プロローグ
新作です。ホラーは初めて書かせていただきます。ミステリ要素も入れて、怖くする予定です。宜しくお願い申しあげます。
メイク用品を使う順番に、とくに決まりはなかった。リキッド・タイプのカラープライマリー(化粧下地)を塗った後に、パフでファンデーションを馴染ませてゆき、 コットンでお肌の毛穴の奥にまでに叩き込んでいく。
それがわたしのメイクの基本だ。
まだ午前八時前だというのに、カーテンの隙間から射し込む陽射しには殺人的な強さを感じた。
わたしは汗掻きだ。
顔に塗ったファンデは、わたしが外を歩けばすぐに汗で流れ落ちる運命にある。
ファンデーションは、それほど高価な物は選べない。ファンデーションに限らず、わたしのすべてのメイク道具はプチプラなものだ。
ただし、ファンデとマスカラだけは、水分で流れ落ちるさにくく、汗に強いウォータープルーフ処方のものを使っていた。
あとはUVカット率高めなものを。
アイラインを引き、ビューラーで睫毛をあげてから、ブラックのマスカラを塗り終えた時だった。
わたしのスマートフォンが着信音を鳴らし始めた。バイブレーションも同時にぶるぶるとなる。
メイクの邪魔をされたわたしは舌打ちする。
「なによ、こんな早い時間から。忙しいのよ」
独り言を言いながら、スマホのスピーカーを耳に当てようとした。
バックライトに光るスマホのディスプレイには、勝海の文字。
勝海は、高校一年の時からの友人で、付き合い始めてからかれこれ四年目に入る。
高校一年〜三年までずっと同じクラスで学び、今年から入った都内の大学も、崖部こそ違えど同じ学内に居る。
俗に言う腐れ縁というものだ。
『もしもし、あたし。わかるでしょ?』
勝海は、電話の向こうで妙に早口でそう訊いてきたのだ。
「そうだよ。もちろん、わかるよ。どしたの?慌てて」
と、わたし。
「実美、聞いて」
「うん。わかったから。何を?」
わたしの心も粟立ち始める程、不穏な空気を感じていられなかった。
そして、
「逃げて」
「は?」
「いいから、何も考えずにお逃げなさい」
「え?」
そんな掴みどころのない会話だったと思う。
が、そこでぷつりと通話はオフ状態となってしまったのだ。
彼女が切ったのか、電波の不具合で強制終了となったのかは判然としなかったのどけれど。
「え?」
通話が途絶えてからも、わたしは再びそう呟いていたのだった。
お読みになって頂きまして、誠に有難う御座いました。