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つめ、怒る。

「たのもーぉ!!」


 旦那が夜食と称してスナック菓子&ミニドーナツを食い散らかしたままにしたテーブルの上を片付け終わり、ささくれ立った心を癒そうとカモミールティーを入れてソファに腰を下ろした瞬間…やけにとんがった声が聞こえてきたぞ!!!


「っん、はい…?」


 一口だけカモミールティーを飲んで玄関に向かうと…げえ!!


「あの、僕ぅ、()()なんですけど!!」


 なんか…バカでかい爪が、つやつやしたまんま…立っとるがな!!

 ピンク色で、健康そのものやんけ!

 あまがわの処理、完璧やんけ!!

 くっきり刻まれている指紋は渦巻き型、適度にしっとりとした…何指なのかははっきりしないが、明らかに…爪が生えてる、指先!!!


「よく磨かれた表面がまぶしいですね…ええと、本日はいかなる御用件で…」


 いったい断面はどうなってるんだ…。気にはなるものの、覗き込んだら怒られるかもしれないので、極力視線を上に残したまま恐る恐る訪問理由をうかがう。


「ええとぉー!いいかげん、僕たちを放置するのは…やめてもらいたいんですよぅ!!」


 放置…、確かにネイルケアをしなくなって、ずいぶん経つな。

 娘が生まれたころまではデコネイルとか爪磨きとか張り切ってやってたんだけど、パーツが美味しそうなもんだから飲み込んじゃいそうで危なっかしくて…、ケア用品も小さいサイズのものが多かったし、まるまるしまい込んだんだよね。娘が育って一緒にやり始めたんだけど、弟が生まれたからまたしまい込んでさ。弟が育った頃には老眼が始まっちゃったもんだから、ネイルケアセットごと欲しがってた娘に全部あげて…。


「いや、でもね、もう指先に気を配る年齢でもなくなったっていうか…、老眼でデコる事も難しいし。放置というか、飾ることをやめただけで…最近は噛んだりしてないんだから許してほしいよ…?」


 私は子供のころ、わりかし爪を噛む癖がございましてですね。

 爪を噛むのは宜しくないと自覚して、ネイル系のケアに興味を持ち始めたという歴史がございましてですね。


「違うよ!!今日頼みに来たのは、そっち方面じゃないの。過去の栄光は良い思い出になってるからいいの、今日はね、今の状況がヤダから言いに来たんです!あのねえ、切ったあとはちゃんとゴミ箱に入れて欲しいのよ!!知ってる?今ね、家の中に僕のカケラが102個落っこちてるんだよ?!畳の隙間に入り込んでたり、絨毯にめり込んでたり、ソファのみっちみちの隙間に埋まってたり、ぬいぐるみにつき刺さってるのもいるし、ホント…どうにかしてくんないとぉ!!地味にさあ、ダニにかじられるの、きつくって!!」

「ええ…でも、毎回ちゃんと爪を切ったあとはゴミ箱に入れてるよ?!」


 私は旦那とは違って、ちゃんと自分のしでかしたことの始末はしていてですね。まあ、たまに適当に片しちゃう(掃除する)こともあるけど。


「ごくまれにカット中にどこかに飛んでいった爪、それを()()()()()姿()()がダメなのっ!!『あれ?どっかとんでっちゃった、まあいっか!』…じゃないの!!いい?爪はね、自然消滅しない物質なんだよ、家の中では!!それならいっそ、旦那さんみたいに庭で爪を撒き散らしながら切った方がまだいいよぅ!!微生物の捕食はソフトタッチだからわりかし心地いいんだ!」


 うそ~ん、あのやりっ放し出しっぱなし掃除しない誰か()がやってくれるからダイジョーブ主義の旦那の方が…褒められてる!!

