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燈守ノ書 〜 大正怪異譚【改稿版】  作者: NOA
第1話 銀鼠の記憶
1/23

1-1

 晴れ渡る夏の朝、空気を震わせるように蝉の声が響いた。

 東京郊外の町、神在坂(かみありざか)。坂と木々に囲まれたこの町に、近代の灯はまだ少ない。夜を照らすのは行灯(あんどん)と人の声ばかり──大正のはじめのことである。


 高台に建つ燈守(とうもり)神社は、古くから祓いの社として人々に信を置かれていた。

 代々、神職の家系として続く灯神家の朝は早い──はずなのだが。


 襖を開け、玲が顔をのぞかせた。

「晴兄、まだ寝てるの」

「……起きてる。寝てるように見えるだけだ」

「いや、布団から出なよ……朝のお祈り、もう終わったよ」

「えっ、もうそんな時間か」

「おじさん、怒ってたよ」


 この家の跡取り、十九歳の灯神晴臣。神社の隣にある灯神家で、従兄弟の玲と共に暮らしている。


 晴臣は社務所の机に、祓い札とお守りを整然と並べていく。

「掃除はこれ終わったらな」

「晴兄。顔、疲れてるよ」

「玲は朝から小言が多いな。……まあ、三つも下なんだから元気で当然か」


 外から鳥の囀りが聞こえ、風が抜けていった。

 穏やかな朝──そう思った矢先、戸をどん、と叩く音が響いた。


 最初は控えめに、次の瞬間には戸が割れんばかりに荒々しく打ちつけられる。


「晴兄」

「……嫌な叩き方だな」

「うん、よくない音」

「ほっとくか」

「それは……だめでしょ」


 晴臣が戸を開いた。

 転がり込むように、ひとりの男が膝をついた。

 息を荒げ、両手を地につき、肩を震わせている。


「た、助けてください……旦那さまが──!」


 襖がすっと開き、宮司の灯神敬道(とうがみ けいどう)が姿を見せた。

 白衣に紫の袴をまとい、袂を正しながら、穏やかに言葉をかける。


「どうぞ。落ち着いて、ゆっくり話してください」


 敬道は男を奥の座敷へと招き入れた。

 その男は震える唇を開き、ようやく絞り出すように言った。


「で、出るんです……!」


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