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第21話 瀬海市機能停止事件①

 墓石くん……あとは任せだぞ。

 大澄くんと亀ちゃんも何とか生き残ってくれ。

 爺殿……巻き込んでしまって大変申し訳ない……

 あの世で謝罪させてもらおう。


 兄さん、わたしもそちらにいきます。


「海……川くん……、まだ生きているか?」


「ええ、なんとか……ゴホッ……ゴホッ」


 二人とも図書館の床に倒れ込んでおり、床には吐血の血溜まりができている。


「すまなかったな、こんな終わり方……で」


「いえいえ、……他の奴等が何と思っているか……知りませんがね……、俺はボスの部下で良かったですよ……楽しかったです」


「……そうか」


「ボス……ありがとうございました」


「…………」


「こんなことなら……宝くじの金、使い切りたかったっすね……って、ボスの……記憶には当たった時の記憶は残ってねーか……」


「……」


「ボス? ……ゴホッ……ゴホッ……」


「……」


「ああ……そうか。……俺……ずっと独り言を話してたのか……」


 首だけ動かして、倒れている単千尋の方を向くと、そこには単千尋が仰向けになり、虚空を見つめていた。

 目の光は無く、もう肉体の中に単千尋はいなかった。

 もう世界中のどこを探しても単千尋は存在していないのだ。


「……後は、俺だけか……」


 薄れゆく意識の中、海川は一つだけ懸念していたことがあった。

 今までに消してきた記憶のことだ。

 消した記憶は基本的には戻らない。二度と思い出されることはない。

 しかし、思いのこもった記憶については、何かの拍子に持ち主の元に戻ることがある。

 “記憶使い”の海川農里がこの世からいなくなる時、それはすなわち、一つの秩序の喪失を意味する。

 海川が消してきた記憶の中に、間もなく持ち主の元に帰ろうとしている記憶があった。


 それは、墓石優一の記憶。

 墓石優一が、“瀬海市機能停止事件”を起こすきっかけとなった記憶────

 《《自分の妹を守るために、一つの都市を機能停止まで追い込んだ記憶である》》。

 事件前、墓石優一と妹の直は、都市で一番の仲良し兄妹だった。

 全国ニュースでも、仲が良い兄妹の特集が放送された時、二人のことが取り上げられたほどだ。

 しかしそんな中、妹の直が学校でイジメに遭い、不登校になってしまう。

 見かねた墓石優一は、その学校を含む全ての瀬海市の施設、機関を機能停止にさせた。

 この都市の秩序を“破壊”した────という記憶。


 現在の墓石は、事件を起こした事は覚えているが、《《なぜ起こして》》、《《どのように起こした》》のかは覚えていない。

 それは当時、単千尋が、当時の墓石優一の思想や行動力を危険と判断し、直と仲が良かったという記憶もろとも消したのである。

 直の方は、事件そのものの記憶を消してある。


 そして、今────

 海川の死を引き金に、“瀬海市機能停止事件”を起こした墓石優一の記憶が蘇ろうとしている。“破壊神”と呼ばれた頃の、墓石優一が帰って来る────────


────

──


 海川農里が絶命する。


 その同時刻、墓石優一は夢の中にいた。

 三人の元四大人災、春野由良、夏目深琴、秋山円慈に助けられ、一時的に死の危機を回避するも、治療薬開発のため、春野のアパートに連れてこられたが未だに意識を取り戻していない。


