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第2話 四大人災 春夏秋冬

四大人災(よんだいじんさい) 春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)


 単千尋(たん ちひろ)と同じく密国庁(みっこくちょう)秩序維持課(ちつじょいじか)から派遣されてくる四人の“人災”──


 メンバーは“春野 由良(はるの ゆら)”、“夏目 深琴(なつめ みこと)”、“秋山 円慈(あきやま えんじ)”、“冬木(ふゆき) そよ”の四人──


 メンバーの頭文字を取り“春夏秋冬”と呼ばれている。

 そして、メンバー全員が、国の“秩序”を乱し、滅ぼすほどの力を持っている。


 ゆえに、存在自体が“人災”と呼ばれる少女達──


 どんなおっかない人物達なのだろうか。

 出会い頭に、ナイフで刺されたり、銃で撃ってきたりするのだろうか。

 そしたら、敵うはずもなく、普通に死んでしまう。


 単 千尋(たん ちひろ)(いわ)く……999歳まで生きると言われているが、事故や怪我等では普通に死ぬらしい。何事もなく老衰で死ぬなら999歳まで生きるとのこと。

 だから、ナイフで刺されれば死ぬし、銃で撃たれれば即死する。

 つまり、無敵状態になったわけではないのだ。


 それって、俺生き残れんのかな……

 寿命を縮めるために戦って、死んじまうかもしれないな……


「こんな頼み事、引き受けなきゃよかった」


 昨日、単から一通りの説明を受けたが、肝心の単のバックアップはほとんど無いことが分かった。全て対応を丸投げされてしまった感じである。


 しかし、命を狙われていようがなんだろうが、学生たるもの学校には通わなければならない。

 次の日、墓石はいつも通り登校していた。


 墓石が通うのは、敷織高校(しきおりこうこう)という県内でも有数の名門校である。部活動と勉学にそれなりに力を入れている学校だ。


 登校中、誰かにナイフで刺されないか、誰かに狙撃されないか、と、あたりをキョロキョロと不審者のごとく探ってみたが、特に何事もなく登校できてしまった。


 ひとまずは何もなかったな。だけど、しばらくこの緊張感が続くのか……


 はぁっ、とため息をつきながら、自分の席についてると、後ろから「バンッ」と強く背中を叩かれ、声をかけられた。


「なに朝からため息ついてんだ? 優一くん。好きな女の子にでも振られたのかな?」


「ああっ? こっちは今後の人生について絶賛お悩み中なんだよ」


 振り向くと、そこには茶のかかった色味のショートヘアに、単千尋に及ばないまでも長身でスラッとしたクラスメイトの女子が立っていた。


 そんな、茶化すように話かけてきたのは、同じクラスの………………………………………………………………………こいつは誰だ!? 見たことねーぞ、この女!


 呆気に取られて、何も言えずにいる墓石に正体不明ガールは、笑いかけていた。


「あっはっは! びっくりさせちゃった? ごめんねー、今日からこの学校に転校してきた者なんだけど、朝のホームルームが待ちきれなくて入って来ちゃったよ!」


 本来転校生というものは、朝のホームルームの時に先生と一緒に入ってきて「えー今日からこのクラスに転校してきた──」みたいな紹介をされた後、「東京から転校してきた──です! よろしくお願いします!」と言った後、主人公の男が、「あー!   お前は今朝の食パンをくわえた女!」と叫ぶと、女も「あー! さっき道路の角でぶつかった男子だ! ぶつかったこと謝ってよ!」「そっちがぶつかって来たんだろ!」……的なやりとりがあるのがお決まりのはずだが、こいつはそれらのやりとりをショートカットして教室に入ってきたみたいだ。


 ……いやいや、誰だよ、主人公の男子って。



 ──ていうか、何で俺の名前を知っている。


「お前は……?」




「はっはっは、申し遅れたねー。わたしは春野 由良(はるの ゆら)! 十八歳! 今日からこのクラスの一員になります! よろしく!」


 戸惑う墓石のことは気にせず、元気一杯に自己紹介を終える。


 今何て言った──?

 ──春野 由良?

 つい昨日、単千尋から聞かされていた“4大人災    春夏秋冬”とやらの1人なのか?

 春夏秋冬の──“春”──

 ついに出くわしてしまった。


 しかし、その春野の雰囲気は、墓石が想像していた人物像と大きくかけ離れており、どちらかと言うと、爽やかなスポーツマンのようにハキハキと声を出す女子だった。


 もっとこう……じめっとした……暗殺者的な集団を想像していたんだが……


 刺客が転校して来ちゃったよ。


「そして、わたしがかの有名な密国庁に所属する四だぃ……ぐもっ……!」


 恐らく“四大人災”と言おうとしたのだろう。

 みなまで言う前に、墓石が慌てて春野の口を塞いだ。


 まあ、一般人が“四大人災 春夏秋冬”と言われても何のことやらという感じだと思うが、念のため……


 すると、春野はすぐさま墓石の手を払い除ける。


「何すんのさー。いきなり、女子の口元に手をあてるなんて、優一くんは常識ないんだなー」


「お前が、不用意に密国庁とか口にするからだろ。お前の狙いは俺と単だろ? ……できれば、学校の連中は巻き込みたくない」


 限りなく小声で春野に伝える。

 しかし春野は、その墓石の声のボリュームには合わせてくれない。


「巻き込みたくないって言ってるけどさ……、一カ月前はこの町の学校を全て《《学級閉鎖》》に追い込んだ君がそれを言うのかい? おかしな話だね」


 密国庁の人間だから、当然《《例の事件》》のことは知っているようだ。


「自分の目的のために、この町──いや──この“瀬海市”全体の機能を停止させた男が、立場が逆になったら、『学校の連中は巻き込みたくない』だって? それって──虫が良すぎると思わない?」


