第2話「通貨とお茶と県議会」
静岡県庁・議会棟。
午後2時ちょうど。
「おい、またか!また知事が“お茶通貨バウチャー制度”を始めるって言い出したぞ!」
県議会の一角で、怒号が飛んだ。
議員たちは資料を机に叩きつけ、ざわついている。
私はその様子を、モニター越しに冷や汗をかきながら見守っていた。
「アオイちゃん、なんか議会でちょっと炎上してるみたいだけど……僕、変なこと言ったかな?」
そう言って先ほど配信を終え、モニターを覗き込んでくる知事・北園颯一は今日もスーツにグリーンのネクタイを合わせている。
「静岡県民が飲んだお茶のリットル数に応じてしずコインを発行するって、どう見ても変ですよ!!」
「だって静岡といえばお茶だよ?これは通貨と文化の融合ってやつだよ?」
「県民全員に“飲茶アプリ”を配って、カメラでお茶の濃さをスキャンさせるのもどうかと思います!」
「お茶の濃さは、誠意の濃さだからね」
何を言っているのか分からない。
でもこの人、時々こういう変な名言(?)が出る。
「それで……しずコインの価値、今は?」
「えーっと、はい……また下がってます」
ホワイトボードに書き込まれる数字。
-9.2%
「……ああ、また茶色の相場か」
知事は冗談めかして笑うが、議会の怒りは笑いごとじゃ済まされない。
財政局からの抗議も来ていたし、農業組合からは「これ以上お茶の名前を通貨ギャグに使うな」と言われていた。
「このままじゃマジで県政がヤバいですよ。知事、一度落ち着いた方向で政策考えましょう」
「そうだなあ……次は、もうちょっと堅実な方向でいこう。例えば……県庁の屋上に“巨大なしずコイン像”を建てて、それをNFT化するっていうのは……」
「それのどこが堅実ですかーっ!!」
私の叫びは、午後の県庁に虚しく響き渡った。
……でも(たぶん)、この人の瞳の奥にある“静岡を盛り上げたい”という気持ちは本当のはずだ。
それだけは(たぶん)、信じてもいいと思っている。
……信じられる範囲で。