 墓石の意識は、夢と過去の記憶の狭間にいた。

 墓石が思い出しているのは、今年の四月────

 単千尋と再会し、四大人災との戦いが始まった四月から二ヶ月程前の記憶である。


二月十日


「兄貴ー」


「……」


「兄貴、起きろー」


「……」


「遅刻するぞー」


「うおっ! マジか!? 今何時?」


「今は朝の五時半だ」


「まだ寝れるじゃねーか!」


「朝のランニングに遅刻するって言ってんの。ほら早く行くよ」


「今日は勘弁してくれよお」


 墓石直は、墓石優一の部屋に来ていた。

 目的は、朝の日課であるランニングに兄の墓石優一を誘うためである。

 まだ、日も昇り始めて間もなく、人も(まば)らである。

 ランニングウェアに着替えた優一は、まだ目が半開きの状態で外に出る。


「う〜、寒い」


「走れば温かくなるよ。行くよ」


「へーい」


 墓石直は、瀬海中学校の陸上部に所属しており、部ではエース的な存在だった。

 二年生の中では一番足が速く、全国大会にも出場している。

 しかし、それを他の部員から面白く思われておらず、少し孤立していた。

 それでも、墓石直はめげずに練習をして、同級生からの陰口にも屈せず部活動を続けていた。


「直は速いなー。もう俺じゃ追いつけないよ」


「なーに言ってんの? 兄貴が走り方を教えてくれたから、ここまで速くなれたんじゃん? 兄貴も本気でやれば速いんでしょ?」


「教える能力と、実際に走る能力って一緒じゃなくね?」


「えー、そうかなー? ────じゃあ、今から競争して、後に着いた方は朝食の準備ね? よーい、ドン!」


 直がものすごい勢いで加速していく。一瞬で100メートルくらい離されてしまう。


「えっ!? 直、ずるいぞ!」


 墓石も食らいつこうと、足の回転を上げるが、みるみる離されていく。


 初めは優一が直に走り方を教え、練習に付き合っていたが、今では遥かに直の走りが上回っていた。

 しかし、優一にとってそのことは全く悔しくは無く、むしろ誇りに思っていた。自慢の妹だった。


「いえーい! 一番でゴール!」


 直が振り返ると、遥か後方に優一が必死に走っている姿があった。


「ざっと、300メートル差かな。わたしも速くなったもんだ」


 そして、優一がゴールする。スタミナが尽きて家の前で倒れ込んだ。


「ゼェ……ゼェ……速すぎますよ、直さん……」


「精進したまえ、優一くん。さあ、ちょっと休んだら、わたしの分も朝ご飯を作るよーに!」


「はーい……」


……


 優一が作った朝ご飯を食べると、二人は一緒に家を出た。途中までは、高校と中学校の方向が一緒のため、ほぼ毎日優一と直は少しの区間だが二人で並んで登校していた。


「今週さ、レギュラーを決める部内テストがあるんだよね」


「やるまでもなく、お前がレギュラーだろ?」


「いやー、どうかな? うちの部、結構レベル高いからさ。少しでも手を抜くとあっという間に追い抜かれちゃうから、気を引き締めないと」


「ふーん、そういうもんなのか」


「そう! 何事にも全力で! 人生もまた然り!」


「そうだな。──お前がいれば人生退屈しなさそうだわ。長生きして人生を楽しもうぜ! ……とは言っても長生きできる自信ねーけどな」


「兄貴、長生きしてよね」


「何歳まで生きりゃいいんだ?」


「とりあえず、わたしが80歳まで生きるから、プラス1の81歳くらいまでかな。先に死なれたら寂しいからさ。兄貴もわたしが居なくなったらきっと寂しいから、誤差はプラス一年くらいが丁度いいんじゃない?」


