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新婚初夜に『トロフィーワイフ』と暴言吐かれて放置されました  作者: 鴉野 兄貴
終章 勝杯の乙女

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空を貫く稲妻よ

 扉が開かないのは想定通りです。


 お城さん、いえ『うたうしま』は何がなんでもわたくしを守る気概を持っています。


 我が背ですか。かは扉や壁や捕縛罠を剣で音もなく斬り進んでいきました。わたくしどもにはできかねます。



「お嬢様。かのもの使いましょう」

 よろしくてよ。


「スライムさん!」

 ぶんぶん。

 窓から透明な、腕のように伸びるもの。


「リュゼ様の危機です。ちょっちょとぴゅーんして、わっとしてぴょーんして、ちゃちゃんとお願いしますわ」

 ぷるんぷるん。

 あなたも反対なのですか。

 ままよ。


 ミカ。飛びますよ。

 わたくしどもは窓が急激に狭まるのをかわし、宙に身を踊らせます。


「ひぃやあああぁぁっ?!」

 いい下着ですね。ミカ。


 すかさずスライムさんの手(?)がわたくしどもを引き寄せ、お城の地面はわたくしどものいのち守るべく大きく跳ねます。


「ちょっとだけ……お転婆しますわ!」

 家伝の鉤縄を遥か彼方へ。


「ひゃひゃふわわわぁぁ〜〜?!」

 そういえばミカは高いところが苦手でしたね。


 二人分の衝撃を片手と手袋で抑えて大きな振り子運動と共に天翔けるわたくしどもを童たちが指差しており。


「あ、マリカもミカもずるい。楽しそう」

「フェイロン! それなら今すぐに代わってくださいまし!」

 異形の槍を手に子供たちを聖堂へ逃していたと思しきフェイロンの声。


「奥様なにしてんのー?!」

 ミリオンが叫んでおります。

 ごめんあそばせ。


 我ら主従まいおりし屋根の上ではポチとタマが戯れ合い、二つの尾でハートを作っておりました。

「マリカ?」「ミカ、なにしてるの」


 わたくしはミカを姫君のように抱えてよろけつつ。


「少しばかり、お城さんと喧嘩をいたしまして」

 その返事に猫又たちは愛の営みを続けることにした模様。

「なるほど」「頑張って」


 そのまま耐えきれず、わたくしはミカを抱えたまま尖塔のひとつを駆け降りて行きます。

 ほとんど垂直落下ですねこれは。


「お嬢様ぁ!? 儚くなってしまいます!」

 大丈夫です。レッドロータスは身体能力を強化し動きと反応速度を補強しますゆえ。


「レッドロータスの性能を信じなさい。

 あまり想定したくなきことですが致命傷を受けても多少ならば意識を保ったり保たせることも任意にできます」

「いやぁああああっ?!」


 これはこの地にて身につけたおくすりの知識による追加機能を今わの際に必要かもと急遽つけたものですが使いたいとはおもいませんね。



 わたくしは童が喜ぶ回転ランタンの影絵のごとく尖塔を飛び、さらにもう一つの尖塔を駆け。


「ところでお嬢様、下着つけましたか」


 貴人にする質問ではございませんね。

 わたくしは鉤縄をうちだし、横回転で空を駆けます。

 このようなことをするときはつけるものです。ミカの冗談には惑わされなきよう。


 ミカは目を回しておりましたが、やがて正気を取り戻し。

 わたくしが胴を抱えて飛ぶ中、彼女は親指と人差し指を丸めて大きな指笛を鳴らします。


『ピューイ!』

「ミカァ」「マリァー」「ヨンダー?!」


 白い羽毛の塊3つが鶏小屋を壊し駆け抜け走りわたくしどもを背に乗せ。

 わたくしども勢いころしきれず3羽の羽毛の上で3回飛び跳ねます。

 一度目はお城が、二度目は空が、三度目は海が見えました。


「うっわわわ」


「ミカっ?!」

 よろけ手を離してしまい、空を掻いて。

「お、お、お嬢様ぁ?!」


 ゆびさき触れかけされどつかむことかなわず。

 されど。


 青天の霹靂。

 いかづちと共にわたくしめとミカを捕まえるものどもあり。

「マリカぁ。君まで空を飛んだりするわけ?」「無茶苦茶すんな!」


 ーー異形の槍と共に天翔け天を割る嬰児みどりごありその名は尊者飛竜(フェイロン)。『無能』と呼ばれし名もなき英傑の伯父にして、幼子たちの守護者。ーー

「……ふぇ、フェイロン?!」「ミカぁ。マリカ連れ出しちゃって、デンベーさんに言いつけるよ。あの人リュゼたちが教会から帰ったら即座に帝国まで買い物しに行ったんだから」


