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第11話 幸運の女神

七月三十日


 最近の墓石優一は絶好調であった。

 今日も、初めてクラスメイトにご飯に誘われた。

 スマホに登録してある友達の人数も徐々に増えだした。


 春野と三十本勝負を始めた頃から、クラス内で影の薄かった墓石は注目され始めた。

 少しずつではあるが、クラスメイトから話しかけられるようになり、友達も増え始めた。

 そう考えると、春野のおかげなのかもしれない。


 四大人災に命を狙われると聞いた時は、絶望していたのが嘘のようだ。


 ──最近、人生が楽しい!


 クラウドファウンディングスのバンド練習にて──


「カイシン、大分上手くなってきたな! まあ、俺ほどではないけど」


「うるせぇ!」


 いつものやりとりだが、墓石に実力が伴ってきたため、『俺ほどではないかも』が冗談のようになってきている。

 今ではドラムに関しては、晋ちゃんと同じくらいの腕前になっていた。

 この時にはクラウドファウンディングスとして、練習を始め、一ヶ月以上経過していた。


 気がつけば、ワールドライブまで、残り一ヶ月程である。


 ここで、神ちゃんが他のメンバー三人にとある提案をしてきた。


「ここらで一回、人前で演奏してみない?」


 ついにきたか!

 さすがに、いきなりワールドライブは、緊張して上手く演奏できないと思ってたんだよな。

 これが、俺のライブデビューになるのか!


 神ちゃん、晋ちゃん、石川氏は別のバンドで活動していた時に、人前ライブの経験はあるらしい。

 墓石だけがライブ童貞であった。


「よし! いっちょライブ前ライブやってみようぜ!」


 墓石は、“今の自分は失敗しない”。

 “何をやっても成功する”と思い込んでいた。それほどまでに、今の墓石の人生は絶好調であった。


「なあ、神ちゃん」


「何だよ、カイシン? 真剣な顔してさ」


「いや……なんつうかさ……あの……」


 いざ、言葉にしようとすると照れくさくなる。


「俺をクラウドファウンディングスに誘ってくれてありがとな」


「────ん? そんなこと言うなよ。それはこちらこそだよ」


「こちらこそ?」


「カイシンが入ってくれたから、クラファウはワールドライブという大舞台に出られるんだからさ。感謝を言うのは、こっち側もだよ──って話」


 少し頬を赤らめながら、目を反らし気味に言う神ちゃん。

 いつも自由奔放に発言する神ちゃんであったが、さすがに改めて、こういうことを伝えるのは、むこうも照れがあるらしい。


「あー、この空気、調子狂うからやめろ! ──────じゃあ、気を取り直して──成功させようぜ! このライブ!」


「おう! 《《最後の》》ライブだからな。成功させようよ!」


 ん?────


 ここで墓石は《《最後の》》という言葉に引っかかる。


「神ちゃん、《《最後の》》ってのは何だ?」


「ああー、ごめんごめん! 《《最後の》》ってのは、《《この夏最後の》》ってことね! 深い意味は無いよ!」


 パタパタと手を振り、否定するように言う神ちゃん。

 墓石にはこの時、《《この夏最後の》》ではなく、《《クラウドファウンディングスで演奏する最後の》》という意味が含まれているように聞こえた。


「さあ、今日も練習しよう!」


「……そうだな」


 カレンダーは七月も終わり、八月に入っていく。

ここで、絶好調の墓石にさらなる幸運が訪れる。八月中も受験勉強のため、学校に通っていた墓石であるが、違うクラスの女子に、体育館裏に呼び出されていた。

 これは、いわゆる“告白”のシチュエーションではないかと、墓石の心はひどく舞い上がった。


 ──この俺が女子に呼び出される!?

 入学してから、一度も女っ気が無かった俺の人生に、春が到来するか!? ──今は夏だけど!

 って、そんなツッコミを入れてる場合じゃねえ!

 本当に告白されるのか? この俺が!?

 何か騙されてるんじゃないか!?

