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燈守ノ書 〜 大正怪異譚【改稿版】  作者: NOA
第2話 白の陰陽師
9/26

2-1

 石段の下、異様な気配に灯神玲(とうがみ れい)は足を止めた。

 ぞわり、と空気が揺れている。

 見れば、白い大きな犬が、一人の男と睨み合っていた。

「ワンッ! ワワワァン!」

 犬の吠える声が、神在坂(かみありざか)の町に響く。


 だが玲の視線は、犬ではなく男に釘付けになった。

 男の全身から立ち上る、清冽で強い「気配」。

(……ただ者じゃないな。あの人)


 黒い帽子を目深にかぶり、濃紺の着物に鉄色の羽織。襟巻きで口元を覆い、顔を隠している。

 だが、隠しきれない異様な存在感が、逆に視線を引きつけた。

 覗くのは、銀白の髪。白い肌。そして、わずかに紅を帯びた瞳──。

 男の周囲だけ、空気が張り詰めている。


 犬が唸り、男が一歩退いた。

「あの……大丈夫ですか?」

 玲が声をかけると、男はわずかに顔を上げた。

「もしや、食べ物を持ってるの?」

 男は黙って懐から包みを取り出す。犬は匂いに鼻を鳴らし、前足で地を打った。


「たぶん、腹が減ってるだけだよ。やってみて」

 玲の言葉に、男はため息をつき、握り飯を差し出した。

 犬は飛びつくように平らげ、すぐに尻尾を振って男のそばに座り込む。

「……こ、こら、やめろ」

「おや、懐かれましたね」


 玲が笑うと、男はぷいと背を向けた。

 歩き出す男のあとを、犬は当然のように追う。男が振り返り、その紅い瞳で鋭く睨んでも、犬はついてくる。

「……厄介なやつだ」

 しばし睨み合い、ふと呟いた。

「ハク、とでも呼ぶか」

 その瞬間、犬の耳がぴくりと動いた。


 玲は、その背を見送った。

(……変な人。だけど)

 あの紅い瞳の奥の鋭い光。

 人ならざるものに近い、異様な気配。

 玲は、胸の微かな違和感を拭えなかった。


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