「なんだそりゃ……でも、確かに直がいなくなったら、寂しくて一人で生きていける気がしないわ。そのくらいがいいのかも」


「それまで頑張ってね。じゃあ、健康な体を維持するため、夜もランニング行きますか?」


「ええー!? 朝あれだけ頑張ったじゃん!?」


「朝練は朝練、夜練は夜練だよ」


「……へーい」


 そこで分かれ道に着いたため、二人はそれぞれの学校に向かった。


 その週、直の所属する陸上部で、部の選抜メンバーを決める部内テストがあった。

 直はそこで実力以上の結果を出し、文句無しで代表入りを果たした。


 その日の夜、墓石宅。


「兄貴ー! レギュラーメンバーになれたぜー!」


「ん? 普通だろ? お前、速すぎんもん」


「もっと、驚けよー。嬉しがれよー」


「めちゃめちゃ嬉しいぞ。自分の妹が認められたんだ。嬉しがらない兄貴がどこにいる?」


「あっ、こいつ開き直りやがった」


「さあさあ、今日も夜練行くぞー」


「急に仕切るじゃん! ていうか何だかんだ言って、兄貴夜練に乗り気じゃん!」


「このままだと妹が新幹線より速くなりそうだからさ。追いつけそうな今のうちに勝たねーとな」


「また今日もわたしが勝つよ。わたしはいずれ光の速度に達する予定だから」


「仮想敵は光かよ!? 俺じゃ力不足過ぎるだろ!?」


「だからまずは兄貴も新幹線の速さに追いつくことだね」


「いや……あなたも追いつけてないですよね?」


「すぐ追いつくさ」


 この日も墓石兄妹は夜の街を駆け抜けた。

 直は優一を信頼しており、優一も直のことをすごく大事にしていた。

 この頃は、お互いに二人が揃えば最強だと信じていた。


次の日──


「あれ? また下駄箱の上履きが無くなってる」


 あいつらの仕業かな。


 その時、遠くで直のことを見つめている女子のグループがいた。みな薄ら笑いを浮かべて直の方をチラチラ見ていた。

 女子グループは、直と同じく陸上部に所属している女子達だった。今週行った部内テストで結果が出せなかった部員達である。

 彼女達は、部活で華々しく活躍する直のことを疎ましく思い、二年生に上がった頃から、徐々に直に嫌がらせするようになった。

 直が彼女達を睨むと、蜘蛛の子を散らしたようにそそくさと逃げていった。


「直、どしたん? 顔暗いぞ?」


「あっ、小穂(さほ)。おはよう」


「おはよう!」


 直に声をかけたのは、同級生の永代(ながしろ) 小穂(さほ)だった。

 永代も直と同じく、瀬海中学校の陸上部に所属しており、直の次に足が速く、部内ではナンバー2の実力を持っていた。

 永代と直は小学校からの仲で、中学時代の部活動も直が陸上部に入ったのを見て、永代も入部したのである。

 墓石直と永代小穂は大親友だった。

 部のメンバーから嫌がらせされても、陸上を続けてこられたのは、永代の存在が大きかった。


「また、上履き無くなったの? あの子達か……」


「別にいーよ。気にしてない」


「よくないよ! もういい加減に先生に言おうよ!」


「予備の上履きを持ち歩いてるから大丈夫」


「そう……直がそれでいいならいいけど。でも辛くなったら言ってね? 力になるから」


「ありがと! 小穂!」


 二人は一緒に教室へと向かった。

 永代と一緒なら大丈夫……!

 この中学校生活を耐え抜いていける!


