手
私を殺してくれ。
そう、願い出たら、マスターはいつもの余裕綽々の表情で以て、態度で以て、纏う空気で以て、わかったと言った。
咲茉が望むのならば、幾度でも殺そう。
殺して、吾輩の手で生き返らせて、望むのならばまた殺して、吾輩の手で生き返らせて。
そなたが願うのならば、幾度でも、幾度でも、幾度でも、叶え続けよう。
それはいいな。
そう思った。
マスターの手で殺されて、マスターの手で生き返らせてもらえたのならばきっと。
私は、私自身に恐怖を抱く事はないだろう。
未来永劫に。
私は、マスターに恐怖を抱く事は決してないだろう。
未来永劫。
マスター、私の願いをどうか聞き届けてくれ。
逸る気持ちを込めて重ねて願いを口にするつもりだったが、できなかった。
口が、動かなかったのだ。
ああ、そうか、私は、私の夢の中でさえ、ままならないのか。
意気消沈する自分と。
これでいい。
安堵する自分が居た。
願い出るな、マスターに手を煩わせるな、死ぬなら自分か、ドクターの手で。
『咲茉』
願いはやはり叶えてくれなくていい。
動いた口でそう言うと、マスターは私の名前を口にした。
現実では一度たりとも見せた事がない、寂しげな表情を向けて。
『咲茉。そなたを殺すも生かすも吾輩の手で成し遂げたい』
『ただ願わくば、』
(2024.8.22)




