①
彼との出会いは合コンだった。
私の男友達が大学生時代の友達を呼ぶというので、私も付き合いの長い友達を2人連れて行った。相手は5つほど年上の男性達。女の子はなんだかんだ年上が好きなので、友達も文句はないだろうと思った。
着くと、丸いテーブルの席に男の子が3人座っており、その端に彼はいた。あの時、目が合った瞬間から私は一目惚れしていたのかもしれない。なんせ今まで見た一般人で1位2位を争うほど顔が整っていた。明らかに彼だけオーラが違うと感じた。成り行きで隣に座ることになったが、その時は主催者側でもあったので、場を盛り上げることに徹し、彼にアピールすることはしなかった。友達と取り合いなんて絶対にごめんだ。
その後カラオケに行き、朝まで男女6人で楽しい時間を過ごした。
帰りに忘れ物がないか、みんなが部屋を出た後1人で確認作業をしていると、彼がドアの方で待っていてくれた。一緒にエレベーターで下を降りると、外はまだ日が昇る前で肌寒く、一気に眠気が覚めるほどだった。
「寒いよね。温かいお茶買いに行こうか。」
横で震える彼を見て、無意識に母性本能が働いてしまった私はコンビニに彼を誘った。他の友達はついて来ることはなかった。
2人で1つお茶を買い、一緒に飲みながら駅の改札に向かった。急に私達がいなくなったと思った友達から何回か電話とメッセージがきていたが、変に返信して疑われるのを面倒に感じ、無視をすることにした。
彼の始発の時間まで1時間弱。改札前で話している男女を見て、お持ち帰りされるかどうかという予想ゲームをし、アルコールと寝不足が相まって会話の内容がどうでもよくなった私は、今までの多々ある恋愛エピソードをつらつらと喋ってしまった。好意のある男性に過去の男の話なんて最悪だ。その内容は今でも思い出せない。思い出したくもない。
あっという間に時間が過ぎ、もう始発の電車が動きだしていた。
「あ、もう始発の時間過ぎてる。帰らなくていいの?今日内見行くんだったよね。」
彼は引っ越しを考えていると話していた。
「うーん。待ち合わせ場所この辺だから、家泊まってもいい?」
ドキッとした。こんなにナチュラルに家に来ようとする人は初めてだ。
(彼の家より私の家の方が近いし、効率面を考えてだろう。きっとそうだ。でも私の家に来るの?ちょっとは好意あるって事よね。)
内心焦りつつ、いいよ、と一言返事で返した。
(家も掃除していないし、肌荒れしてるし、どうしよう。でもこんな波長の合うイケメン絶対に離したくない。よし。1回目で身体を許すなんてことは辞めよう。)
家に向かう電車で、色んな事をぐるぐると考えた。
しかし彼は手を出してくることはなかった。かといってすぐ帰ることもなく、結局内見も行かず、夜まで私の家に居座った。帰宅後は別々にお風呂に入り、同じベッドで寝た。
私は時々起きて彼の綺麗すぎる横顔を眺めていた。1度だけ彼が目を覚ました時、私は寝たふりをしていたが、頭にポンっと手を置かれた感覚があった。その感触だけで、私は幸せに満ち溢れた。私は昔から頭を撫でられるのが好きだった。意表を突かれてしまい、余計に眠れなくなった。
夕方になり、お腹が空いた私は彼を起こした。
「そういえば料理得意って言ってたよね。一緒にご飯作ろうよ。材料なにもないから、買い物行こ。」
「いいね。服ないから貸して。」
私が持っている中で1番大きい服を貸した。
「これパジャマ?え、でもなんか似合ってない?」
私の服を着ているだけで愛おしかった。そして以外にも似合っていて、それを自慢してくるところも、全ての行動に心がときめいていた。
一緒に買い物をして、一緒に料理をした。思いついたのはオムライス。上に乗せる卵に自信がないという彼は、中のチキンライスは作ってくれたが、卵はそれぞれで焼こうと言った。
ちょっとだけ彼のプライドを感じて、彼を少しずつ知れている気がして嬉しかった。ケチャップでニコニコマークを描きお互いの卵の焼き加減自慢をし合いながら食べ、まるで付き合いたてのカップルのような時間を過ごした。
「俺、さすがに帰らなきゃ。」
時計の針は21時を回っていた。初めて出会ったと思えないほどに仲良くなり、心の距離が縮まっていくのを感じていた。彼の楽しそうに笑う姿を見て、きっと同じ気持ちだと思った。
あの時、私は夢見心地な気分で地に足がついていなかった。幸せになる未来しか見えていなかった。
帰り際、どうしても耐えられなくなった私は彼の首に手を回した。彼はすぐに強い力で抱きしめてくれた。それだけで良かった。言葉なんてなくても、彼のぬくもりから全てを感じた。あの感じた思いは、きっとあれは私の勘違いじゃない。
これだけで十分だったのに、それ以上の事を求めなければ、今でもあの純粋な気持ちのまま、真っすぐに向き合うことができたのかな。