 直はそう信じて、学校生活を送っていた。


 しかし、現実は違っていた。


 永代小穂はイジメをしている者達と繋がっており、主犯格であった。

 ある時、それが明らかとなる。

 永代は自分よりも足が速い存在がいることに我慢ならず、二年生に上がる頃から、他の部員を使って直に嫌がらせをするようになる。

 そして、その事実が明らかになってからは、ショックを受けた直は陸上部に顔を出さなくなった。

 直は、一時は教師や顧問に相談したのだが、永代小穂の親が国会議員であるため、学校側は問題にならないようにこの件をもみ消したのである。


「ただいまー……」


「おう、おかえり! 今日は早いね。部活すぐ終わったん?」


「んー……」


「じゃあさ、兄ちゃんと走りに行くか? 最近、新しいシューズ買ってさ」


「いや……疲れたから、今日はもう寝るよ。食欲も無いし……」


「そうか……、朝はちゃんと食べるんだぞ?」


「…………」


 直は、優一とほとんど顔を合わさず寝室に入っていった。

 ここで始めて、直の様子がいつもと違うことに気がついた。

 何かが起きているのだと。

 直の寝室の前を通る時、微かに直が泣いている声が聞こえてきた。


 墓石は、直の様子がおかしい事について独自のルートで調査し、現在直が同級生からイジメを受けていることを知った。


「直、イジメのこと先生に言おう」


「もう相談したよ……あいつら……何もしてくれないよ」


「もっと上の教頭先生や校長先生に相談するのはどうだ!? あとは信頼できる友達はいないのか?」


「……もう、勝手なことしないでよ。わたしが大人しくしてれば、攻撃されないで済むから」


「いや、駄目だ! せっかく直が選抜メンバーになったんだ! こんなイジメくらいでその道が閉ざされるのは悔しいよ! 俺が何とかするから!」


「だから、勝手なことしないでって言ってるよね!? それが、わたしにとって迷惑って分からない!?」


「直……」


「兄貴はいいよね! 平和ボケしてのほほんとしてるから、誰からも興味持たれないもんね? そりゃあイジメとは無縁だよね!?」


「なんだと!?」


「わたしには、陸上とか小穂の存在が全てだったんだよ! それが壊れたらもう……死んだ方がマシだよ!」


「まずは小穂ちゃんとしっかり話しあってみようよ。昔は仲良かったじゃん」


「だから、それが嘘だったんだよ!? もうわたしにはどうする事もできない!? 弱い奴は強い奴に逆らえないんだ!? それがこの世界の“秩序”なんでしょ!?」


「……“秩序”? ……秩序か。それならそのふざけた秩序を俺がぶっ壊してやるよ!」


「兄貴にそんなことできるわけ無い! もう放っといてよ!」


「直!」


 直は勢いよく部屋から飛び出し、そのまま玄関から外に出た。

 その時────────ドン


 直が車に跳ねられた。

 すぐさま救急車で運ばれ治療を受ける。

 命に別条は無かったが、跳ねられた衝撃で両足を骨折した。回復すれば、歩くことには支障はないが、走ることは当分できないと、医者から宣告された。

 少なくとも数年間は…………


 警察の調査で分かったのだが、事故を起こした犯人は、瀬海市に本社のある有名な某車メーカーの社長の御曹司が運転する飲酒運転が原因だった。

 金の力で警察やメディアに根回しし、事故そのものをもみ消したのである。

 その事件の顛末は、表向きには目撃者が少なく、犯人を特定できないという結論に至らされた。


「兄貴、何なんだろうね? わたしの人生は……」


「……」


 病院のベッドに横たわる直の問いかけに何も答えることができなかった。


「こんな世界で生きていく意味ってあんのかな? なんか一瞬で全部失っちゃったから、全部どうでもよくなっちゃったよ」


 直の目から(こら)えていたものが溢れ出した。

 悔しさとやるせなさが、止めどなく直の頬を伝っていく。


「疲れちゃったよ」


「──俺が何とかするよ」


「もうどうにもできないでしょ? 学校には戻りたくないし、足の怪我も治らない」


「確かに、直の状況は変わらないかもしれない」


「うん……」


「だから、《《他の奴等にもこの場所まで降りてきてもらう》》」


 そう言うと、墓石は勢いよく病室から出て行った。


「兄貴?」


 その次の日から、墓石優一の復讐が始まった。

まずは、直を車で轢いた社長の息子を脅すための弱みを集め始めた。

 墓石は四六時中尾行し、息子の犯罪の証拠を集めた。

 飲酒運転以外も、多くの罪を持っており、公にしない代わりに、多額の口止め料を払わせた。

 そして、その金で探偵や情報屋などの協力者を雇い、他の金を持ってる者の弱みを握り、揉み消すために口止め料を払わせる……ということを繰り返し、多額の軍資金と大勢の協力者を得ていた。

 墓石は、人材精査(せいさ)力に長けており、協力者はみな優秀で裏切らない人材を集めていた。


 十分な金と協力者を集められた後は、直を車で轢いた社長の息子と、その事実を金で揉み消したその父親の弱みを世間にばら撒いた。その影響により大手某車メーカーは営業を休止した。

 そして、次は永代小穂への復讐を始める。まずは、イジメの証拠を揃え、SNSで拡散する。同様に、イジメをしていた生徒も同じ目に合わせた。

 そして、学校側もイジメ問題について、メディアで取り上げられるようになり、当時の校長と教頭、そして、陸上部の顧問の教師は、イジメを黙認したとされ世間からひどいバッシングを受けた末、辞職となった。

 また、同様に、揉み消しに加担した警察や、政治家も墓石の手によって、社会的に抹殺されることとなる。

 ここからさらに、墓石の行動には拍車がかかり、今回のイジメ騒動に関わらない人々の生活にも、見境無く影響を及ぼしだしていた。

 時には暴力を持って、人々を制するようになった。都市には、墓石の息のかかった武装集団の姿が瀬海市中で見られるようになり、墓石の脅しに屈しない者達は最終的に武力によって従わさせられた。

この時には、瀬海市の警察はほとんど機能しなくなっており、墓石を止める者は誰もいなくなっていた。

 瀬海市の中で、“弱みを握られると脅される”、“外に出る時には、行動を見られてはいけない”など、外に出る者はほとんどいなくなっていた。

 噂が噂を呼び、墓石の存在は、“正体不明の人々の平和を壊す存在”として、瀬海市を中心とし、人々の心に恐怖を植えつけた。

 いつしか、墓石優一の存在はネット内で噂されるようになった。

 “瀬海市の破壊神”と────


 瀬海市に住む人々は、破壊神の存在を恐れ、誰も外の世界に出ようとしなくなった。

 警察や行政、企業など、ほぼ全ての機能が停止したのである。

 それが、単千尋が命を落とすおよそ七カ月前  ────三月二十三日の出来事であった。


 これが後に語り継がれる“瀬海市機能停止事件”の全容である。

 いや、正確には、《《後に語り継がれるはずだった》》事件……と言っておこう。


事件の翌日 三月二十四日

密告庁 秩序維持課 特別会議室


 ここに二人の秩序維持課職員が招集されていた。

一人は他人の記憶を消去する“記憶使い”の海川農里(うみかわのうり)

