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夜はさらに更け、やがて丑三つ時を迎えた。
燈守神社・本殿の奥、灯明の火がゆらりと揺れ、空気がぴんと張りつめる。
「……来るぞ!」
敬道の鋭い声に、晴臣と玲が息を呑む。
三人は、燈守神社に伝わる「呪詛返しの印」を結び、言の葉を重ねる。
──火水風土、天地の理にて、
清き光を結び、魔を討つ。
穢れしものよ、己が業と共に還れ。
ここに誓い、この地を護る。
隠滅、呪返──!
そして森の中、綺良は数珠を握りしめ、空を見上げる。
迷いはなく、ただ祈りと、すべてを賭した覚悟だけが宿っていた。
「伐折羅焔吒──破邪顕正……」
呪を唱え、指が空を裂くように印を結び、組み替える。
やがて最後の印を結ぶと、両腕を天へと高く掲げた。
「──反帰於原界──!」
その瞬間だった。
ひと筋の閃光が天を裂いた。
途中で二つに分かれ──
一方の細い筋は燈守神社へ、残る大きな奔流は綺良の頭上へと走った。
轟音とともに大地が震える。
一瞬で、結界は白々とした光に呑み込まれた。




