表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
燈守ノ書 〜 大正怪異譚【改稿版】  作者: NOA
第1話 銀鼠の記憶
7/25

1-7

 大三郎の話によれば、銀の鼠は、山形堂が借金をした折に嘉兵衛へ贈ったものだったという。

 嘉兵衛はその精緻な細工を気に入り、生涯、懐に忍ばせていたのだ。

 父は、近ごろの山形堂のやり方をよしとはしていなかった。それでも「良いものは良い」と口にしていた。

 今、啓太郎の腰に揺れる銀鼠の根付は、その父の形見である。


 その晩、啓太郎は夢を見た。

 白い霧の中に、見慣れた父の姿が立っている。


「お、おやじ……!」


「おお、啓太郎。相変わらず情けない顔しとるのう。もっと胸張れ、商いは顔だぞ、顔!」


「ええ……いきなり説教ですか……」


 嘉兵衛は、いつもの調子で言った。

「おまえとは、よう喧嘩もしたな。……だが、もうわしの時代ではない。好きにやれ。堂々と歩け」


「おやじ……」


「ただし! 変な洋傘ばっか売るなよ! 雨漏りしたらうちの名折れだぞ!」


「そこは任せてよ……」


「それから、女中のシズには休みをやれ。腰が限界だ」


「うん……わかってるよ」

 啓太郎は涙ぐみながら笑った。


 嘉兵衛はふっと目を細め、柔らかく言う。

「ま、何だ。お前の思うようにやれ。けど、嶋屋はお前の背中に乗っとる。忘れるな」


 啓太郎が何か言いかけたとき、嘉兵衛の姿が風と共に薄れていく。


「おやじっ──!」


「……啓太郎、嶋屋を頼んだぞ。あと、番頭には給金上げとけ」


「はい……」


「……嶋屋を頼んだぞ」


 目を覚ましたとき、その言葉だけが啓太郎の胸に残っていた。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