上まで追い詰めた。


「観念したまえ、君が瀬海市を機能停止に追い込んだんだろ?」


「……」


「墓石直……彼女がこの一連の事件のキーマンであることは最近分かったんだ。この瀬海市で発生している謎の組織による市民の監視──これが始まったのはある事件がきっかけだったんだ」


 首謀者の男は、黙って単の話を聞いている。

 一切目を逸らさず、その瞳は憎しみに満ちている。


「某大手自動車メーカーの社長の不祥事の発覚──その前には、その息子が瀬海市中学に在学中の女子生徒を跳ねたという事件が始まりだったんだ。それが今回の一連の事件──、そうだな、“瀬海市機能停止事件”とでも名付けようか。“瀬海市機能停止事件”の始まりだったんだ」


「その息子は、始めは金でもみ消そうとしたようだが、それはできなかった。何者かに弱みを握られ、金を脅し取られた。そして、しばらくして、交通事故のことも公になってしまった」


「それだけの情報なら、墓石直にたどり着けなかったよ。──そこで、もう一つ気になる事件を発見したんだ。それが、国会議員の永代議員の不祥事。それにより、議員は失墜し、政界から去ることになった。しかし、その当時この事件の首謀者(きみ)から狙われていたのは、瀬海市にある企業の役員や、行政機関の上の役職の者達で、国会議員は彼一人しか被害に遭っていないんだ。しかも、瀬海市とは何も関係が無い人物だった。それで気になり調べてみたんだ」


「するとどうだ。その議員の娘は瀬海市中学に通っているというじゃないか。その娘の小穂(さほ)は瀬海市中学校の陸上部に所属していた。そして、偶然その陸上部に君の妹も所属していた。その妹は、先程の交通事故と関連がある」


「……何を言ってるか分からないな」


 ここで始めて首謀者と思しき男が口を開いた。

 とぼけているような口振りではあるが、その表情は、ギラついたナイフのごとく鋭い目つきと、誰かを殺してしまいそうなほどの圧を放っている。誰がどう見ても明らかに異様な雰囲気を放っていた。


「まあ、続けて聞いてくれよ」


 相手の雰囲気とは裏腹に、明るい雰囲気で詰め寄る単千尋。


「──で、そこまでの情報であれば、妹が怪しいというところで、わたしの捜索もそれまでだったんだがね」


「偶然……数年前にとあるニュースを見たことを思い出したんだよ。あれは二年前くらいだったかな」


 相手の男は観念してような表情を一瞬見せる。


「とある全国ニュースで取り上げられたもので、全国の学生を対象にそのコーナーは設けられていたんだ。あれは二年前の三月二十三日、『仲良し陸上兄妹』と題されて瀬海市の兄妹が紹介されていたっけ。二人は学校終わりにランニングをするのが日課だった。テレビで二人の仲のいい様子も取り上げられていたよ。仲が良すぎて、最後に兄の『死ぬ時は妹と同じタイミングで死にたい』と言っていたのが特に印象的だった」


「……」


「そうだろ? 《《墓石優一》》くん? 君はこの一連の事件を“妹が受けた理不尽な出来事”の復讐のためにここまでのことをやってのけた。一つの都市の秩序を“破壊”したんだ」


 墓石は動かず、ただじっと単を睨みつけている。


「……俺を殺すのか?」


「いいや……正直今どうするか迷ってきたところだ。上からは君を捕まえるように言われているんだがね」


「……見逃してくれると嬉しいんだけどな」


 首謀者──墓石優一は、大人しく捕まる様子は無さそうだ。

 単達、四人を相手に臨戦態勢を取る。


「鶴田くん!」


「はいよ」


 臨戦態勢の墓石を相手に、鶴田がものの数秒で墓石を倒し、上から押さえつける。


「容疑者確保」


 鶴田の力には敵わないと悟った墓石は観念したように脱力する。

 完全に動きを封じられてしまったことで、今度こそ観念したように見える。


「これで村雨さんに報告すれば任務達成ですね!」


「いや……事はそう簡単では無くなったんだよ。海川くん」


「えっ」


「村雨さんから連絡が入ってな。首謀者を拘束したら連れて来いと言うんだ。どうやら我々の仲間にしたいらしい。……もっと言うと、“四大人災 春夏秋冬”のように自分の手駒にしたいようだ」


「手駒って……それはつまり村雨さんの地位を守るために、墓石(かれ)を利用したいということですよね?」


 海川が思わず声を荒げる。


「ああ」


「村雨課長の私利私欲のために使いたい……しかし、彼の力は強大過ぎる。いつまた一つの都市を壊滅させるかも分かりません」


 大澄が、冷静に取り押さえられている墓石を見る。上層部の意見とは言え、聞き入れられないといった様子だ。大澄の意見としては、どこかに留置し、観察するのが正しい対応だと考えている。それほどまでに墓石の存在は危険なのだ。


