第16話 墓石NTR作戦
「ゆーたん、手繋ごう♡」
「ゆーたん、二人で写真撮ろう♡」
「ゆーたん、ご飯食べに行こっ♡」
「ゆーたん、荷物持って♡」
「ゆーたん、疲れちゃっから、お姫様抱っこで家まで運んで♡」
「ゆーたん、危ないから車道側歩いて♡」
「ゆーたん、わたしの靴汚れちゃったから、ゆーたんのハンカチでキレイキレイして♡」
「ゆーたん、高いところの物が取れないよ〜。そこに四つん這いになって、台代わりになって♡」
「ゆーたん、うちのアパートの水道ガス光熱費とネトフリの料金払って♡」
「ゆーたん、お金いっぱい持ってるね♡ 500万円だけちょーだい♡」
妹が作ったお弁当箱を捨てたことが判明した日を境に、秋山円慈の墓石優一に対する発言は、度を越したものが多くなっていった。
この頃の墓石はもう完全に秋山の言いなりとなっていた。
「分かったよ♡ えんちん♡」
その二つ返事で、秋山の無茶なお願いを聞く墓石。
しかし、墓石自身はその異常に気がつくことはできない。
恋は盲目──とでも言うべきか、墓石は冷静に自分の状況を見ることができなくなっていた。
しかし────
「ねえ、ゆーたん、《《単千尋の居場所を教えて》》♡」
「えんちん、ごめんな。それだけはできない」
「そう……」
秋山円慈は、単千尋の居場所を聞き出すことに苦戦していた。
墓石の心は、まだ完全に秋山のものになっていない。
まだ、墓石優一は完全に“恋”をしていないのだ。
しかし、それも時間の問題だ。時間をかければ、“恋”はより深いものになっていく。
「もう少し時間をかけて……だね」
この日も、墓石と秋山が二人で帰ろうとしていた。いつものとおり、秋山が無茶なお願いをする。
「ゆーたん♡」
「なあに? えんちん♡」
「帰り道、歩道の縁石周りの草がすごく伸びちゃってるよね?」
「そうだね♡ えんちん♡」
「歩く時、足にチクチク当たって痒くなっちゃうからさ。全部除草しておいて、ゆーたん♡」
「分かったよ♡ えんちん♡」
「『分かったよ♡ えんちん♡』じゃねーぞ!! 墓石! 目を覚ませ!」
ラブラブな二人の後ろに、金髪のヤンキー風の女が立っている。
その声にバカップルは振り返る。
秋山は振り返りながら、墓石の腕にギュッとしがみつく。
「あなたは、鶴田亀子さん? 怖い顔してどうしたの?」
「お前、墓石にかなり無茶苦茶な命令をしてるらしいじゃねーか? 何か弱みでも握ってるのか? それとも心を操ってたりするのかよ?」
秋山はいつものほんわかした顔から、鋭い眼光をした顔に変わる。
「変な言いがかり止めてよね。ゆーたんは……墓石くんは、好きでわたしのお願いを聞いてくれてるの。弱みも何も無いわ。ねー? ゆーたん?」
「ねー、えんちん♡」
墓石の顔は、デレデレを通り越して、トロトロに蕩けきってしまっている。
これが、“破壊使い”と呼ばれた男の成れの果てか。
まるで、こちらに聞く耳を持っていない様子だ。
千尋さん……、墓石は思ったより重傷だ。もう、こっちの声も届かないかもしれないっす。
「墓石、わたしのことが分かるか?」
鶴田の問いかけに、墓石はいつもの表情に戻る。
「…………お前は…………“寿命使い”の女!? 鶴田亀子か!?」
「やっと気がついたか」
「鶴田、俺の寿命を元に戻してくれよ。もう俺は四大人災とも闘いたくないんだ! えんちんと幸せに暮らしたいんだよ!」
「まあ、ゆーたんったら♡」
秋山は、墓石にしがみつく力を強める。しかし、こちらを睨む眼光は鋭いままだ。
「“恋”は盲目とはこのことだな」
「“恋”は良いものよ? 多くの人が幸せになれるわ。見てよ、ゆーたんの幸せそうな顔を!」