 かはミカをそしてわたくしをやさしく抱きとめ。


「ほい、ミリオン。ぱす」

「ぱすじゃないっ! おっとっと!」


 慣性を無視してふわりとミカは宙を舞い、もう一人の童の手元へ。


 ーー竜を滅する益荒雄ますらをは、いくさから離れれば凡庸放心眠たげでお菓子を喰み眠る幼子なり。百万の星の下生まれしは福者ミリオン。かのミスリル王家の祖ファルコと無能と呼ばれしものの父ーー

「ふぁああ。まったく。めちゃくちゃびっくりした。二人ともなんで空飛んでるのさ」

 かはミカをやさしく抱き止めると尖塔をいくつも飛び越え、まさに八艘飛び。


「…… 怪力乱神の類の兆候確かにごさいましたが、ふたりは異教徒の祭る神々の伝承を教会が取り込んだ頃に聖者や福者や尊者や天使とされた守護神たちの二柱ふたはしらなのでしょうね」

「マリカぁ。まだ僕は4歳のぴちぴちの若人だからそこのとこ忘れないで」「げっ?! ただ長生きしているだけなのに」


 確か『夢を追う者』たちの記述を信じるならば彼らが活躍していた英雄時代の時点でフェイロンなるものは300歳とたわけており、ファルコの父は50を超えていたと。フェイロンがかの記述の人物と同一とした場合、魔王なるものが実在しうるとしてもかのものより歳上でしょう。


