第10話 落雷
六月九日
クラウドファウンディングスでの練習に参加させてもらった次の日────
墓石優一は二日ぶりに登校した。
春野由良と勝負して三日経ったこの日───
久しぶりに登校すると、教室に春野の姿はなかった。
春野の両親の都合で急遽転校することとなり、クラスのみんなに別れの挨拶をすることなく、この学校を去ることになったらしい。
墓石が登校できなかった六月七日にこの話がされ、その日はクラス中が悲しんだそうだ。
その春野ロスが原因ということもあり、休みになった生徒が数名いたことや、たまたまこの日風邪をひいたことで欠席となる生徒が複数名いたことから、クラスの半数以上が休みとなり、結果、六月八日は異例の学級閉鎖となった。
昨日の余韻で、まだ休みの生徒が数名いるものの、大澄が教壇に立ち、ホームルームを始める。いつもの日常が始まった。
しかし、墓石の日常は、いつもと違うところがあった。
学校の授業が終わり、終業のベルが鳴るとともに、昨日クラウドファウンディングスが練習をした音楽スタジオに向かった。
スタジオに入ると、石川氏だけが先に来ていて、ベース演奏の準備をしていた。
「おっす、今日はまだ一人か?」
「おっすー、カイシン早いね。まだわたしだけだよ」
続けて、石川氏は驚いたような顔で聞いてくる。
「────また来てくれるとは思わなかったよ。半ば強引に神ちゃんが連れてきた感じだったからさ」
「まあ、最初はな」
「いやでも来てくれて嬉しいよ。なっちゃんが来なくなった時は、またメンバー募集しなきゃと思ったからさ。カイシン、初心者にしてはセンスあるから、すぐ上手くなるよ」
石川氏──なんていい娘なんだ。なんか……久しぶりに友達ができたみたいで、ちょっと楽しいかも。
「俺なんてまだまだだ。昨日、晋ちゃんにも結構注意されちまったからな」
昨日の練習で、晋ちゃんからスパルタに近い指導を受けて、己の実力の無さを思い知った。(ドラムを初めて触った日なのだから当然のことではあるが)
「────俺が何だって? カイシン」
「ゲッ! もう来たのか!」
いつの間にか、入口から晋ちゃんが入ってきて、ギターケースを下ろしている。
「『ゲッ』……て何だよ!? いいじゃん、早く来ても」
「噂してる時に来たから、びっくりして変な声出ちまったよ」
「なんの噂だ? “イケメン過ぎて困る”って噂か?」
実際、晋ちゃんはイケメンで背が高く、女からモテそうな風貌をしている。
墓石も背が高い方の部類に入るが、単千尋や平井晋佑など、自分より背の高い人物を目の当たりにする機会が増えた気がする。
晋ちゃんの冗談をスルーした二人は、神ちゃんについての話題になる。
「神ちゃんって、何の仕事してるんだ?」
「わたしもよく知らないんだよね。神ちゃんその話になると、露骨に話を逸らすからさ。『わたしの職業は国家の重要機密だ! 教えん!』とか言って」
「国家ね……」
「ヤバい仕事かもしれねーよな? だって神ちゃんエグいくらい金持ちだし。このスタジオも神ちゃんのポケットマネーで三ヶ月近く貸し切ってるからな」
準備を終えた晋ちゃんも会話に混ざってくる。
「へぇ……バンド活動で稼いてるって雰囲気でもないよな」
「もしかしたら、宝くじでも当たったのかも。神ちゃん運いいから」
実際、ワールドライブの運営者が知り合いにいたり、墓石を誘った日に丁度学級閉鎖が起きたり、神ちゃんの都合の良いように、物事が進んでいるフシはあった。
「神ちゃんとは、まだ三ヶ月くらいしか付き合いがないけど謎が多いよな────まさか本当に神様なのかも!?」
「そりゃねーだろ」
昨日、帰りにウンコ踏んでたし。
「────よし、カイシン、今日の練習始めんべ。まずは基礎練習からな」
そう言うと、晋ちゃんは持ってきたメトロノームを動かし始めた。
基礎練習はこのリズムに合わせて、ドラムを叩く練習らしい。
墓石は無心で練習に取り組んだ。
