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新婚初夜に『トロフィーワイフ』と暴言吐かれて放置されました  作者: 鴉野 兄貴
序章 王都からきたご令嬢、推しの辺境騎士にグイグイ迫る
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悪役令嬢秘密の逢引(?)を楽しむ

『で』

『どうして奥様』

『こうなったのか説明していただけますか坊ちゃん』


「たくさんたくさん男を連れ込みました!」


「……なぜ胸を張るのですお嬢様」

 乙女の武器は有効利用とはアンのアドバイスです。



 にゃあにゃあにぁあにゃあー。


「男というか」

「オスですね」


「メスもいますわ!」

「わ、わたし猫ちゃんアレルギーだからお嬢様申し訳ございませんが抱き上げるのはおよしください!」


 こんなに愛らしいのにミカったら。残念ですわ。


「みゅう」

「この子は」


「フェイロンと申す孤児のようです」


 齢三歳以下(嬰児)でしょうか。

 嬰児みどりごだけに名前以外わかりませんでしたがいつのまにかわたくしのドレスの端を握って離さなかったので連れて帰りました。


「とりあえず行方不明の子供がいないか触れを出しているが、芳しくないな。この領地にはまだ孤児院はないのだ」

 それはよろしくございませんね。


「……ねこは捨て……」

 うるっ。

「この子供は捨て」

 うるうるうるっ。(×3)

 何故か猫たちも潤んだ目で彼を見上げております。



「どうしておまえたちは会ったばっかりでそんなに息ぴったりなのー!」


 いえぃ!

 ミカとフェイロンは共に手をパチン。

 少々下品ですけど。


 さて、このような結果になった経緯を語らねばなりませんね。少々前後しますが皆々様ご容赦くださいませ。



 ……ここが『ひざのまち』ですか。

 とにかく寒く今どき本国では伝説となりつつある魔物が堂々と、かつ次々と出現するため、帝国ですら領有権を放棄した不毛の土地と耳にしましたが案外発展していますね。



「こんな辺境に人材なんてと愚考致しましたが、なんとかなるかもしれませんねお嬢様」



 リュゼさまは『まだ脚が痛むはずだ』と、車椅子を貸してくださいましたが、実はもう回復しています。

 スライムさんが一晩足首を包んでくれましたら全快いたしました。


 それでも黙っているのは彼の贈り物を堪能したいがため。嗚呼これが乙女心というものでしょうか。


 領主の館(城)は高台にあるので、少し進めば街の様子は一目でわかります。


「お嬢様。お嬢様。いまだ放心に囚われていらっしゃるのですね。

 仕方ないですよね。あんな酷い目にお遭いに……」


 ミカ。ちょっと気になることが。


「奥様」

「へ?」


「奥様です」

「……了解致しました。奥様」


 ああ。なんで美しい街でしょうか。この街こそわたくしとリュゼ様が共に土に還るまでの(※以下略)。


「お嬢様。戻ってきてくださいませ」


 ミカ曰く、『奥様』と呼ばねばならないのはわかってはいたのにタイミングを逸したとのことですが。


 車椅子で進むのは大変不便な道をくだり、なんとか街に到着しました。ミカは肩で息をしています。


 やっぱり歩きます。

 ミカ、乗りますか?

 冗談です。全く。


 結局、わたくしたちは『護衛騎士』様に車椅子を預けて歩くことにいたしました。

 令嬢というものは歩かないもの。

 かような常識は我が実家では通用しません。



「やっぱりあなたからは『お嬢様』の方がしっくりします」

「『奥様』と呼ぶたびにあっちの世界に行きますからその方がわたくしめには楽ですね。

 それにほら、お嬢様って作詞の才能はイマイチですし」


 どういうことですかもう。

 どなたもこちらを見ていないことを幸いとし、わたくしが子供のように少し頬を膨らませて見せると、彼女の頰もまたリスのように膨らんでおり。


「ミカ。それは」

「ぶごふご。みしゅらぐぶう山のくしぃやひぃてす……ごくんお嬢様」


 食べてから返事なさい。


「コカトリス肉と野菜忍憎草の根と鬼オーンを串焼きにした精進料理です。庶民や兵士の軽食として人気です」


 下々は毒となる魔物をうまく調理するのですね。


「海串もあります。これは毒などありませんしおススメですよ」


 先ほど目に入れてしまった調理風景を振り返ると、遠慮しておきましょう。



 実際に見るのと書物は違います。


 人間というものは見たいものだけを見て、そうでないものには関心を持たないものです。


 書物とは読書中のみの自らの死。

 そし読書中のみの他者のいのちの体験です。



 この地はわたくしの調べた通り寒冷な土地ではありますが、実際に見て歩く限り魔物を食する前提ならば豊かな場所ですね。



 王国のあざらし漁民が襲撃された事件が外交問題になりかけた時に、帝国の外交官がうっかりあそこは化外の地だから責任はないと漏らさなければ王国が占領することもなかったことでしょう。