墓石の様子は普通ではなかった。目の焦点は定まらず、顔の筋肉が弛緩しているように見える。
「確かに幸せそうだ。たとえ、偽りの幸せだとしてもな」
「……!? なんかさっきから、つっかかってくるわね? それで、何の用なの? こっちは早く帰りたいんだけど」
墓石の腕を引っ張り、強引に帰ろうとする。
しかし、墓石はそこに踏み止まる。
秋山の意思に抵抗しているように見える。
「ゆーたん?」
「鶴田、俺の寿命を元に戻してくれ」
「寿命? どういうことなの?」
墓石は答えず、鶴田のことを見続ける。
この瞬間、先程までの蕩けた顔ではなく、いつもの硬派な墓石の顔に戻っていた。
ああ……やっぱこの顔好き過ぎる! くそお、なんで墓石の隣にいるのがわたしじゃないんだ。
「おい! 秋山円慈!」
「な、なによ? 急に?」
「お前は“恋”に自信がある。────つまり“恋使い”なんだろ?」
「!?」
「千尋さんが、駆けずり回って《《探し出してくれたよ》》。お前は他人を好きになり、好きになった相手と“恋”に落ちる。そして、落とした相手を奴隷のように言いなりにすることができる」
故に────“恋使い”。
「当たってるけど、だったらなに? もう墓石はわたしにゾッコンよ? この状態になったら、もう元には戻れないわ」
「だから、勝負しないか?」
「はあ!? 勝負ってなによ!?」
「わたしとお前でやるんだよ。勝負は“恋の勝負”だ」
「“恋の勝負”!? この女、何を言ってるの?」
秋山は早くこの場を離れたいのか、墓石の腕を思いっきり引っ張る。しかし、墓石は動かず、まっすぐ鶴田を見ている。
「一日だけ墓石とデートさせてほしい。それで、墓石の気持ちが変わらなければ、“秋山の勝ち”。お前から気持ちを離れさせたら“わたしの勝ち”だ」
「……それでいいの? きっと、わたしは勝つよ?」
勝負の内容を聞き、秋山は余裕の表情となる。墓石が簡単に心変わりはしないということに、自信があるらしい。
「いいぜ。わたしが負けたら、『墓石の寿命を元に戻す』と、『千尋さんの居場所を教える』の二つは約束するよ」
「何か勝算があるのか分からないけど、まず無理だと思うけどなー」
秋山はすでに勝ち誇った顔をする。しかし、相手の余裕に鶴田も動じなかった。
「じゃあ、勝負成立だな? 秋山」
「いいわよ。早速明日デート勝負をやりましょ」
そこで、墓石・秋山カップルと鶴田は別れた。
デートの日は次の休日に決まった。
「よお、墓石」
デート当日。鶴田は、いつものスカジャン&ジーパンスタイルを止め、上がニットで下はロングスカートを着用し、髪も金髪から茶髪に変えたことで、いつもの尖っている印象から、いくらか柔らかい印象となった。
墓石の方はいつもと変わらない様子だが、どことなくこのデートに乗り気ではない雰囲気が出ている。
「鶴田、俺は正直このデートには好意的じゃない。俺はえんちんが好きだ。別に操られてなんかいねーよ。何か考えがあるのか?」
あくまで、墓石優一にはおかしくなっている自覚はない。
このデートはその墓石を救うための作戦なのである。しかし、その作戦の全容を鶴田自身もまだ掴めてはいなかった。
「まあ、ぶっちゃけ今回は千尋さんの作戦で動いてる。その結果、わたしもどうなるか分からない。でも……」
「このまま何もしないで、千尋さんと墓石がいなくなるのは嫌なんだ」
デートのスケジュールは、鶴田の方で決めていた。
「まずは、動物園に行くぞ」
「おう」
今日一日は鶴田とのデートに集中する。秋山のことは考えない。墓石は、そのことに徹して今回のデートに臨んだ。
もちろん“自身の寿命を元に戻してもらう”ことが一番の目的だが、それ以外に、ほんの些細な違和感を墓石自身が感じていた。
