嫌な予感
「ねえねえ、いつになったら日緋色金の翼を見せてくれるんだ?」
「なあなあ、いつになったら日緋色金の翼を見せてくれるんだ?」
樹海の森にて。
メンテナンス部屋から出て崖の頂へと駆け走って来た咲茉は、視界の先で広がる樹海の森を凝視しながら、幾度か深呼吸を繰り返してのち、樹海の森へと飛び降りた。
その先で詩と昴がいつものように待っていて、落下した時の衝撃で地面に空けた穴から出てきた咲茉に質問をした。
「翼を出せると思った時だ」
「「それはいつだ?」」
「わからない」
「あのねあのね。もう最初から日緋色金の翼を出していればいいんじゃないの?」
「あのなあのな。もう最初から日緋色金の翼を出していればいいんじゃないか?」
「………そうかもしれない。だが。今はまだ。出したくない。嫌な予感がする。飛翔できると確信がないのに、日緋色金の翼を出して飛翔の特訓をすると。翼が」
些細な事では傷つかない、などとは言わない。
日緋色金の翼はあらゆる現象をしなやかに撥ね退けてみせるだろう。
(マスターが手ずから創ってくれた翼だ。傷つく事も、あまつさえ破壊する事などあり得ない。と。わかっている。の、だが)
嫌な予感がした。
どうしても飛翔できると確信が持てないと、この薄く滑らかながらも頑丈の翼が、木端微塵に破壊してしまう。
そんな嫌な予感がどうしても、追い払えなかった。
ゆえに、咲茉は善に日緋色金の翼を身体に組み込まれてからただの一度として、表に出した事はなかった。
ずっと、身体の内に閉じ込めたまま。
「「日緋色金を出した方が飛翔できるんじゃないのか?」」
「………ああ。そうかもな」
咲茉は詩と昴に微笑んでみせてのち、危ないと言っては二人を少しだけ遠ざけると、崖の頂へと一気に跳躍したのであった。
(2024.8.30)