 なんていうか…地味にムカつくな……。


「爪はね、わりと…軽快にふっとんじゃうんだよぅ。ガサツにパチンパチンとやればやるほどにねっ。娘さんみたいにやすりで削るとか、息子さんみたいに几帳面にワンカットずつゴミ箱に投入するとかしていただけたらと思うよぉ。いい大人なんだから、見えなきゃ綺麗って思いこむの、見つからなきゃ大丈夫みたいな考えで自己防衛するのはやめましょ?ねっ!!!」


 うへえ…子どもまで引き合いに出して、ガッツリディスってくるんですけど。

 しちゃったことはもう今さらどうにもなんないんだし、…あれだ、過去のことほじって攻撃するよりもさ、未来を心地よく明るく過ごすために前向きな姿勢で今後の方針を…うん、めんどくせえな、さっさと謝り倒して、つぎいこ、次。


「大変申し訳ございません。今後は大きめのゴミ箱を抱えて、極力爪のひとかけらも飛ばさぬよう心がけます、気が向いたときに場所を選ばず爪を切る事はやめます、飛んだ爪が回収しやすいフローリングの上で爪は切ります、許してください」

「…イイでしょう!!!じゃあね、時間のある時で構わないんで、今一度…強力な掃除機を念入りにかけて、せめて家中に散らばっている爪のカケラを半分に減らしてねっ!!あ、年末にまた見に来るから!!ヨロ!!」


 フレンドリーなんだか馴れ馴れしいんだかしっかりしてるんだかはっきりしない訪問者は、血色のいい指先をブンブン振ってお帰りになった。


 …几帳面なことを言ってるわりには、玄関に散らばってる旦那の靴、ガッツリ踏み荒らしていったな。ああ、乱雑に置きっ放しになってるから、踏んでもいいものだと思ったんだね、たぶん。

 くそう…地味に足の踏み場が…。仕方がない、整頓するか。


 一旦靴をすべて玄関の外に出し、ほうきでたたきを吐き出し…泥にビスに電線に変な金属片、ばねにピーナッツに葉っぱのカケラ…よく見るとバカでかい爪も落ちている。これ、庭で爪を切ったあと玄関に入って、靴とか服についてたやつが落っこちたんじゃないの?!

 てゆっかそもそも、家中に落っこちてる102のカケラ、全部が全部私のやつじゃないんじゃ…。


 クッソ―!!

 なんで私ばっか、こんな目に!!

 自分の中に怒りの感情がぼこぼこと湧き始めた、その時!!


「…ごめん下さいまし」

「こんにちは、奥様」


 連れだって玄関の外からこちらをのぞいていらっしゃるのは、涼しげな和装がお似合いの…やけに上品なご婦人が、お二人。

 …誰、この人々。こんな(みやび)な知り合いはいなかったはずだけど…もしや。


「わたくし、まつげと申します。常日頃より、大変お世話になっております。突然のご訪問、ご容赦ください。実は折り入ってお願いしたいことがございまして…今、お時間よろしいでしょうか?」

「わたしは眉毛と申します、いつもお世話になっております」


 また変な人、キタ――(゜∀゜;)――!!!


「ホント申し訳ないのですが、顔についていたまつげを…そのまま床に落とすのは…淑女としての嗜みに欠けると思いまして…その、お願いに」

「事あるごとに眉毛をつまんでむしる癖は…年を重ねた女性のふるまいとして、些か残念であると思うのです、ですから…少々アドバイスのようなものを」


 人間宅を訪問するにあたり、きちんと人の様相で訪ねてくるあたり…さっきの傍若無人なやつとは違う雰囲気を感じる。よれよれのクツを避けて立つあたり気遣いも感じられるし、言葉選びも大人というか、なんというか。


 だがしかし、おそらくきっと多分確実に…理不尽極まりない一方的な主張を告げられることは…必至!!


 これは先手必勝、有言実行、感謝に陳謝、爽やかな提案でごまかして、早急にお帰りを―――!!!


「はい、全面的に私が悪うございました、つきましてはありがたくご助言を承り、今後のよりよい生活の糧として…」


「…いけませんねえ、そのような頑なな対応は」

「なぜお話を聞かずに、いきなり謝罪を…?そういった聞く耳を持とうとしない態度が…悪評につながって、指導に向かいたくなる方が増加するという事、お分かりになっていらっしゃいますか?」


 ……しまった。

 完全に…読み間違えた、やらかした。


 これは…長くなりそうな、予感!!!


「よろしいですか、そもそも…」

「こんなことを言うつもりはございませんでした、しかしながら…」


 ……いい年をして、ガチ説教をされた、残念な人がですね。


 連日猛暑続きのどこかの町に、いたっていう、お話なんですけどね……。

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「ツメがアマい」と爪に怒られたワケでつぬw 
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