このままでは、何かが《《壊される》》と。
その心の中に湧いたモヤモヤを解消したいという思いもあり、この場に来ていた。
墓石と鶴田は、瀬海市動物園に向かった。ここは日本でも有数の大規模な動物園で、ライオンやパンダや、カバ、キリン等のオーソドックスな動物に加え、ジャイアントパンダやコビトカバ、オカピ等の珍しい動物も展示されている。
「墓石見てみろ、あれ」
鶴田が指差した先にいるのは、亀だった。
「あれは、ケヅメリクガメといってな。陸上で生活する亀なんだ。大人しくて、のんびり餌を食べるのが可愛いんだ! で、あっちは、ヒョウモンリクガメで、その向こうはヘルマンリクガメだな。この動物園は種類が豊富だな!」
次々とリクガメの紹介をされるが、正直墓石には見分けがついていなかった。
しかし、どの亀もよちよちと歩く姿が可愛らしかった。
そして、それを紹介する無邪気な姿の鶴田亀子にも、普段とのギャップを感じ、少し癒されていた。
正直、今日まで墓石は鶴田にいい印象を持っていなかった。
見た目はヤンキーみたいで怖そうだし、何より無理やり寿命を延ばされてしまったことに怒りを感じていたが、動物園を回って数十分だが、鶴田への少し好感度が上がりつつあった。
その後、鳥類のコーナーに向かい、“鶴”が展示されているコーナーに向かう。
そこには、二羽の鶴がおり、寝ているのかじっとして休んでいるようだった。
「いやー、いつもここに来ると癒されるなあ。鶴って特に綺麗だよな? 他の動物園だと見られないところが多いんだよ」
確かに、生で鶴を見るのは初めてかもしれない。
というか、亀と鶴、完全に“鶴田亀子”の名前のとおりの趣向なのだなと思った。
その後、他の動物も見て回り、気がつくと昼の12時を回っていた。
「そろそろお昼にしようぜ。ここはわたしの奢りだ」
「いやいや、俺が奢るよ」
「こっちから誘ったんだ。お姉さんに奢らせてくれよ」
「いや、同い年だよな?」
二人は園内のレストランで昼食をとる。
レストラン内は二人以外も家族連れの客で賑わっていた。
一緒に昼食をとりながら、これまでの話をした。
単千尋に協力を仰がれたこと。春野由良と三十本勝負をしたこと。病院に入院してた時、神ちゃんと名乗る少女と出会ったこと。秋山と付き合い始めたこと。
「そうか」
鶴田は食べる手を一旦止め、ポツリと呟いた。
「ワールドライブに出場していたことは、農里(海川の下の名前)に聞いたよ。壮絶な春と夏の思い出だったな」
「──で、今は楽しいの?」
楽しい──そう答えたいはずなのに、口からその言葉がすぐに出て来ない。
さっき食べたパンが喉の奥につっかえているのか、それとも墓石の中の何かが偽りの気持ちを抑え込もうとしているのか。
「──楽しい……、──楽しいよ」
「本当か? 顔が暗いぞ?」
楽しいという言葉とは裏腹に、墓石の顔には影があった。
「俺は、九月からえんちんと付き合って、毎日楽しく学校生活を送れている。もうえんちん無しじゃ生きられないと思ってる……俺達は愛し合ってるはずなんだ……」
「それは本当に愛か? 秋山は、お前を大事にしているのか? お前を利用しようとしているんじゃないか?」
「鶴田……何が言いたい? えんちんが俺を本当は好きじゃないって言いたいのか?」
──あの目だ。
自分の世界に入り込んでしまっているような──こちらの声が一切届かないような──目が合っているのに、その奥底の暗さは計り知れないほど暗く濁って見える。
「……分かった。まだわたしの声は届かないみたいだな。────よし、一旦動物園の外に出よう! 公園にでも行かないか?」
「? 別にいいけど」
また墓石は我に返ったような顔つきになる。
二人は動物園を出ると、瀬海市運動公園に向かった。