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六月九日 渋津野図書館
単千尋は卓球台に寝そべりながら、片手にアイスを持ち、過去の新聞記事を眺めていた。
現在の“卓球場 兼 単の寝室”は、新聞記事が山積みにされており、単が起床しているうちは、ずっと新聞記事を読み漁っていた。
「ボス、目的の記事は見つかりました?」
“記憶使い”海川農里が新しい新聞記事を持ってきた。
「いんや、まだ全然見つからない」
「そうですか」
アイスを咥えたまま話す単の傍らに、持ってきた新聞記事をドサッと降ろす。
「墓くんも最近来てくれないですし、暇ですね」
「まあ、墓石くんが来ないということは、学生の本分である勉強で忙しいということなのだろう。大澄くんからも特に報告ないし、平和でいいじゃない」
「そうですかね。春野由良以降、四大人災の動きが無いのが、ちょっと不気味じゃないですか?」
カタン──と、卓球台の上に、単のために淹れたお茶を置く。卓球台は、卓球練習が無くなってからというもの、ベッドとテーブルの役目しかもらえていない。
「おっ、悪いね」
ズズズとお茶を飲見ながら、海川に一つの記事を渡す。
「これは?」
「ここ読んでみて」
海川が単に指を指されたところを読むと、一年前に起きた自然災害の事故についての記事だった。
一年前の六月頃────
三島 明久という男が、落雷に当たり亡くなったという記事だった。
「この人は?」
「彼はね、警察の人間なんだけどね。密国庁の内部調査を行ってた人なんだ」
「そんなんですね。雷に当たるなんて不運ですね」
「ああ、次にこれを見てほしい」
単は別の記事を海川に見せる。
「これは──!?」
その記事の内容に絶句する。
今度の記事の内容も同じく落雷による死亡事故だった。
そして、共通点はそれだけではなかった。
「彼も三島と同じく、野木という名の警察官だ。三島の後任で、密国庁の調査……というより、密国庁の《《村雨》》さんを調査していたんだ」
「村雨課長ですか!?」
「あの村雨 優貴だ。この数年前の記事の頃は、課長ではなくまだ係長だったかな。当時村雨の周りは不審な死が多かったからな。それでマークされていたんだろう」
「やはり、今回の四大人災を仕向けたのも村雨課長なのでしょうか?」
「可能性は高いな。相手が村雨であれば、海川くんの“記憶消し”も使えないな」
「はい、俺を“記憶使い”と認識している相手の記憶を消す場合は、“相手の承諾を得なければいけない”ので」
「この前の春野由良の時の墓石くんのように《《承諾》》はしてもらえないだろうね。────村雨がこの落雷と関係しているのかどうか、もう少し調べてみるよ」
「──────あっ!」
何かに気が付いたように、単は不意に大声をあげる。
「ボス、何か見つかりましたか?」
「海川くん……“当たり”だよ」
そう言いながら、さっきまで食べていたアイスの棒を見せる。その表面には“大当たり もう一本”の文字が刻まれていた。
「このアイス当たりがあるんだね。初めて当てたかも──────ん?」
単はまた何かに気が付いたように、海川に出されたお茶を覗き込む。そこには、茶柱が立っていた。しかも二本も。
「すごいじゃないですか!? ラッキーなことが立て続けにくるなんて、この後もっと何かいいことがあるんじゃないですか?」
茶柱を見つけた単はじっと、お茶の中を覗き込んで、何かを考えているようだった。
その後、顔をあげ、
「海川くん、こうしちゃいられないな……」
単は財布から一万円札を取り出し、海川に渡した。
「海川くん、この金で宝くじを買ってきてくれないか? できれば、結果発表の日が近いやつがいいかな」
海川の言葉で、運の波が来ていると捉えたのだろうか。海川は受け取った金を持って、宝くじ売り場に出かけた。
単は腕組みをしながら卓球台の上に座り込む。
「──この宝くじが当たってしまったら、ヤバいな」
そう呟いた後、手元にあるお茶をすすりだした。
続く




