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燈守ノ書 〜 大正怪異譚【改稿版】  作者: NOA
第2話 白の陰陽師
13/28

2-5

 その夜、燈守神社の境内は、虫の声も風の音も、何もかもが消え去っていた。

 玲は境内に立ち、空を見上げ、息苦しさにかがみ込む。

(何かとてつもないのが来る。勝てない──)


 震える肩に、背後から晴臣の声が届いた。

「大丈夫か、玲」

「晴兄……怖い」


 そこへ敬道が現れた。

「二人とも、すぐに本殿へ来い。結界を張り直す」

 険しい表情で命じた。

「晴臣は火を、玲は香を焚け。ただの妖や霊ではない。これは……呪詛だ」


 時を同じくして、燈守神社に続く森の奥。

 綺良は五芒星(ごぼうせい)を描き、結界を二重に組み上げていた。自らを囮として受け皿に据える。神社へ向かう呪の矢を細らせ、残りはすべてこの身で受け止めるつもりだった。


「──破邪、封結……」

 これは、贖罪だ──。


 綺良は思い出す。幼い頃、親に捨てられ、陰陽師の屋敷で過ごした地獄の日々を。

 梶原道順(かじわら どうじゅん)は、禁忌の呪殺を高額で請け負う強欲な術師だった。


 名を呼ばれぬまま、食事は冷めた粥一杯だけ。

 命じられるまま、幾人も呪い殺した。失敗すれば殴られ、蹴られた。


 ──あの雪の日。

 棒の一撃が頬を裂いた時、怒声が響いた。

「誰のおかげで生きてこられたと思っている、この恩知らずが!」


 血を吐きながら、胸の奥に声を聞いた気がした。

『──お前はどうしたい?』

 顔を上げると、部屋の隅に黒い影が掠めて消えた。


 その夜更け、自ら道順を呪殺した。

 そして呪符に火を点けると、炎は瞬く間に屋敷を呑み込んだ。


(俺の犯した罪──それを贖うには)

 綺良は印を結んだ。

 自らを囮として、この命を、捧げるしかない。


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