「ここの公園広いな」
「そうだな」
「俺、あそこに見えるデカいアリーナの近くでライブやったらしいんだよ」
「『やったらしいんだよ』って何だよ! ……って、そう言えば、農里にその時の記憶消されてるんだっけか」
「海川さんに消された記憶って、もう戻らねーの?」
「わたしもよく知らないんだけど、完全に消えない記憶もあるみたい。農里の意思で、“残そう”とした記憶以外は、基本的には完全に消えるらしいけど」
「そうか……、どんなやつらとどんな感じでバンドやってたのか思い出したいんだけどな」
墓石は寂しそうに、アリーナを見つめる。
ワールドライブ以降、墓石は晋ちゃんや石川氏とは会っていない。
記憶を消す前の墓石は、そのあたりを徹底して、連絡が来ないようにスマホのLINEアプリの設定変更までしていた。
幸せだった時の記憶から離れるために、夏目深琴のが作り上げた不運を回避するためだ。
「農里に今度聞いてみろよ? 実は残ったりして」
「そうだな。海川さんいい人だから、記憶を残してくれているかもしれないな」
公園の中を歩いているうちに、いつしか日が暮れだしていた。
十月中旬にもなると、夕方の時間には少し肌寒くなる。
「じゃあ、そろそろ帰る時間かな」
「? もういいのか? えんちんとは、時間の決めは無いから、今日一日デートできるんだぞ?」
「いや、これまでのやりとりでだいたい分かった。お前は秋山円慈が好きだ。その気持ちは変えられない」
今回のデートをとおして、鶴田は、墓石の気持ちが自分に向くことはないことを悟る。
墓石の気持ちはわたしの方には向かない。まあ、久しぶりに会って一日デートしただけじゃ、変わらないのは当たり前だけど。せめて、秋山から少しでも気持ちを離したかったけどな。わたしや千尋さんが思う以上に、“恋使い”の呪縛は墓石の心を侵食している。
──千尋さん、ごめん。わたしには無理だった。
「悪いな、鶴田。────で、結局単さんの狙いは何だったんだ? お前との一日デートが何になるんだ? すごく楽しかったけど……」
「墓石……わたしはな…………お前のことが好きだったんだよ」
「えっ」
不意の告白に言葉が出なかった。
鶴田が俺を好き? 会うのも今日で2回目とかだった気がするけど。
「まあ、最初は顔がタイプで、そこから気になってたんだけどさ。お前のことを知っていくうちに、妹思いなところとか、……優しいところとか、……硬派なところとか、そういうところを好きになったんだ」
鶴田は照れる様子もなく、墓石の顔をまっすぐ見て伝える。
秋山に心を奪われてる墓石も、真剣な鶴田の話を真正面から受け止めていた。
「今日もわたしに惚れさせようとか、そこまでのことは考えてなくて────秋山から少しでも気持ちを離れさせられればいいなと思ったんだけどな。────どうやら、それはわたしには無理らしい」
「鶴田……」
「墓石のことは諦めるよ。最後に一つ……甘えていいか?」
「えっ……? 甘える……?」
「ぎゅー、させてくれよ」
そう言いつつ、鶴田は両腕を墓石の方に伸ばす。『ぎゅーさせてくれ』というのは、抱きしめさせてということらしい。
それが鶴田の最後の願いだった。
「お、おう。……これでいいのか?」
墓石は言われるがまま、鶴田の小さな身体を抱きしめた。
少し遠慮して、弱めの力で抱きしめたが、鶴田の方から力強く両腕で包んできた。
傍から見れば、カップルがいちゃついているように見える光景だ。
1分くらいしてから、鶴田の方から離れた。
「これでおしまい。──墓石の寿命を元に戻したよ」
「えっ?」
「わたしは“寿命使い”触れた相手の寿命の長さを変えることができる。999年延ばす時も身体が触れ合ってたろ?」