 ぐっ……! 正論だ。

 悔しいが、こいつの言う通りだ。

 俺は自分に都合のいいように主張している。

 春野の正論に対して、何も言い返せずにいると、春野はずいっと顔を近づけてきた。


「──とまぁ、意地悪言ってしまったけど、仲良くやりましょ! すぐには優一くんを《《やらない》》よ。君をここで《《やっても》》単千尋には逃げられてしまうからね。二人は同時に《《やる》》か、単を先に《《やる》》かだね」


 その声は先程までの、爽やかな口調ではなく、ヤクザが人を脅す時に出すような、低く緊張感のある声色だった。


 《《やる》》ってのは《《殺る》》ってことだよな─


 いつの間にか額に汗が滲む。

 相手がただの女子高生でないことはこの数分の会話で理解できた。


 クラスはガヤガヤと騒がしい状態だっため、幸いにも墓石と春野の会話を気に止めている生徒は一人もいない様子だった。

 しかし、騒がしいはずなのに、墓石の耳には周りの雑音が入ってこないくらいに静かに感じた。



「はーい、皆さん席についてー。ホームルームを始めるよ」


 墓石と春野が沈黙してすぐ、クラスの騒がしい中に、担任の声らしきものが響いた。

 それまで、しゃべっていた生徒たちは大人しく、みな自席に戻る。


 春野も口元を“またね”と声に出さず動かし、自席に戻っていった。


 本当に来やがった──四大人災の春──

 “春野 由良”──


 俺の高校生活は早くも雲行きが怪しくなってきたな。さて、どうするか。


 そんなことを考えながら、教卓の方を見ると、担任ではなく違う人物が教壇に立っていることに気がついた。

 今、教壇に立っている教師は、自分が知っている三年一組の担任ではない。


 墓石が高校三年生になった四月当初に、クラスの担任として挨拶をしたのは“田中”という大人しそうな女の教師だったはずだ。

 しかし、今墓石達生徒の前に立っているのは、若くて、髪が少しパーマかかっている、教師というには少し『チャラそうな』人物だった。


 見たこと無い人物の様子に、他の生徒は戸惑っている様子だった。


 しかし──墓石優一はその人物を知っていた。


 出会ったのは、およそ一カ月前。

 墓石が例の事件を起こした時である。


 その人物の名前は、大澄 衛時(おおすみ えいじ)という。

 密国庁秩序維持課。

 単千尋が墓石を止めるために連れてきた三人の部下の一人。

 単曰く“観測(かんそく)使い”と呼ばれる男。


──だが、なぜ大澄がここにいる?


 大澄はジッと墓石のことを見た後、ニコッと笑い、生徒達に自己紹介を始めた。


「初めまして。大澄衛時と申します。四月一日から三年一組を担当されてた田中先生は、一身上の都合でご退職されました。そのため、今日からはわたしがこのクラスの担任となります。一年間よろしくお願いします」


 ペコッと頭を下げる大澄に、生徒達も受け入れだす。


「ちょっとイケメンじゃない!?」「爽やかそうな先生だね」など、主に女生徒から黄色い声がチラホラ聞こえてくる。


 ちなみに、今日は四月二十日。新クラスとして始動してからまだ三週間ほどしか経過していない。

異例な人事であるが、思いの外、クラスのみんなは受け入れている様子だった。

 ──大澄がイケメンだからだろうか──?


 大澄 衛時。

 単千尋の命令で来たのだろうか。

 命を狙われている俺を助けるために?

 だとしたら、心強いが……


 大澄の表情からは一切思惑が読めなかった。ちらっと春野の方を見ると、大澄の登場を見つめる春野の表情は余裕の表情であった。

 単の部下ということは、春野にとっては敵のはず。


 あの二人は面識ないのか?

 何を考えている?春野由良。


 春野の視線に気がついたのか、大澄は再度クラスに

呼びかける。


「すみません、みなさんにもう一人紹介するのをうっかり忘れていました。このクラスに新たな仲間が一人加わります。では───春野さん、こちら前の方に来ていただけますか?」


 はい──と、答えた春野は軽い足取りで、教壇の方へと向かう。

 クラスメイトの方へ向き直ると、次は男子生徒がざわつき始める。


「ちょっとあの娘……可愛いすぎん!?」「爽やかスポーツ少女っぽい! ってか、モデルみたいなスタイルじゃん!」など、思春期真っ盛りな男子らしい声がチラホラ聞こえてくる。


 当然、墓石は終始無言で見守る。

 春野の目的について、考えていた。


 このクラスに転校し、俺と接触してどうするつもりだ……

 いつでも暗殺できるように近づいてきたのだろうか……


 そんなことを考えていると、春野が先程墓石にしたように、クラスメイトに自己紹介を始める。


「始めまして! 東京の方から転校してきました春野 由良って言います! みんな、気軽にニックネームとかで『ゆらっち』とか『ゆうぴー』とか『ゆらゆら』とかって呼んでくれると嬉しいです。今日からよろしくお願いします!」


 かわいいー、ゆらゆらよろしくねーと、クラス中(主に男子)から歓迎の声をかけられる。

 そんな中、春野は自己紹介の最後に一言つけ加えた。


 それは全くもって意味の分からない一言であったため、ほとんどのクラスメイトにスルーされた。


 ほとんどのクラスメイトにスルーされてた。──墓石優一を除いて──




「あとは──“自信(じしん)使い”って呼んでくれてもいいですよ!」



続く



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