 期待するのは止めよう。このパターンで、違う話だったら、めちゃくちゃ落ち込む。

 いいか、落ち着け──墓石優一。

 これは告白じゃない。

 そもそも話したことがない女の子だし。

 もしかすると、最近仲良くなった男友達について、彼女がいるのか聞きたいのかも!? それか、  そいつにラブレターを渡してくれとか!?

 その可能性の方が高いよな!?

 まあ、それなら協力してやるぜ! まだ顔も知らぬ女子よ。俺が協力してやるからには、必ず成功させてやるからな。

 今宵の墓石は恋のキューピットよ!



「────あの……墓石優一くん。一目見た時からタイプでした。……全然喋ったことないけど、彼女いなければ、あの……つ、付き合ってくれませんか!?」


 ド直球の告白だった。

 体育館裏には、可愛らしい女の子が一人いるだけだった。

 まわりに、友達が隠れていて、告白OKしたら、ニヤニヤしながら出て来て、『実は罰ゲームでした〜! この娘があんたなんか好きになるわけ無いじゃん!?』という罰ゲーム展開も無さそうだ。

 純粋に俺のことが好きで、告白してくれた……女の子が目の前にいる。


 未だ信じられらず、自分の頬をバシバシ叩く。


 ───夢なら覚めてくれ! 覚めてほしくないけど!


「……あの大丈夫ですか?」


 告白してくれた女の子が、心配そうな顔で、墓石に声をかける。


「ん? ああ……! 告白してくれてありがとな! ……ちなみに、本当に俺でいいの?」


 墓石は、まだこの現実を受け入れられない。


「はい! 墓石くんがいいんです!」


「ちなみに、こんなこと聞かれたくないかもだけど、何かきっかけってあるの?」


 現実を受け入れられなさすぎで、グダグダと聞いてしまう。

 きっかけとは、墓石を好きになったきっかけである。


「きっかけ……ですか? うーん、そうですね……やっぱり、二カ月前の春野さんとの卓球勝負を見て、感動したからですね! それまで、他の勝負では春野さんに全然勝てなかったのに、卓球で勝てた姿がカッコよかったからです! 春野さんって、勉強もスポーツも完璧で、何をやらせても失敗や負けることはないのに、その春野さんに勝った墓石くんが……あの……本当にかっこよかったんです!」


 一生懸命に説明してくれた。


 その一生懸命に説明する表情が可愛い過ぎて、墓石の心は射抜かれてしまう。

 まだ出会って数分であるが、かなり好きになってしまった。


 もう後は墓石の返事待ちである。

 墓石の心は、ほとんど“OK”に傾いていた。

 しかし──


「……そうか、素直に話してくれてありがとな。でも……ごめんなさい!」


 ん? あれ? 何で断ってるんだ俺?


「……やっぱり、付き合うのは駄目でしょうか?」


女子の顔が段々と暗くなり、少しだけ涙目になる。


 墓石は、女子のことをすごく気に入った。

 顔は可愛いし、大人しそうだけど、素直に気持ちを話してくれる姿勢がすごく愛おしかった。

 ──しかし、告白を断った。


 それはなぜか──?


 答えは、墓石優一は“ヘタレ”だったからである。


 付き合うってどうやればいいんだろう!?

 上手く付き合えるか!?

 別れたらどうしよう!?

 付き合ってから嫌われたら、立ち直れない。

 お互いよく知らないなら、これから知っていけばいいじゃないか──でも、知ってもらった上で、『こいつ、やっぱ違うかも』って思われたらどうしよう!?