「……ミカ」

「はい?」


 懸念事項が出てきました。


「わたくしたち、その」

「あ、お嬢様のお食事には魔物は含まれていません。ここには本国で出回っている食材も豊富にあります。ほら、あれなんて邪眼芋と酸苺でしょう」


 それもまさしく小型で害はなくとも魔物ですよね。庶民は喜んで口にしますが。



「このあたりでは『秋魔物は嫁に食わせるな』といいます。栄養豊富で逆にお腹を壊すことがあるそうです」


「是が非なり。今夜にでもミリオンに用意を」

「だから、お嬢様! どうして無理に魔物などお召しになさらんとするのですか?!」



 ーー主従二人が戯れているのを見て、辺境伯リュゼは呟く。


「小さなレディは一体何をしているのだ」


 そして『若い娘はわからん』とぼやいた。




 辺境伯リュゼは建国の英雄たちの子孫ではあるが、実質剣一つで成り上がった猛者である。


 現王が認める『学生時代の悪友』でもあるが、特に『ひざのまち』ができる前、この地には海賊の本拠地があり、その懐柔に尽力したことで名をあげたのである。


 一人で乗り込んで並み居る海賊の猛者たちに片っ端からボクシングを挑んで全部殴って回った。

 そのあと大量の酒を持ち込みこちらでも勝利した。

 それは懐柔と言わない。



 めちゃくちゃ慕われた。


 海賊たちは民主主義でリーダーを決める。

 圧倒的な得票で最強の海賊団が爆誕した。

 この地において初の海賊勢力の統一が平和的(?!)に成された瞬間であった。


 辺境騎士リュゼ24歳の時である。



 しかし、問題が起きた。


「俺、船に乗れないぞ」


 生まれ持っての船酔い体質である。

 その後、海賊騎士としてちゃんと下っ端からやり直し、船酔い克服して今に至る。



 この地とその住民は元海賊(※現役?!)だけあって人々は豪快。辺境でありながら交易品目は多く、そのまま辺境騎士爵領として王が認定後、リュゼが支配する『漁民』が帝国に朝貢ちょうこうする蛮族に襲撃された時、リュゼはその若さにも関わらず全権大使をも務めた。



 国王:「任せた(はぁと)」

 リュゼ:「ざけんなクソ野郎!」



 帝国の回答は明快だった。


『化外の地において貴国の民が被害を受けたという。確かに彼らからは朝貢は受けているがアレらはただの野蛮人だ。よって我々には関係ないし当然責任はない』



 それを聞いたリュゼは速攻でひざのくに半島山間部の蛮族たちに『話をつけ』にいき、こちらでも最も遠くまで石をぶん投げ見事な歌を披露して蛮族の各族長を唸らせ、初の大酋長となった。辺境騎士改め未来の辺境伯リュゼ30歳の時である。


 これは王国の辺境領にして実質独立国である『ひざのくに』建国神話の一部となる。ーー



「……つまり、リュゼさまはすばらしいお方なのです」

「すごい変人に聞こえますけど、たった2年そこいらでここまで発展しているのを見るに慕われているのは間違いないようですね。というかますます人間ですかって感じで」


 本人を前にして暴言を放つミカ。

 首がいくつあっても足りませんね。



「そうです。わたくしが幼いときに国王陛下の元によく父と遊びに行きましたが、その時遊んでくれた騎士のお一人です。とても素敵な方です」

「こ……あんなチビデブハゲモジャモジャのどこがいいのかさっぱり。こ……あいつにもお嬢様のお血筋にもドワーフはいなかったはずですが」


 もう。頭は兜のため剃るのですよ。

 それに血筋なぞ本人の意思とは無関係ですわ。


「あの方にはドワーフの血筋などはございませんが、ミスリル王家の血筋ならありますよ」

「きょうび王族や大貴族名乗る家なら真偽や血の濃さはさておき大抵『破魔の真銀』かその分家三姉妹『日輪の翼』『星の鬣』『月の鰭』の子孫を名乗りますよ」


 うちくらいじゃないでしょうか。『本家も陪臣も関係ねえ! 誰もが文句つけられない奴が当家のカシラだ!』な海賊の掟のまま貴族名乗っていて、他家の血筋を取り込むのに無関心なのはと彼女は続けます。