 そして、もう一人は、何者からも干渉されず、こちらからも干渉しない、ただ対象を観測する男、“観測使い”の大澄衛時(おおすみえいじ)だった。

 二人は単千尋の部下として、半年前からチームで動いており、この度発生した“瀬海市機能停止事件”の解決にあたり、解決チーム結成のため、単千尋のた元に集められていた。


 会議室の中には、招集した単千尋を含めて三人。単の口から、事件の状況と、今回のチームの目的を聞かされる。


「現在、武装集団が町に滞在しており、一般人でさえ迂闊に歩き回れない状況だ。我々の目的は瀬海市に潜入し、首謀者を見つけて捕縛することだ」


「それって簡単なことなんですか? 我々は武装集団に対抗する力を持ってないです」


「大澄くんがいるじゃないか? 彼に安全な場所を探してきてもらう。集団はたかだか数百名。街に入ってすぐにエンカウントするわけじゃないさ」


 大澄は無言で地図を眺めていた。単の無茶振りとも思われる発言だったが、“観測使い”の大澄にとっては安全地帯を見つけることは造作も無いことなのだ。


(すみ)くんは万能だなあ」


「海川さんの能力(ちから)も凄いじゃないですか。ちなみに、その能力で、武装集団の記憶を消すというのはできないんですか? 彼らの目的や、上の存在から受けているであろう指示内容を記憶から消してしまえば、簡単に排除できるのでは?」


 冷静な大澄が無感情に言い放つ。確かにそれができるのであれば、苦労して大澄が先行して探る必要はない。


「ごめん、澄くん。俺は消す記憶の内容が明らかになっていないと、消せないんだ。せめて、“誰が”、“どういう指示をしたか”が分かれば、今の案が実行できるんだけど……」


「そう、現状首謀者はまだ分かっていない。それをこれから探すところから始めなければならない」


 首謀者が誰なのか、今のところ、その足取りを誰も掴めていない。

 まずは隠れている首謀者を探し出すため、人や物を探すことに長けている単千尋が、この任務を遂行するのに選ばれたのだ。


「ちなみに、海川くん。君は一度にどれくらい大勢の人間の記憶は消せるんだい?」


「一度にですか……上限はありませんが、消す記憶の内容が明確であれば、世界中のどこにいる人間の記憶でも消せますよ。まあ、単さんや澄くんみたいに、俺が“記憶使い”であることを知ってる人の記憶は消せませんがね」


「えーと、それは何でだっけ?」


「俺の能力を知る人物の記憶を消すには、消す対象の承認がいるんです」


「ふーん、じゃあ秩序維持課の人間には効かないんだね?」


「そうです。秩序維持課の人はお互いに能力を知ってますからね」


 単や大澄、海川といった秩序維持課が発足当初からいるメンバーは、どういう能力を持つのかが、課内のデータベースに登録されている。

 これは、秩序を乱す力を持つ者が、好き勝手悪さしないための措置である。


「まあ、“四大人災”とかいう例外もいるけどな。やつらの能力は、上層部しか知らん」


「単さんも知らないんですね?」


「知らん。興味も無い」


 大旨作戦の内容を伝えたところで、会議室のドアをノックする音が聞こえた。


「誰か使うのかな? でも、今日はわたしの名前で会議室を予約したから、一日貸し切りのはずだが」


「失礼します」


 ドアを開けて入ってきたのは、金髪にスカジャンを羽織り、いかにもヤンキーの様な風貌の小柄な女性が入ってきた。


「村雨課長に言われて来ました。“寿命使い”の鶴田亀子と言います。単チームに加わり、サポートするように言われています」


 鶴田はぶっきらぼうにそう言うと、単千尋を初め、大澄や海川の方を品定めするように見る。

 口には出さないが、“貧弱そうなやつら”と思っているような表情をする。本当に思っているかは定かではないが。


「おお、君が鶴田くんか! よろしく! “探し使い”の単千尋だ」


「どうも」


 続けて、大澄と海川も自己紹介をしたところで、改めて作戦の全容を共有した。

 鶴田もあらかじめ村雨から今回の事件について聞かされていたみたいで、淡々と相槌を打っていた。


「そして今回の鶴田くんの役目は、首謀者を“殺す”場合、君の能力を使うと聞いている。ちなみに、どのようにやるんだい?」


「触った人間の寿命を奪える。逆に増やすこともできますがね」


「なかなか恐ろしい能力だね。ではまず、首謀者を捕縛しなければならないな」


「その点は大丈夫です。わたし、腕っぷしは強いので、自力で動きを止められると思います」


「おお……それは頼もしいな」


 このチームに不在だった戦闘専門の役割を担ってくれるらしい。

 こうして単率いるチームが結成され、翌日から瀬海市に潜入することとなった。


続く





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