「……どうするんだ? 単さん」


 鶴田は墓石を取り押さえている間も、その力を緩めない。

 鶴田自身も村雨の意見を快く思っていない。


「こいつを村雨に明け渡すのはいいけどよ。村雨は、きっとそれを悪用する気だ。このまま連れ帰っていいのか?」


「いや……駄目だな」


「じゃあどうする?」


「鶴田くん、彼を離してやってくれないか?」


「はっ? 何で!? それはそれで危険だろ!?」


「離す前にやってもらいたいことがある。まずは、海川くん」


「はい」


「彼の記憶を消してくれないか? 消す記憶は、瀬海市機能停止事件を起こすきっかけとなった出来事──『墓石直』との思い出だ。それさえ消せれば、この“破壊神”は大人しくなるさ。事件を起こしたこと事態は消さなくていいよ」


「分かりました」


「記憶を消す!? あんたら、なに勝手なことを言ってるんだ!」


 取り押さえられている墓石が暴れるが鶴田の拘束から逃れるまでには至らない。


「そして、鶴田くん」


「なんだよ?」


「彼の寿命を999歳まで延ばしてやってくれ」


 単からの意味不明な提案に墓石も鶴田も驚く。


「そんなことしてどうするんだよ?」


「それで、解放してやるのさ。そして、寿命を戻してほしかったら、もう二度と悪さをさせないと誓わせる」


「墓石くん、今聞いたとおりだ。しばらくはこの町で我々の監視下に入ってもらう。君がもう二度と悪さをしないようであれば、本来の寿命に戻し、それ以降君に干渉しないことを約束するよ。君の身柄は密国庁に渡すつもりはない」


「でも、そんなことしたら、単さんもタダじゃ済まないぞ! 村雨が何をするか……」


「どうせ、“四大人災”とやらを差し向けるんだろ?  そんな奴らにやられはしないさ。その時はそいつらを退ける方法を《《探す》》さ」

「──わたしは密国庁を辞める」


 誰も言葉を発さない。墓石を渡さないという単の覚悟が、なぜそこまでのことをさせるのか、計りきれていない様子だった。


「何でこの男にそこまで……?」


「理由は二つ。まず、上層部に不審な動きがあり、村雨課長が裏で手を引いている様子がある。わたしはそれに加担したくない」

「そして、もう一つが、墓石くんのことが気にいったからだ」


 またもや、一同(大澄以外)は驚きの声をあげる。


「こんなやつのどこが気に入るって言うんだよ!?」

 まあ、こいつの顔は好みではあるんだけど……


 鶴田が心の声でそんなことを言っているが、そんなことは露知らず、単からは意外な答えが出された。


「彼は妹を大事にしている。妹をこの世の理不尽から守るために、ここまでのことをしでかした────いや、やってのけたんだ! 大したものだ。やらかしたことはさておき、その心意気は嫌いじゃない。『妹のためなら世界をぶっ壊してやる!』というのが伝わったよ。それが気に入った理由かな」


「……」


「とにかく──わたしは密国庁を辞め、しばらくは彼の監視を務めようと思う。文句があるなら言ってくれ」


 一同は考えている様子だったが、単の口にした答えにどこか安心したような表情になっていた。

 単の人間味のある答えに部下の心も動かされたようだ。


「わたしも辞めるよ」


「何?」


「元々、村雨も密国庁も好きじゃねーし。いつか辞めようと思ってたから、丁度いいやと思ってさ。それに、《《千尋さん》》が言うように、妹のためにここまでやったってところが、わたしも気に入ったよ! なかなか硬派な男じゃねーか!」


「俺も辞めます。こうなったら《《ボス》》にどこまでも付いていきますよ」


「ありがとう二人とも。海川くん、もう一つ頼み事いいかな?」


「なんなりと」


「世界中の人間の記憶から“瀬海市機能停止事件”の記憶って消せる?」


 大それた事を言われ、海川も一瞬言葉に詰まったようだ。しかし────


「問題無いですよ。できます」


「おお! そうか! さすがは海川くん」


「何で……俺のために……そこまで?」


 鶴田に取り押さえられている墓石が声を絞り出す。ずっと溜め込んでいたものが溢れ出したためか、声が震える。


「そこまでって……自分の正しいと思ったことをやったまでさ。海川くんが世界中の記憶を消せば、君にも明日からまた平穏な生活が戻って来る。そしたら、次は妹と平和に暮らすんだな。ただ、君と妹からは楽しく過ごしていた“思い出”を消させてもらうがね」