『……フェイロン抱きしめて寝てたりした』


 ミカなら上のごとき感想を抱くでしょうね。

 もっとも今は抱きあげられる側です。



 塩の香りに血が混じった気がいたしました。

 それはことばに残る呪いのような。


「マリカ、ちょっと悪いけどぼくはあの海にいる磯焼き候補どもに用があるんだ。ミリオンといって欲しい」


「先に手を出すと外交問題になりますゆえ」


 どうしてこのように利害ずくの言葉をはなったのやら。なぜに養い親として優しい言葉をかけてあげられなかったのでしょうか。


 細く短い腕でわたくしを抱き上げるかれは普段の愛らしい笑みと異なり勇士の笑みだったのです。


 その笑みは短い間ながらわたくしどもの養い子だったからかリュゼ様に似ております。


「先に手を出したとか関係なく変なビームうってぼくを消し去ってから海賊衆が手を出すのをお茶でもひきながらのんびり待つつもりじゃないかな」


「では養母として容認できませぬ」

「……おかあさんか。そういえばマリカはお仕置きとかしたことないね」

 我が背がつれなくするたびどれほどあなたが慰みになってくれたことでしょう。

 わたくしが至らないとき幾度あなたがわが妻にこころを繋げてくれたことでしょう。


「ひとりであの海軍に挑むならば一生おやつぬきです。『世間広し』の書き付けもいたしません。行ってはなりませぬ」


 空を舞いつつもわたくしどもには暴風も波濤もありません。


 かれはわたくしをながめています。

 いつのまにかわたくしのドレスを握っていた童の顔で。


「うん、まぁ……大丈夫だよ。お養母様かあさま


「根拠は。検証は」

「僕はアルダスよりはわるいやつだからね」


 あなたはいつもではないですか。

 犬猫に始まり数々の珍獣、寄るべなき子供たちを幾度連れて帰ってきたことか。



「それに、僕は、僕らは戦いが終われば皆の記憶から消えるから」

 どういうことですか。問う前に彼は「ついたついた」とわたくしを丁寧に立たせます。


 そこはお城の上に増設した巨大な倉庫もどきです。

 ここは。


「ボビィ! ヌル! 準備はできてる?!」


 フェイロンめがよびかけますと強いアザレアの香水が鼻腔に。


「はいはい…… 養い子さま。ヌル(ゼロ)って私の幼名なのによくご存知で。

 あなたさまと同じ名前のやつがつけたのを思い出した。あいつ元気かしら。顔も声までもそっくり。親戚とかにいらっしゃるの」

「違います。ヌル。ぼくは領主様と奥様の養い子ですよ」


 平然と嘘をつきましたが全て違いなく。

「あのクソ養父おやじは会ったらぶっ殺さないと」

「わー。怖い」

 確かに悪い子ですね。フェイロン。



「こんにちはM様。おかわりございませんか」

「バッカナルディーヌこそ息災のようで」


 娼婦のごとき流行遅れのドレスにて胸元を誇らしげに魅せるとともに年齢相応の厚化粧似合う三十路の美女はわたくしの学生時代の通称で呼びかけてきました。

 隣にかけてくる従者兼自称護衛の少年はわたくし共と同い年くらい。

 この者ども学生時代にお会いした時はリリ村という地にて酒場の店主をしていました。


「あ、ナルルさんお久しぶりです」

 ミカは普段は抱き止めて戯れあるいは食料倉庫侵入を謀ったメイとともに吊るされる複雑な間柄であるミリオンの背中から降りてふらつきながらも挨拶をしました。


「変な組み合わせだねぇ。奥様たちと何しているのミカ」

「いろいろございまして。……うぇっぶ」


「みんなで空飛んでた」

「ちょっとこのバカがパスしやがって」

「ははは。養い子様もミリオンも変なこというね」


 複数の名前を使い分ける彼女は、冒険者としてはミカの姉フミュカが師匠で、どこでどなたから手に入れたのか(※先ほど悟りました)3代も前の爵位証明を用いて犯した多数の結婚詐欺容疑がかかっております。


「奥様だ!」「奥さまー!」「わーい!」


 大倉庫を偽装した施設のあちこちから下は一〇歳未満、上は六〇を越すむすめ御婦人方たちが。


 彼女たちは最新ではメイが辞意を表明し、あるいはその前にサフランが出産し、またチェルシーが懐妊したこと判明したため雇い入れた新人たちです。


 奴隷娼婦貧農職人詐欺師巾着切り騎士貴族など経歴多々あれどいずれもお城さんが認めた一芸あるものたち。


 中にはわたくし共に大小あれど害意を持って訪れたものもいるのは愛嬌のうちです。


 皆一様にドレスや作業服を油まみれにし、図面を描き金具を手にしております。



「調整は済んでいますよ。奥様」



 わたくしが普段存じておりまする彼女は肺を病み、伏せっている長きいとまに足腰や背までも曲げ、歩くときも杖を必要とする温和な老婆、単に兵士ポールの祖母でした。


 されど。

「ロベルタ。童の頃幾度『翼よあなたには太陽王国の灯が見えますか』を読んで空を飛んでみたいと憧れたことでしょう。『夜間飛行』『天界聖域』『秋津虫開発ノート』も熟読いたしました」


 公認開発機体48と撃墜数245を誇る『空の冒険者』『紙の月』『被撃墜王』『殺さずの翼』『俺らの天使』。


 空の英雄『ロベルタ・リコ・アクアマリン』。



「やだねぇ。『ボビィ・トッド』とかリッキーとよんで欲しいのに。あと奥様が読んだ本は無許可の伝記で迷惑しております。技術書や制作ノートは役に立ったようですけど」


 それが今はどうでしょう。

 髪は白くプラチナになれど、闘志それ以上に輝く瞳は魔導黒水晶のゴーグル越しでも見逃すことなきもの。ポケットがたくさんついた飛行服に守られし小さな背はまっすぐに伸び、腿の膨らんだズボンにつつまれた二つの脚を大きく開きて革のブーツを履き、腕を組んで立つ勇姿。

 黄色いマフラーを厚く巻いたその立ち姿は、まるで16の娘のように凛々しく美しく強く愛らしい。


 飛行帽に防寒耳当てをつける一瞬、すこし尖った耳が垣間みえました。



「ロベルタ。私も見ました! 本を奪い合って真っ二つにしてしまってクソ親父とクウカイ様双方からお嬢様とゴッツンコの刑を受けてお互い背中合わせて別々になった本を二人で読んでました!」