 わたくしたちの三代前の祖先は海賊ですからね。


 本拠地を得るべく建国戦争に加担して、しれっと神具の守護者に収まりましたが。



「王国はまだ歴史が浅く、帝国と争うにはまだ力不足です。

 この『ひざのまち』の存在意義は今後ますます高まることでしょう」


 わたくしのことばに彼女は続きます。

「帝国の連中。あいつら人間なんすか? 親父たちがいうには兵隊なんて見たことがないらしいですけど」



 少なくとも『外交官』は人間の姿をしていますよ。

 時々あなたが宣うように頭がぱかっと開いて刃物になるという偏見も耳にしますが。



「帝国貴族は民を奴隷と呼ぶものの、奴隷の経済的自由や移動や法的平等など待遇はむしろ良いと耳にします」


 バーナードを見るに彼はものすごく優秀です。

 何もない身から立身出世するなら帝国という選択肢もあるということで今も密航者がいますよ。



「なら奴隷なんて非効率なこと普通はやりませんよね。前に話しましたが、こちらと目を合わせませんしマジでキモい連中ですよ。ミミックか何かが頭だけ乗っ取っているんじゃないかって祖父が」


「ミミックには知性などありません」


 しかしながらわたくしの知る限りでも帝国に移住したものの多くで行方不明者が続出しているようなので不可思議ではありますね。


 三代にも渡って戦っているにも関わらず、我々王国が帝国についてあまりにも無知なのは間違いありません。



「もう少しわが国は諜報に力を入れねばならないですね」

「寒いのはさておき税金や徴兵が『無くて』暮らしやすいということで、かなりの人間が依然帝国に住んでいますけどね」


 支配層を維持するために必要な経費が不自然なほどに安価で効率的という情報はありますね。


 お母様の首飾りに傷の位置まで一致したものをお召しの帝国貴族令嬢を見かけたことも幾度かあります。



「まぁ、連中が生理的にキモいのはさておき、我々庶民にとっては税金取られたり兵隊に取られないのは大きいですからね」



 その通りですわ。帝国の民は安心して経済活動や子育てや研究活動に邁進していると聞きます。


 工業も農業も福利厚生も交通網も全て素晴らしいと耳にします。


 わたくしたちはお話に花を咲かせつつも、もし本国ならば足を汚していたであろう凍った轍と汚物に塗れた大通りを遅々と進むのです。



「……お嬢様。あのようなものまであります」


 見ると露店で庶民向けのアクセサリーまで。

 これは王都でも見られないものですね。


「わっ! ガラスのアクセサリーだ! すごっ。

 しかも頑張れは買えるくらい安いですよこれ。

 デザインも王都のものとほぼ変わりません。

 同じものがこんなに……いえ、これは……」



 このアクセサリーは帝国のものです。

 驚くほど規格化されていて、高い技術を感じますね。



「帝国のアクセサリーはすぐわかります。

 はっきり言って可愛くないんですよね。


 計算ずくというかなんか見た目だけ綺麗に取ってつけた感じです。これなら其処らの貝殻でも拾って作ってもらった方が嬉しいですよ」


 帝国製品とわかったとたんにミカは急に言を翻し早口になります。左耳が動いていましてよ。


「あら、あなたにそんな浮いた話がありましたか。

 いつも一緒ですから存じませんでしたわ。


 そんなに気に入らなければ戻したら如何かしら」

 彼女は誤魔化しに入りました。

「それよりお嬢様、このアクセサリーはどうでしょう。可愛らしくて暖かい雰囲気がお嬢様にピッタリです」


 わたくしはかような庶民向けの品を身につけることは叶いませんが、その貝殻のアクセサリーは愛らしいですね。


 でもわたくしから見て帝国の黄金比に基づいて構築された精緻なアクセサリーこそあなたの神秘的な美貌にあっていましてよ。


 帝国のガラス細工技術で作られたアクセサリーの美しさとガラスの純度は、王国における宝石細工のそれより見た目の上ではまさります。


「わたくしの知るいかなる美姫よりあなたは魅力的なのですから自信を持ちなさい。あなたがまとえばたとえガラスでも最高の宝石より輝きます」

