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怪異が出るのは夜だという。
だから二人は今夜、離れに泊まることになった。
ふたりきりになると、玲はずっと気になっていたことを口にした。
「晴兄。外で、呼んでる。さっきからずっと」
晴臣は提灯を手に取る。
「行ってみよう」
裏庭へ出ると、月もない闇があたりを包んでいた。
虫の声ひとつなく、湿った空気が肌にまとわりつく。
草を踏む音だけが、やけに耳に残った。
玲は一歩、二歩と蔵の方へ進む。
「あそこ……」
指さした先で、何かが提灯の光を弾いた。
晴臣がしゃがみ込み、手を伸ばす。
銀細工の鼠の根付だった。小さく「ちゅぅ」と鳴くような音を立てた。
指先が触れた瞬間、二人の頭に声が流れ込む。
『聞こえておるなら、さっさと来んかぁ──!』
晴臣と玲は顔を見合わせる。
『この家の者は鈍すぎて、わしに気づかん。啓太郎に伝えねばならぬことがある。早う、連れて来い!』
玲がふうっと息を吐く。
「なんで怒られてんだろうね、晴兄」
「まったくだ……よく喋る鼠だな」
『何を申すか! この姿ではどうにもならんのだ、仕方あるまい!』
「はいはい……」
晴臣は銀鼠をそっと布に包み、懐に入れた。
(根付に念が宿ったか……。よほど強い思いが残っているらしいな)
玲はこっそり心の中で笑った。
(頑固鼠……ぷっ)




