特製生姜蜂蜜茶
岩の家の台所にて。
咲茉の了承を得た善が咲茉と共に台所に行くと、咲茉をファブリックシートのロッキングチェアに座らせてのち、善は特製生姜蜂蜜茶を作るべく、壁にかけてあった小鍋を手に取ってコンロに置くと、冷蔵庫から牛乳と蜂蜜を、冷凍庫から生姜を取り出し、コンロに自身の炎を灯して火を点けて、小鍋に牛乳と蜂蜜を注ぎ、おろし金ですった生姜を入れて、とろ火にかけた。
ゆっくりゆっくりと、甘やかな牛乳と蜂蜜の香りがほのかに流れてきた。
生姜の独特の辛味も。
ゆっくりゆっくり。
ゆっくりゆっくりと。
瞼が重い。
咲茉は思った。
眠たい。
だめだ眠ってはいけない。
マスターがせっかく作ってくれているのに。
飲むと言ったから作ってくれているのに。
そう言っておいて飲まないなんて。
起きろ。
上眼瞼を下がらせるな。
だめだだめだ意識を閉ざすな。
起きろ起きろ起きろ。
咲茉は必死に落ちそうになる上眼瞼を上げ続けた。
けれど、善が焦げ付けないようにお玉を回す音が、まるで眠ってもいいと優しく言っているようで。
優しい香り。
優しい音。
優しい熱。
優しい気配。
全身が、全心が、優しさに包まれて。
抗えない。
そう思った瞬間、咲茉の意識は途切れてしまった。
「クハっ。よいよいそれでよい」
善は眠りに就いた咲茉を満面の笑みで見つめたのであった。
(2024.8.20)




