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今の綺良は、武蔵の外れにある粗末な小屋に暮らしていた。
祓いや占いで、その日を凌ぐ。孤独には慣れきっている。
それでも時折、あのぬくもりを思い出す。
──灯神家で過ごした日々。
敬道の厳しくも優しい笑み。
「僕たち、兄弟みたいだね」と笑った晴臣。
初めて食べた栗飯の味──栗の甘さが、なぜか胸に痛かった。
八年も前のことだ。
温かさに触れるほど、己の内に燻るものが許容できず、黙って立ち去った。
(……もう、戻れぬ)
外から足音。
戸を開けると、顔なじみの流れの陰陽師がにやりと笑う。
「よお、久しぶりだな。お前、まだ生きてたか」
気のいい男で、土産の酒をぶら下げている。勝手知ったる様子で腰を下ろした。
「面白い話があるんだよ──最近すげぇ依頼が来てさ。神主を呪い殺してくれってんだ」
「……神主?」
綺良の手が止まる。
「ああ。娘を殺されたとか。まあ、完全に逆恨みだな。しかも、自分の命を差し出すってんだから……あれはやべぇ奴だったな」
男は笑いながら酒をひと口飲む。
「まあ、こっちは似非陰陽師だから何もできんけどな」
綺良は震える膝を押さえた。
「どこの誰だ……そいつは」
「確か……神在坂ってとこから来たって言ってたな」
その地名を聞いた瞬間、綺良の胸が大きくざわめいた。言いようのない焦りがこみ上げる。
(……敬道さん、晴──)