「そ、そ、そ、そうですかね。うーん。帝国のって耳にするとどうしても」


 そういえば、お父様が『おまえ達二人が連れ立って歩くとめちゃくちゃ目立つからマジ勘弁』とおっしゃっていましたね。


 お父様は貴族というよりまだ海賊が本質なので、彼と街を歩くとおもしろきことばかり起きます。



 例えばこんにちにおいて、お父様の代わりにリュゼ様……に、『似た方』がとても大変そうにしていらっしゃるのは。



「ざまあ」

 ミカ、もう。ふふ。


 とはいえ、わたくしどもほどになると魂なき汚物や泥すら避ける美貌ですから、『目立つな』という方が無理なのです。

 そこは最初の約定を守れず、彼には申し訳なきことですね。



「普通の人間が言えば嫌味ですからね。お嬢様」

 あら、あなたも遠慮しなくなりましたね。



 もっともをんなというものは老いも若きも醜女も美女もおのれの美しさを『慈愛の女神』と『秩序の創造女神』に准えても神罰が下らないものです。

 では次のお店へ。



「あ、わたしたちがつけていたアクセサリー、完売しましたね」


 わたくしたちが立ち去ってもリュゼ様……そっくりな方は交通整理に追われておいででした。



「おすな。おすな、ちゃんと並んでくれ!」


「なんでぇ。領主さま。奥様とデートですか」

「この色男。闇夜でも勇者ってか?! あんな佳人とどんな良いことしたか、お前のすることは、まるっとすっとお見通しでぇ! さぁあんな若い娘相手にどんな酷いことをしたんだね。言わないとこの首飾りは売らないからね!」


「さらっと押し売りされていますね」

 ふふ。



「エナカ婆さん俺にも奥様が手に取ったのくれよ! 母ちゃんとケンカしてんだよ!」

「アクセサリーのユマキさん、私達にも売ってよ! 酒場で一カ月アルバイトしたんだから!」


「はいはい。今日の目玉は香りいりの……」

「これ以上往路を混雑させないでくれエナカぁ!」


 こんなに寒冷な土地なのに、装飾品に対するをなごこころとはいくつになってもおそろしきこと。



「じゃ、あんたたちは頑張った御褒美にあかぎれに効く薬をつけてあげるよ。そしてこれ。奥様もびっくりの綺麗な爪になる……」

「あっ!」「それいい!」「なにこれすごい! きらきらしてる!」


「ふふふ。新製品だ。これは真珠貝を削って玉をつけた付け爪じゃ!」

「えー!」「欲しい欲しい!」「なにこれすごい欲しい!」



「え、え、お嬢様、わたしたちも行かなくていいのですか。なんですか付け爪って。王都でも見たことありませんよ!」


 あの商品はわたくしたちのためでなく、常連の町娘さんたちの苦労を考えてあの方が開発したものでしょうからやめましょう。


 わたくしが買うとみなさんが買えなくなるほど高くなってしまいます。それはあまりにも心苦しいのです。


 とはいえわたくしが買わずともあれはまこと良き品。

 買い占めて王都で転売したり勝手に専売許可を出す不届きものや模倣した粗悪品を売るものがいたらあの方の志が無駄になりますね。



 あの品の技術的な絵解きをするならば。


「たぶん、コオイムシという珍しい昆虫のメスがオスの背に卵を乗せるときに使う接着物質のようなものを用いて装飾品を取り付け貝殻が割れて手を怪我する事故を防ぐのでしょうね。

 接着物質は生まれた幼虫が出す酵素を用いることで剥がせるはずですから、脱着も容易。爪にも無害です」

「さすが海賊の本拠地、なんでも揃うのですね……そのくっついて離れるコーソ? だけでも親父に買ってあけようかな。鉄みたいなのもくっつくのですよね」

 あら、いつも罵りことばばかりで心配していましたが結局仲良しなのですね。



 こちらは絶滅したというユニコーンの角かしら。

 帝国が禁制品にしたことすらもはや伝説ですけど。



 リュゼ様、もとい護衛騎士さまはつかず離れずついてきてくださいます。


 ところで、これって逢引ですよね。



 さて、次は何処を見て回りましょうか。

 わたくしの辺境騎士さま。しっかりエスコートしてくださいませ。

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