「そうだっけか?」
遠い記憶を思い出そうとするが、それよりも、抱きしめあったことによる緊張で、墓石の頭の中はぼんやりとしていた。
「これで、本当に元に戻ったのか?」
「戻ったよ。まあ、確かめようがないけどね」
「────とにかく、今回の勝負はわたしの負けだ。単さんの居場所は墓石から秋山に伝えてくれ」
「い……いいのかよ?」
「それが今回の“秩序”だからな。“秩序”を乱す者は、自分たちで作った“秩序”は必ず守る。要は、◯◯使いは、みんな約束は守るってこと」
「墓石ももう限界なんだろ? もうすぐ完全に心を奪われる。その前に墓石とデートできてよかったよ」
「すまん、秋山……」
「“恋は盲目”ってな。だけどな、墓石。一つだけ言わせてくれ」
そう言いながら、秋山は手提げバッグから、布包みを取り出し、それを墓石に渡した。
「……? これは?」
「開けてみろよ? これは元々お前が持っていた物だ」
包みを開けると、中には可愛らしいお弁当箱が入っていた。
「これは、《《俺が捨てた弁当箱》》……、何で鶴田が持ってるんだ?」
「うちの大澄衛時が拾ってきたんだ」
「大澄先生が?」
「ああ、それでやっと気がついたんだ。秋山円慈がお前に何かを仕掛けてるってね。まあ、わたしから言いたいことは一つだけだ」
そう言うと、鶴田は墓石に詰め寄り、その胸ぐらを掴んだ。
「単達のことはいい────でも、妹の直ちゃんを悲しませるようなことだけはすんなよ?」
「……!」
「わたしが出会った頃の墓石優一は、世間を全員敵に回しても妹だけは守るやつだった! そこにわたしも惚れたんだ! だから、“恋使い”だかに洗脳されて、ダサい生き方だけはすんなよ!」
それだけ言うと、胸元から手を離し、墓石を解放する。
墓石は、呆然とした顔で、弁当に視線を落とした。
中を開けると、当然中身は空っぽであったが、ボロボロの正方形の黄色い小さな付箋が入っていた。そこにはこう書かれていた。
“円慈ちゃんに習って作ってみた。味見第一号よろしく 直”
その瞬間、墓石の脳裏に“記憶に無い映像”が流れる。
それは妹の直との会話だった。
『兄貴、長生きしてよね』
『何歳まで生きりゃいいんだ?』
『とりあえず、わたしが80歳まで生きるから、プラス1の81歳くらいまでかな。先に死なれたら寂しいからさ。兄貴もわたしが居なくなったらきっと寂しいから、誤差はプラス一年くらいがいいんじゃない?』
『なんだそりゃ……でも、確かに直がいなくなったら、一人で生きていける気がしないわ。そのくらいがいいのかも』
『それまで頑張ってね。じゃあ、健康な体を維持するため、夜もランニング行きますか?』
『ええー!? 朝あれだけ頑張ったじゃん!?』
『朝練は朝練、夜練は夜練だよ』
『……へーい』
………………。
何だこれ? いつの記憶だ? それとも存在しない記憶? 俺の妄想か夢か? ……いや、かつてこの会話のやりとりを直としたことがある。
確かあれは、ずっと前──
その瞬間、墓石はハッとした顔をする。
その瞳からは一筋の涙が静かに溢れていた。
「墓石?」
「……いや、何でもない」
墓石は涙を拭うと、鶴田の顔をじっと見て、
「ありがとう、鶴田」
と伝えると、弁当を包み直し、鶴田に背を向ける。
「今日は俺これで帰るよ。明日はえんちんとデートするからさ。…………『弁当は無くした』って嘘をついたけど、直に謝んなきゃな」
「…………そうか」
墓石は、鶴田を残し、先に公園から出て行った。
鶴田は背伸びをしながら、寂しそうに呟いた。
「千尋さん、すみません。“墓石NTR作戦”は失敗です」
鶴田の独り言は、夕日とともに静かに消えていった。
続く