 そもそも女の子と、何の話題をどうやって話せばいいんだ。


 そんな“ヘタレ”思考が頭の中をぐるぐる回った結果、“傷つきたくないから告白を断ろう”という結論に至った。


「ご……ごめんな。俺、今バンド活動にハマっててさ。今はそれの練習に集中したいんだよね。だから、付き合っても君のために時間を使えないかもしれない」


 嘘ではないが、それっぽい理由を並べて断ろうとする。


「…………」


 女の子の目には涙がいっぱいに溜まっている。

心が痛い。


「本当ごめん」


 頭を下げて、最終回答を突きつけた。

 本心では彼女が欲しくてたまらなかったのに……嘘をついた。


「分かりました……でもこれだけは言わせて下さい」


「……?」


「わたし、この春この学校に転校してきて、友達もできず、熱中できることもなくて、寂しい学生生活を送ってたんです。でも……」


 女の子の目には、涙は無く、墓石の気持ちを受け入れ、覚悟を決められたような目をしていた。


「墓石くんと春野さんの勝負を見ていたら、心が熱くなったの。頑張ってる墓石くんを見て、学生生活頑張ろうって思えたの! それからは友達もできて、楽しい学生生活を送れています。それも……墓石くんのおかげだから……!────ありがとうございます! って言いたくて」


 墓石は一言も発せられないでいた。

 女の子の言葉に胸を打たれる。


「墓石くんも、本当の気持ち聞かせてくれてありがとね! ────バンド活動応援してるから!」


 そう言うと、振り返らず走り出した。


 墓石は走る少女の背中を見つめながら、心の中ではずっと後悔していた。


 何で断っちゃったんだろう!? 俺の馬鹿! ヘタレ! こんなこと二度とねーぞ!

 名前さえ聞けなかった……


「何やってんだ俺……」


「──勿体ないことしたね」


 急に後ろから声をかけられて飛び退く。


 墓石のすぐ後ろに、オシャレ癖毛の“教師 兼 密国庁所属”の大澄衛時が立っていた。


 墓石の告白されシーンを“観測”していたらしい。


「……み、見てたのかよ」


「たまたまね。女の子が誰なのかまでは見えなかったけど」


 大澄の表情はあまり動かない。

 そのため、表情からは何も感情が読み取れないのは、いつものことである。

 “他人の告白”という誰しもがテンションを上げるイベントを目の当たりにしても、真顔のままであった。


「単さんが、君を呼んでるよ」


「単さん」


 クラウドファウンディングスの活動が始まってから、墓石はなかなか単のもとに通えてなかった。


「ということは、四大人災が現れたのか?」


「どうだろうね。──でも、それは君自身が分かってるんじゃない?」


 墓石には心当たりがある。

 最近、墓石と知り合い、近づいてきた人物がいる。


「いつもの時間に、図書館集合か?」


「そうだね。あと一つやって欲しいことがあるんだ。《《あるモノ》》を買ってきて欲しい」


「《《あるモノ》》?」


「単さんからの指示だよ。その買ってきて欲しいものっていうのは─────────



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

八月三日 午後八時 渋津野(しぶつの)図書館


 墓石は、図書館に入るなり、図書館の内装が様変わりしていたことに驚いた。

 有名な彫刻家が作ったのであろうかと言わんばかりの、2メートルくらいのサイズの彫刻が数体設置されていた。

 墓石が最後にこの図書館に訪れた二カ月程前には無かったはずだ。

 オーナーの(おやじ)氏の趣向だろうか。

 芸術の価値が分からない墓石の目から見ても、高価そうな彫刻が並んでいる。

 単千尋から受けている莫大な寄付───それによって、内装を変える余裕が出てきたのだろうか。


 墓石はマジマジと像を見る。筋骨隆々の男の像だ。


 俺もこれくらいムキムキだったらな───

 なんて、心の片隅で考えていると、単と海川が姿を現した。


「よー、久しぶりだな、墓石くん。どうだい? わたしが購入した彫刻達はお気に召したかな?」


 あんたが買ったんかい!?

 卓球台を持ち込んだ時から思っていたことだけど、自由に使い過ぎだろ!?


