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燈守ノ書 〜 大正怪異譚【改稿版】  作者: NOA
第1話 銀鼠の記憶
3/14

1-3

 番頭の案内で、晴臣と玲が嶋屋へ向かったのは昼近く。陽は高く、すでに汗ばむほどだった。

 暖簾をくぐった瞬間、空気がざわつくのを感じた。

 店の奥は薄暗く、畳の匂いに線香の香が混じっている。


 番頭は足を止め、振り返る。

「……どうか、若旦那をお助けください」

 晴臣は帳場の方にわずかな気配を覚えたが、口には出さず頷いて後に従った。


 廊下の奥を、生ぬるい風が抜けていった。天井がきい、と軋む。

 玲は思わず足を止めた。

(……見てる)

 小柄であどけない顔立ちだが、玲は霊感が強く、町では「燈守神社の狐っ子」と噂されていた。


 若旦那・啓太郎は布団にくるまって、がたがた震えていた。

「……親父が……怒っている。枕元に立って、睨んでる……」

 怯えきった声が、途切れ途切れに漏れた。


 啓太郎は、父の死の前日に言い争った言葉を思い出していた。


『父さん、もう和傘は古いんだよ。これからは洋傘や合羽も扱うべきだ! 時代は変わっていくんだ』

『和傘は嶋屋の誇りだ。これまで世話になった職人たちの仕事を捨てる気か!』


 ごそごそと布団から顔を出す啓太郎に、晴臣が声をかける。

「大丈夫です。気を強く持ってください」


 啓太郎はしばらく黙っていたが、やがてぺこりと頭を下げ、小さな声で言った。

「……お願いいたします」


 晴臣は立ち上がり、番頭に向き直る。

「大旦那様の部屋を見せてください」


 番頭は二人を離れの部屋へ案内した。

 障子を開けると、湿った風が土と草の匂いを運び込む。昼の気配が差し込んだ。

「……こちらです」

 番頭の声が微かに震えていた。


 庭の向こうに蔵があり、陽を受けた白壁がまぶしく光っている。


 晴臣はしばらく蔵を見つめた。

「……亡くなられたのは、蔵の横ですね」


「な、なぜおわかりに……」

 番頭は目を丸くした。


 玲は言葉を飲み込み、ただ頷いた。

(……変な気配)


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