「直との思い出も……!? 待て! それは止めてくれ!!」


「やってくれ。海川くん」


「やめろおおおおおおお!!」


 この日、“瀬海市機能停止事件”は終幕となった。  人々の記憶から、事件があった事実は消され、何事もなかったこのように瀬海市は活動を再開したのである。


 次の日、墓石優一はいつもどおりに学校に向かう。およそ三週間ぶりの通学である。町には、通勤するサラリーマン、通学する学生、電車やバスも事件が起きる前の状態に戻っていた。


「すげえ……これが密国庁の力なのか。俺が壊した秩序も元通りなんだな」


 壊れた物や、損失した金等戻らない物もあるが、単千尋達はその痕跡も極力無くそうと努めた。


「そう言えば……俺は何であの事件を起こしたんだっけ? 何か大切な事を忘れているような」


「どいてよ」


「ああ、すまん」


 後方から声をかけながら、直が家の扉から出てきた。直もこれから学校に登校するみたいだ。

 松葉杖をつきながら懸命に、兄の先を歩いていく。

 墓石優一はその様子を黙って見ていた。


「俺も行かなきゃな」


 二人はほとんど会話を交わすことなく、別々に通学路を歩き出した。そうして、いつもの平和な日常に戻っていった。


……………………

…………

……


 思い出した。全てのことを。


 墓石は目を覚ました。目を開けた瞬間、見知らぬ人物の顔がドアップが墓石の目に飛び込んできた。


「「うわっ」」


 よくよく見ると見知らぬ人物──ではなかった。


「お前は……春野? ここは?」


「ようやく解毒薬が効いたみたいね。……“風邪”だから解熱なのか?」


「おーう、カイシン! やっと起きたかー」


「ゆーたん、心配したよ! 二度と会えないんじゃないかと思ったよ」


「あんたは確か神ちゃん? あと秋山もいるのか……ということは、俺は死んだのか!? ここは天国か!?」


「……いやいや、生きてるよ! わたし達は君に負けて姿を消したけど、誰も死んでないから! ここはわたしのアパートだよ」


「あと……わたしらが死んだら、多分全員天国じゃなくて地獄行きだけどな」


 辺りを見回すと、ベッドが一つあるだけの部屋で、カーテンや寝具は女の子らしい装飾がされているものであった。


 しかし、なぜ俺はここで寝ていた……?

 意識を失う前は、単さんと連絡を取り合っていて……

 電話口の単さんは確か……


「単千尋は死んだよ」


「……ああ」


「四大人災の最後の一人、“風邪使い”の冬木そよが作り出したウイルスによってね」


「“風邪使い”……そうか、俺もそいつのウイルスに侵されて気絶したんだっけ。………じゃあ、何で俺は生きてるんだ!?」


「わたしが治療薬を開発したのだ!」


 春野がドヤ顔で腕組みをする。


「春野が? ──ありがとう」


「でも、わたしも結構サポートしたよ!」


 秋山が横から割って入る。正直今までの付き合ってた頃の思い出があまり良いものではなかったので、秋山がいることで墓石は警戒態勢に入る。

 しかし、目の前の秋山には敵意は無いように見える。付き合った当初──ラブラブだった頃の秋山の雰囲気だった。


「ゆーたん、そう警戒しないでよ。もう、変なことはさせないから。────あの時はごめんね」


「もう気にしてねーよ。──そっか、秋山も助けてくれたんだな。ありがとう」


「うん!」


 無邪気な笑顔を見せる秋山にまたもやキュンとしてしまう…………いかんいかんいかん。平常心だ。

 惚れたらまた心を持っていかれてしまう。


 墓石が心の中で自分を律した後、髪の色が黒、金、ミント色と奇抜な色合いの少女に話しかけられる。


「それを言うなら、わたしもかなりサポートしたよー。褒めてよカイシン」


「あ……ああ、ありがとな、神ちゃん」


 この少女とは、病院に入院していた時に一回しか会話していないにも関わらず、ずっと墓石の記憶に残っていた。

 かつて仲間だったような、どこか懐かしい感じがする。


「自然と『神ちゃん』って言っちゃったけど、お前の名前は『神ちゃん』でいいんだよな?」


「そっちの方がいいね! しっくりくる」


「そっちの方が“ビビッと”来るんだろ?」


「“ビビッと”はわたしの台詞だあ!」


 記憶が無いはずなのに、そういうフレーズが出てくる。

 神ちゃんこと夏目が、墓石と楽しそうに会話をしているのを、春野と秋山が面白く無さそうに見ていた。


「じゃあ、墓石くんも目覚めたところで、今の状況を説明するよ」


「ああ」


 春野達から説明を受けてる最中、単千尋が墓石優一に託した最後の言葉を思い出していた。


『村雨優貴を止めてくれ』


 その言葉を心の中で反芻(はんすう)する。

 単千尋の(とむら)い合戦が始まる。


続く




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