「わたしの兄が“彫刻マニア”でね。それの影響で、わたしもコレクターになってしまったんだよ」


「初耳です。お兄さんいたんすね」


 色々と謎に包まれている単千尋であるが、今日少しだけ単のことをしれた気がする。

 そして、改めて高価そうな彫刻達を眺める。


「国家公務員ってのは、相当儲かるんですね。これ一体いくらぐらいです?」


「ざっと数百万円くらいだよ」


 卒業したら、単さんの下で雇ってもらおう。

 そんなことを考えていると、単千尋は驚くべきことことを口にする。


「最近買った宝くじが当たったんだ。今までのキャリーオーバーを含めてざっと十二億くらいかな」


「すごいじゃないですか!?億万長者ですね!」


 “(さが)し使い”は、高額配当の宝くじさえ探し出してしまうのだろうか。そしたら、もう働く必要ないな、この人。


 そんな考えを見透かしたように単は続ける。


「この当選───もしかすると君は“探し使い”の能力(ちから)を疑っているかもしれないが、これはわたしの能力(ちから)ではない。」


「えっ……、じゃあ単さんの実力じゃないですか!? 実力というか、運!? まあ、運も実力のうちか」


「“運”と言えば“運”だが、わたしの“運”ではないよ」


 単が何を言おうとしているのか、イマイチ察することができない。

 《《わたしの運ではない》》──なら誰の運だ!?


「君も宝くじを買ってきてくれたんだろ? ──それで証明した方が早いかなと思ってさ」


 証明? 何を証明するんだ?


 墓石は大澄に言われたとおり、宝くじ売り場で、宝くじを購入してから、図書館を訪れたのである。


「まだ、結果は見てませんが、これが何かの役立つって言うんですか?」


「おおっ! 墓石くんが勝ったのはスクラッチタイプか! それなら話は早い。早速結果を教えてくれ!」


「はあ……」


 言われたとおり、墓石はポケットから十円玉を取り出し、銀色のシールの部分を削り出す。

 墓石が買ったくじは、削ったところに当選額が記載されているタイプのシンプルなものだった。

 かつて、墓石はこのくじを何度か購入したが、「ハズレ 0円」の文字しか見たことが無かった。


 しかし、最近の墓石はとても運がいい。毎日幸運に恵まれている。

 そのため、墓石はこのくじも当たるのでは!?と……少し自信があった。


 そして、削った結果は────


「───当たりました!300万円です!」


 やっぱり、最近の俺は運が良い! 何となく当たる気がしていたんだよな!


「そうか! じゃあ他のも結果を見てみてくれ」


 墓石は今削ったものの他に九個ほど購入していた。


「分かりました」


 同じように削っていく────すると──


「これは……!?」


 結果、残り九個も当たり、当選額の合計は1500万円ほどになった。


「こんな偶然があるのか!?」


 墓石は当たった当選額を見てもまだ今一つ信じられないでいた。

 しかし、当たりは当たりだ。

 今の俺には幸運の女神が────


「これでよく分かった。墓石くん、事態は思ったより深刻だよ」


「えっ?」


「おかしいだろ? わたしと君に高額当選がポンポン出るこの状況。ちなみに、海川くんと大澄くんにも同じように宝くじを買ってもらったが、二人とも1円たりとも当たらなかったよ」


 単の後ろで海川が、ビニール袋を片手で持ち上げた。その袋の中には、おびただしい量の宝くじ(ハズレ)が入っていた。


「宝くじだけではない。ここ数ヶ月、わたしにも幸運な出来事が続いている。────そう、それが始まったのは丁度──」


「────春野に三十本勝負の卓球に勝ってから」


 しかし、それが何だって言うんだ!?

 春野に勝ったら、運が良くなったというのは、何か関連性があるのか!?

 あっ──


「次の戦いがもう始まっているんだよ、墓石くん。我々はもう攻撃されているんだ」


 次の四大人災がこの町に来たのか……!?


「わたしの方で《《探し出した》》情報を君に共有しよう。敵の情報────わたしの憶測も含めてな」


 これから一体何が起こるのだろうか?


 墓石は、今回の事態の全容を聞かされる。

 墓石に微笑んでいたのは、幸運の女神などではない。微笑んでいたのは、墓石の命を狙う────死神の方だった。


続く

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