 余計なことを口にしないで。ミカ。


 それを聞いて女の子たち御婦人方は一様に笑います。

 わたくしが照れ隠しに扇で口元を隠す中、思い出すのはあの本のこと。


 あえて修繕せずお互いがお互いの本の中身を読み合う遊びをしたかつての一冊はミカがこの地に向かう際に御者のピートの目をかわして座席に隠し、今はわたくしどもそれぞれの書棚にサイン入りで。



 倉庫を偽装したこの施設。

 ここにはロベルタが歴史から姿を消すきっかけとなった帝国との和平条約に反するものがあります。


 飛行機です。



 当地は海賊どもの本拠地。

 かつて大空をかけた空族どもの末裔、空の冒険者の系譜は藩王国山間部とこの地に集い、旧式ながらも王国が保持することを許されし機体数を超える飛行戦力が未だこの地には残ります。


 そして、40年の時を経て、天才と呼ばれしロベルタ最後の作品となる翼がここに。



 従来の前方プロペラは機体後方に。

 後尾翼の方が大きなデルタ翼。

 一般的な複葉機ですらなく。

 武装は前面原動機は後方。


 ミスリル粉構造色塗装まで用いて限界までの軽量化と高武装と防御力を併せ持つワンオフ機。


「開発コードJ7W『いかづちふるえるとき』。奇跡を呼ぶ翼がただいま完成いたしました。

 ポールは……孫たちは領主様たちと行ってしまいました。見せてやれず残念ですわ」


「いつでも飛べます!」「お弁当をお持ちください!」「ワインも最高のケイブルワインを用意しています。バスケットに入れました! 今年初めて当地でできたものです。まだ味は本国に及びませんが来年はもっと美味しいものが」「芋尽くしもあります。載せられるかしら」


 女の子たちが一斉に姦しく楽しげに。

 かつてのロベルタを知っていたか否かは別として今ここに集いし娘たちはかつての酒場店主を筆頭に彼女の後継者たちです。


 もちろんわたくしとミカも。



「お嬢様」


 私のそばに控えるミカがつぶやきます。


「なんなりと」

「ライムの実家にこんな言葉があるそうです。『夢を追うものたちに不可能なし』です。かつて『黄金の鷹』フィリアス・ミスリルが父ファルコ・ミスリルと共に旅立つ際に執事だった妖精が伝えたとされます」


 神のみつるぎをめぐるものがたりなら調べてあります。

 愛する人々の記憶から自らが消えてしまうことを代償に全てを救わんとする勇者の運命をよしとしない養娘が心の翼広げて全てを救わんとするお話。


 そして『夢を追うもの』とは私ども『車輪の絆』の民において冒険者のこともさします。



「私も冒険者と呼べるでしょうか。淑女のつもりでございました」

「えっ。お嬢様そうだったのですか。長いお付き合いですが初めて存じました」

「あたしも地主のむすめだったからいいんじゃないかな。魔王に飛行機作りを教えてもらってこのザマさ」



 魔王、ですか。ロベルタは楽しそうな冗談とともにわたくしどもを促します。


 何故かわたくしの脳裏に師であるディーヌ伯爵夫人の顔が浮かびました。

 微妙ながらロベルタに雰囲気のようなものが似ているのです。


『夢を追うものに不可能なし』


 フィリアス・ミスリルは心の翼を具現化して空を飛ぶこと、運命をも覆したと伝えられております。


 わたくしは己の愚昧さで母の忠言を無視して母を失いました。


 そして今またも大切な方を失うか彼が彼でなくなる岐路にあります。

 どちらもお断りいたします。


 たとえ倒れ伏し幾度涙に濡れようととミカの母ノリリのように幾度でも立ち上がります。


 わたくしどもの心にある翼を広げて。



「ちょっと人数オーバーだけど、ミカも乗るのでしょう。お嬢様方、空のデートにエスコートします。お席についたらシートベルトを」


 ロベルタの微笑みと共に原動機のうなりが轟き、暴風と共に今、我らを守る震電が飛び立とうとしております。

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