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遠い存在




「訓練のし過ぎで意識を失ったそなたをすばるうたが連れて来た」


 覚えていないか。




 岩の家のぜんの自室にて。

 ベッドに寝かせていた上半身を起こした善は、同じ姿勢になった咲茉えまへと顔を向けた。

 すれば、咲茉の両隣で眠る詩と昴も視線の中に自然と入った。


「すまない。覚えていない」

「応援し過ぎたのではないか。詩と昴が気に病んでおった」

「いや」


 やおら口を噤んだ咲茉は善から外した視線を、ぐっすりと眠る詩と昴へと落とした。


「夕食も風呂も歯磨きも排泄も済ませている」

「すまない。私が世話をしなければならなかったのだが、マスターに迷惑をかけた」

「咲茉にこの二人を引き取るか否かの判断は任せたが、世話を一任するとは言ってはおらぬ。吾輩も。いや。全員で世話をかけ、世話をすればよい。詩と昴はそなたをここまで連れて来た。幼子だどうだは関係ない。全員で助け合えばよい」

「………起きたら詩と昴に感謝を伝えて、気に病む必要はないと言う。応援は。正直、なくてもあっても、変わらない。が。いや。少しは。どうだろうな。本当に私は。私自身の事をまるでわかっていない。意のままに動かせるようで、動かせていない。マスターはそのような事はないのだろう?」

「ああ。ない」

「ああ。それでこそ。マスターだ。世界を統べる紅の竜。とても私の手の届かぬ御方」

「届かぬ。そう、思い込んでおるゆえ、届かぬ」

「では。この思い込みは一生私の中に刻み付け続ける」

「距離を離したままでよいのか?」

「ああ」


 咲茉は手を伸ばした。

 すれば、いともたやすく善の身体に触れられる。

 髪も、頬も、唇も、無精髭も、肩も、手の指も、足の指ですら、いともたやすく。

 それほどに近い距離。

 けれど、遠い。

 触れたとしても、触れられたとしても、遠い。

 遠い存在。




「どうか。遥か遠い存在で居ていてほしい」











(2024.8.30)




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